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『ハコヅメ』『永世乙女の戦い方』から考察する、アスリートと月経の向き合い方

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!

本日の【漫画描写で学ぶ産婦人科】はこちら。

泰三子先生『ハコヅメ』と、くずしろ先生『永世乙女の戦い方』より、アスリートと月経に関する考察です。


女性にとって決して愉快でない毎月の出来事、それが月経(生理)です。
一部の例外を除き、女性である以上この問題は避けては通れません。

漫画でも時々、この問題がテーマとして触れられることがありますね。

私を含めた男性にとっては縁遠く完璧に理解するのは難しい問題ですが、
女性にとって月経とは何なのか、それをケアできる医学的な方法については知識として持っておいて損は無いはずです。

『ハコヅメ』

では、まずは『ハコヅメ』の描写を見てみましょう。

主人公の川合巡査は月に一度、女性機動隊として合同訓練を行っています。

出典:ハコヅメ 119話

生憎この日は生理2日目
同じく女性警察官である桃木分隊長の助けと、箱船級の巨大ナプキンにより訓練は何とか終了します。

出典:ハコヅメ 119話

訓練終了後に巨大ナプキンは殉職し、大量の汗と経血は訓練服にも染み込みまくっていますが、
桃木分隊長のケアもあり無事に警察署に戻るのことができたのでした。

出典:ハコヅメ 119話

警察官の公務はスポーツとは異なりますが、肉体労働であり、時には男女の別なく動かなければならない過酷な仕事です。
「男女差別」はあってはならないですが、「男女区別」は必要ですし、その区別における重要事項のひとつが「月経」です。

リアルなエピソードを交えつつ、コメディの枠内でこれを伝えられる泰三子先生の漫画力には脱帽ものですね。

『永世乙女の戦い方』

次に『永世乙女の戦い方』を見てみましょう。

『永世乙女の戦い方』女性の将棋棋士の戦いを描いた漫画です。
現実の将棋界でも男性と女性には明確な実力差があり、
いわゆるプロの「棋士」「女流棋士」は別枠として扱われるほどです。

そうした状況でも信念や目標を持ち、将棋の世界で戦う女性たちが熱く描かれた作品です。

出典:永世乙女の戦い方 28話

本作中に登場する夏木小百合(なつきさゆり)51歳のベテラン女流棋士です。
高校生時代は奨励会に入会するほどの凄まじい棋力を持ちながらも、月経に悩まされていました。

その苦しみはかなりのものだったらしく、同期の四条先生(男性棋士、のちに二冠にまでなる)に勝てるほどの力を持ちながらも、棋士の夢を諦めざるを得ないほどのものだったようです。

出典:永世乙女の戦い方 30話

のちに夏木は一子をもうけ、女流棋士に転向し、
年々強くなることから「魔女」とすら呼ばれるまでになり、主人公の早乙女の前に立ちはだかります。

その後の早乙女や夏木らの戦いは本編をどうぞ!

月経とは?

月経、いわゆる「生理」は月に一回起こり、腹痛や出血による不快感などを伴います。

さらに、月経には女性ホルモンの増減が深く関わっています。
ホルモンは体内の様々な器官に影響を及ぼすので、それが月経のたびに増えたり減ったりすることで色々な不具合が生じるというわけです。

頭痛を起こしたり、気分が落ち込んだりと、その症状は多岐にわたる上に個人差も大きいので、一概に「月経前/月経中は〇〇の症状が出るものだ」と断定することができないわけですね。
さらに、その本人のメンタルも自覚症状に大きく関わってくるため、よりいっそう複雑さを増します。

産婦人科医の私ですら全てを把握しきるのは難しいですから、
一般の男性に「月経についてしっかり理解しよう」と言うのは現実的ではありません

とりあえず一般の男性は、
「月経は人によっては超しんどい」「血が出てなくてもしんどい時がある」「症状は山ほど種類がある」
くらいの認識をしておくだけでも良いと思います。

なぜ月経は起こるのか?

そもそも、なぜ月経は起きるのでしょうか?
人間社会の中ならいざ知らず、野生動物がうろついている原始時代を想像してみると、月に1回も出血なんてしていたら肉食獣に発見される可能性が上がりますし、失血により体内の栄養分なども失われてしまいます
こうして考えると、デメリットが大きすぎるように感じます。

月経が起こる理由には諸説ありますが、有力な説の一つとしては、遺伝子的に異常がある受精卵が着床した時、育つ前に排出しやすくする仕組みが備わっているためではないか?と言われています。

実際、染色体異常(遺伝子異常の一種です)のある受精卵は、ダウン症などの一部例外を除いて全て流産してしまいます。

人類は進化の過程でこうした能力を獲得したというわけですね。

ちなみにヒト以外で月経のある動物は、一部のサル、数種類のコウモリ、トガリネズミだけのようです。

月経への対策

とは言え世の女性からしてみれば、人類の進化のためとか言われても知らんがな、今しんどいのを何とかしろ、というのが本音でしょう。

以下では、月経への対策について産婦人科医の目線から解説していきます。

まずは典型的なところですが「痛み止め」です。
生理痛を和らげるための鎮痛剤ですね。
生理痛は有史以前からの女性の悩みですから、ロキソニン®バファリン®など、多くの薬が開発されています。
単純ではありますが実に効果的であり、私もよく処方します。

他にも、当帰芍薬散加味逍遙散などの漢方薬も効果的です。
漢方薬は作用機序がはっきりと解明されていないものも多いですが、実際に処方してみると「この漢方薬がすごく効いた!」という声もよく耳にします。

また、低用量ピル、いわゆる「経口避妊薬」も使い勝手が良いです。
ピルというと避妊のための薬というイメージですが、これが中々の優れもので、ホルモンの作用を安定させることで生理痛や月経量を和らげる効果もあるのです。

加えて、女性アスリートにとって「この日は試合の日なので生理が来ないでほしい」という場合もありますね。

冒頭の川合巡査は訓練日を、夏木先生は対局日を避けたいところでしょう。
この場合、ホルモン薬を適切に飲むことで月経日をずらすという手法も可能です。

重要なイベントの日に月経が来ないようにホルモン薬を飲んで調整するのです。
私がよく処方する例としては、患者さんが「好きなアーティストのライブに行きたい」「温泉旅行に行きたい」といった場合が多いですね。

さらに、月経自体が来る頻度を少なくするホルモン薬も存在します。
日本ではヤーズフレックス®が承認されており、最長で月経の頻度を4か月に1回まで減らすことができます。

他にも、ミレーナ®というお薬もあります。
これは子宮の中に小さな器具を入れておくことで、その器具から少しずつホルモン剤がしみ出していく(徐放)というお薬です。

出典:バイエル ファーマ ナビ

元々は子宮の中に入れておくタイプの避妊薬として使われていましたが、2014年からは過多月経(出血が多い人)の患者さんにも使用できるようになりました。

ミレーナ®は薬の飲み忘れの心配もありませんし、出血が全く無くなるわけではないものの、それでもかなり減らせること、生理痛などの症状を和らげることができるため非常に使いやすい薬です。

ただし、基本的には経産婦さんに使う薬だという点や、子宮の中に薬を入れるという性質上、性交渉をしたことがない人にはそもそも薬を入れることが難しい点など、デメリットもあります。

ちなみに、上に挙げたような低用量ピルやミレーナ®などは協議会検査、いわゆるドーピング検査でも禁止されていませんので、アスリートの方々でも問題なく使えるというわけです。

もし私が川合巡査や夏木先生(高校生時代)から相談を受けたとしたら、産婦人科医の立場からはどう対応するでしょうか。
川合巡査は作中時点では男性経験が無いことを話しています。
夏木先生(高校生時代)は…めちゃくちゃ美人であり性交渉歴は不明ですが、やはり高校生ですし、子宮内に入れる薬は使いにくいですね。

出典:ハコヅメ 116話
出典:永世乙女の戦い方 29話

それでいて、二人とも煙草を吸ったりしていませんし、高血圧などの基礎疾患もなさそうです。

このような場合、二人ともミレーナ®は使いにくいので、まずは低用量ピルを飲んでもらいます。
ピルは便利な薬ですが、これはこれで吐き気を催したり、強い副作用を起こすこともありますので、強い副作用が起きていないことを確認した上でヤーズフレックス®に切り替えて月経の頻度自体を減らしてあげたいところですね。

とはいえ、川合巡査はこの対応で良いとしても、夏木先生は時代的に厳しいものがあります。

夏木先生の高校生時代というと1980年代(推定)であり、低用量ピルが国内で発売されたのは1999年のことですから、当時だとこのようなホルモン治療は難しかったでしょうね。
ロキソニン®や当帰芍薬散などでどうにか苦痛を和らげることしかできなかったと思います。

今はこのように多様な治療方法があります。
月経に悩む女性の皆様にとって、自分に合った月経との向き合い方ができるというわけです。

もちろん、場合によって薬が使えない方もいらっしゃるので、
きちんと専門の医師の相談を受けた上で適切に処方してもらうことをお忘れなきよう。

最後に

最後に少し余談を。

最初に書いたように、将棋において男性と女性には明確な実力差があり、女流棋士から棋士に転向した人は約50年の女流棋士の歴史上、一人もいませんでした。
しかしつい先日、2022年5月27日に里見香奈女流四冠が棋士転向の受験資格を得ることができたというニュースがあります。

女流棋士が棋士の受験資格を得るというのはただごとではありません。
男性棋士との対戦で対等以上に勝ちを得なければ資格すら得られないのです。
この受験資格を得たのは里見四冠が史上初です。

今後資格を行使するのかどうかも含め、将棋好きの私としては気になるところですが、
里見四冠のように、女性が不利な状況ながらも男性を圧倒する実力を持った方が現れたというのは素晴らしいことです。
引き続きニュースをチェックしていきたいですね。

本記事の知識が男性、女性を問わず皆様の今後のお役に立てば幸いです!

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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