こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
突然ですが、皆様が思い浮かべる「産婦人科医が主人公の漫画」といえば何でしょう?
多くの方はドラマ化もした名作『コウノドリ』を答えると思います。
『コウノドリ』の連載開始は2012年と、今から10年前です。
しかし、そんな『コウノドリ』に先駆けて産婦人科医が主人公の漫画が連載されていたことをご存知でしょうか?
そんなわけで本日紹介する漫画はこちら。
マドカマチコ先生『乙女のホゾシタ』です。
『乙女のホゾシタ』は2010年から2011年にかけて週刊ヤングジャンプで連載された漫画です。
つまり、『コウノドリ』より2年早く連載開始となったわけです。実に時代を先取りした漫画と言えましょう。
はい。
「連載期間短くない?」と思った皆様は実に鋭いですね。
君のような勘の良い読者は好きだよ。
2010年当時のヤンジャンといえば『LIAR GAME』『ローゼンメイデン』『ZETMAN』など粒揃いの連載陣でした。
これを愛読していた当時、私はまだ産婦人科医を志す学生でした。
そんな中、ヤンジャンの新連載として『乙女のホゾシタ』なる産婦人科医漫画が出てきたではありませんか!
漫画大好き医学生やっきーはヤンジャンを読みながら産婦人科についても学ぼうと思っていたのです。

結論から申し上げますと、産婦人科の勉強になるどころか素人目にも突っ込みどころ満載の漫画でございました。
とはいえ性知識については割としっかり解説されていますし、
10年以上経っても私の心に焼き付いている、魅力のある漫画であることに違いはありません。

漫画大好き産婦人科医に昇格(?)した今こそ、この漫画を紹介する時ではないでしょうか!
そんなわけで時代を先取りしすぎた産婦人科医マンガ『乙女のホゾシタ』をご紹介致します。
目次 表示
第1話
主人公の産婦人科医・臍下熊太郎(ほぞした くまたろう)は、とある高校の校長に招聘され、校医として赴任することになりました。


熊太郎はガサツでデリカシーに欠ける言動が目立ちますが、実のところそれらは生徒を想うがゆえのもの。
診察も的確で、医師としての腕も立ちます。
そしてヒロインは高校2年生の南田真央(みなみだ まお)。
見た目こそギャル寄りではあるものの素直な性格の子なのですが、
交友関係はあまり恵まれていない模様で、友人は常習的に喫煙しており停学経験もあるようです。

ある時、真央は友人たちと女子トイレで談笑していました。
友人たちは喫煙しています。
トイレから出てきたところを先生に見咎められ、身体検査を受けますが、
友人は真央にタバコを隠すよう頼まれ、咄嗟にパンツの中に友人のタバコを隠します。

なんでこんな奴らと友達なんだろう。
真央はパンツの中にタバコを隠したまま、歩き方がおぼつかない様子を熊太郎に発見されます。

真央は咄嗟に「慢性的にあそこが痛くなって…」と嘘をつきます。

しかし相手は産婦人科医。
「そうか分かった!話は保健室で聞こう!」と、真央を担いで保健室へ向かいます。


真央をソファに寝かせ、純粋な目で診察の必要性を訴えます。
重ねて、優しく問いかけるように説得し、真央も思わず「…うん…」と納得してしまいます。
なるほど、そうすれば産婦人科医は合法的にパンツを見れるのか。
勉強になりました。
産婦人科医の診察
もちろん、現実にはそんなわけがありません。
そもそも、男性医師が一人で女性の診察をすることはありません。
これ自体は別に違法というわけではありませんが、悪意のある患者さんから「触られた」などと言われ訴えられるリスクがあるからです。
患者さんが若かったり、診察部位が乳房や性器付近であれば尚更です。
そのため、産婦人科医に限らず、男性医師による女性の診察は原則として女性の看護師がついている時に行います。
訴訟リスクを減らすための、医師の自己防衛策というわけですね。

そのため、エロマンガやエロビデオに出てくるような患者さんにイタズラをする産婦人科医は存在しませんし、
そんなことができる状況を作っただけでも遅かれ早かれ問題に発展することでしょう。
私も研修医時代、「一人で女性を診察しないように」と指導医から口すっぱく言われたものです。

そんな事情は知ったことかとばかりに女子高生の足を無理やり開きパンツを観察する熊太郎。
どういう指導を受けてきたの?と思わずにはいられない行為ですが、
かくしてタバコの箱が発見されます。

大体こういう時は運悪く誰かが保健室に入ってきたりするものですが、
案の定、教頭先生が完璧なタイミングで現場を目撃しました。

詰め寄る教頭先生に対し、我らが熊太郎が一言。

普通にお縄にかかる案件です。
医師免許返納になっても文句は言えません。
子細を説明してしまうと真央が喫煙していたことになってしまうので、
生徒を庇うための発言とはいえ赴任初日から体を張りすぎです。
とにかく、これで熊太郎の医師免許返納編が始まってしまうとお話が成り立たないので(それはそれで読んでみたいですが)、
何やかんやあってこの場は丸くおさまり、その後も校医を続けることになりました。
なんでやねん。
医師が保健室の先生をするということ
そんな熊太郎についてもう一つ気になるのが、「保健室の先生を行っている」という状況ですね。
これは『乙女のホゾシタ』や、他作品だと『放課後カルテ』などでたまに見られる設定です。
しかし思い返して頂きたいのですが、皆様の学校に医者が常勤していたことはありましたか?
実は、このような「保健室の先生が医者」という状況は現実にはほぼあり得ないのです。
理由は簡単で、必要な免許が違うのです。

保健室の先生=養護教諭になるためには、養護教諭免許が必要です。
養護教諭免許を取得するには教育学部の課程を修了する必要があり、
医師免許を取得するには医学部の課程を修了する必要があるのです。
つまり、ただでさえ医師として独り立ちできるまでに相当な年数(医学部6年+前期研修2年+後期研修3年程度)が必要にも関わらず、保健室の先生になるためだけに教育学部を出て養護教諭免許まで取得するというのは控え目に言って狂気の沙汰です。
詳しい方なら、「学校医」についてご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
学校医とは、多くの場合は学校の近くの開業医に嘱託される非常勤の学校職員です。
いわゆる「健康診断の時に診察する先生」ですね。

この学校医を常勤させれば良いんじゃないか、という考えもあるかもしれませんが、
常勤させようとすると問題になるのはお金です。
常勤医師の平均年収は、一般病院で約1491万円、一般診療所で約1071万円です。
(厚生労働省 令和元年医療経済実態調査より)
つまり、月100万円ほどの給料を学校医に支払わなければなりません。
公立校にはほぼ無理であり、可能性があるとすればよほどの高級私立校ということになります。

そもそも実務上でも、医者が養護教諭を行うことの利点が特にありません。
日常の健康に関する悩み事があれば病院に行って相談すればいいだけですし、
緊急を要する事態が発生した時は救急車を呼べばいいのです。
つまり、「養護教諭免許と医師免許を両方持っていて」「通常の病院勤務より保健室の先生になることを選ぶ医者」という超レアキャラを探し出した上で、大枚をはたいて雇ったとしても学校側のメリットはほぼ皆無という、
現実の学校経営を考える上では地獄のような事態になります。
そんなPTAが黙っていないであろう無駄遣いをする学校が居たとしても、
医者側にもメリットがありません。
普通の病院なら積めるはずだった症例の経験や、論文・学会発表も望めないので、
いわゆる医師としてのキャリアアップは絶望的となります。

熊太郎のような若手~中堅医師はまだまだ知識と経験を積まなければならない年齢であり、そんな若い時期を学校医として過ごすのはあまりにも勿体ない話ですね。
よって、結論として「保健室の先生が医者」というシチュエーションは現代日本ではほぼありえない、ということになります。
看護師さんは例外
ただし、看護師さんの場合は少し事情が異なります。
看護学科において所定の単位を取得すれば、看護師と並行して養護教諭の養成課程を履修することが可能です。
そのため、看護師免許と同時に養護教諭の一種免許を獲得するという事例は珍しくありませんし、そういったニーズに対応する大学は多く存在します。(参考:養護教諭一種の免許を取得できる看護大学一覧)

さらに、看護師免許の上位免許「保健師免許」を取得していれば、申請だけで養護教諭の二種免許を獲得することができます。
つまり、「看護師(保健師)免許と養護教諭免許の両方を持っており、保健室の先生として働いている」というケースは決して珍しくないのです。
ちなみに私(やっきー)が所属していた大学の後輩にも、保健師経由で養護教諭として働いている人がいます。
今回の記事は彼女からアドバイスを受けて執筆しました。
貴重なご助言をありがとうございました。
後編に続く
だいぶ文量が長くなってしまいましたので、今回はここまでにして、
後編では『乙女のホゾシタ』劇中エピソードについてさらにご紹介致します。
まさかこのブログ初の前後編が『乙女のホゾシタ』になるとは思いませんでしたが。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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