こんばんは、愛する同胞の諸君。やっきーである。
突然だが、皆様は医者が仕事中に着る衣類といえばどんなものが思い浮かぶだろうか。
まずは白衣、その内側に動きやすいスクラブやケーシー、ある程度年配の先生だとシャツとネクタイの上から白衣を羽織る人も多い。
外科の先生だと病院に居る時はほぼ手術着のみ、という人もよく見かける。
そんな中で、意外と個性が出るのが靴である。
偉い先生だと革靴を履いたりするが、多いのはクロックスだったりサンダルだったり。(どちらも医療用のものがある)
看護師さんだとナースシューズが定番だし、
研修医だと運動性能を考えて地味な色合いのスニーカーを履くことも珍しくない。
私が医大に通っていた頃のことである。
医学部5年生になると病院実習(大学病院内での実習)が始まる。
ついに来週から病院実習だ!
各自、病院で着る服を用意しておくように。
そうか、白衣を用意しておかないと…
あれ?そういえば靴の指定はあるんですか?
うむ、医者には清潔感が大事だ。白い靴を履いてきなさい。
白い靴か…持ってないな、買うか…
そんなわけで私は、近所の靴屋さんでお手頃な白のスニーカーを購入した。
こいつは良いぞ!
私の無駄にでかい足(28.0cm)にもフィットする。
通気性は…ちょっといまいちだが、安いのを買ったし値段相応だろう。
私はこいつを相棒として医者をしていくのだ!!
その後、私は国家試験に合格し、研修医になった。
医者として初めての現場。
白衣を身にまとい、靴を履く。
もちろん相棒は例の白い靴だ。
念願の医者になり、なんだかテンションが上がってきたので相棒に「シュー太郎」と名前を付けた。
(靴=shoeとかけたセンス溢れるネーミングだ)
これからもよろしくな、シュー太郎!
シュー!
(この靴はしゃべる設定なのか)
そんなわけで私はシュー太郎と共に働き始めた。
しかし研修医の仕事は過酷だった。
今のように「働き方改革」という概念が生まれる前の話だったこともあり、
救急対応、上級医が忘れてた処方の穴埋め、教授の機嫌取り、
忘年会での出し物、謎の雑用、謎の雑用などをこなさなければならない。
医大では6年間も勉強していたが、実際の患者さんを目の前にすると大して役に立たない。
現場では体で覚えなければならないことが山のように存在する。
時には「私はこのまま医者を続けることができるのだろうか」と葛藤したこともあった。
なあ、シュー太郎…
シュ?
俺…最近、医者を続けられる自信が無いんだ…
いつまで経っても仕事は覚えられないし、
患者さんの命を背負うのは怖いし…
シュー!
バチン!!!
な、殴ったね…!?シュー太郎…!
シュ!シュシュー!!!
た、確かに医者になるのは俺の目標だったけど…でも辛いんだ…!
シュシュシュ!!
そうか…お前の言う通り、いつか乗り越えられる日が来るのかな…
シュシュー!!!
わ、わかったよ!もう少し頑張ってみるよ!
シュ!!!
ハハッ、生意気なこと言ってやがるぜ!
それからの私はがむしゃらに働いた。
少しずつではあるが、知識や技術も身に付き始めた。
初期研修医として働く中で、産婦人科医になるという目標にも巡り合った。
これも全て、あの時励ましてくれたシュー太郎のおかげだった。
さて今日もバリバリ働くぞ!
なあ、やっきー。
ん?どうした友よ。
お前の靴くさくねえ?
えっ………
確かに私の靴は研修医になって以来、ほぼ洗えていない。
昼も夜も平日も土日もなく病院にいるし、常に歩き回っており、緊急時は走ることすらある。汗もかいているだろう。
おまけに安物なので通気性も悪いと来ている。
まあ正直ほんのりと靴がくさいのは自覚していたが、他人から足のにおいを指摘されるというのはそこそこ大変な事態になっているであろうからして、
多分私の想像の3000倍くらい臭いのだろう。
私はあまり人からどう見られるかに頓着しないタイプではあるが、さすがに足がくさい医者は嫌だ。
かのブラック・ジャック先生も、医師として最高に腕が良く、人情味も深く、いざという時は格闘術にも優れ、見た目も最高にかっこいいが、
もし足がくさかったら魅力の9割くらいが帳消しになることは間違いない。
ごめん、持って帰って洗うわ…
頼むぞ。マジでくさいから。
ごめんよシュー太郎…お前のメンテナンスを怠ったばかりに…
シュシュー…
(よく見ると色が微妙に黒ずんでる気がする)
でも今日は研修医になってからの分、しっかり洗ってやるからな!!!
シュー!!!
ハハハ、そうか!気持ちいいか!
自宅の浴室でシュー太郎の体をブラシで入念にこする。
すすぐとなんか真っ黒な液体が滲みだしてきた。うわあ。こんなん履いてたのか。
まあとにかく靴洗いは完了だ。
よし、ニオイも汚れも取れた…
これからもよろしくな、相棒!
シュー!!!!!
よし、吹き出しの色も元に戻ったな!
それから一年。
ついに私は目標であった産婦人科医になった。
産婦人科医の仕事は、研修医以上に過酷だった。
昼も夜もなく呼ばれるお産、これまでに得たものの多くが役に立たない独特の医学知識…
それらを乗り越えられたのも、やはりシュー太郎と共に歩んでこれたからだろう。
靴だけに。(うまい)
シュー!
よし!今日も頑張ろうな、相棒!
そんなある時、私は夜中にお産に呼ばれた。
分娩経過は順調のようだ。
赤ちゃんも元気そうで、特に母体のリスクもない。
それなりに安心して見ていられるお産だ。
う、産まれるー!
いいですよ!もう少しで子宮口全開ですね!
あああああー!!!!
バシャ!!!!
えっ?
や、やっきー先生…
……
羊水を頭から全部かぶってしまった…
だがしかし着替えている時間などない!このままお産だ!
せ、先生!
(妊婦さんの羊水や尿や血液が直撃するのは産婦人科医あるあるです)
いきますよ!もう子宮口は全開です!いきんでください!
うおあああーー!!!!
おぎゃー!
おめでとうございます、元気な男の子ですよ!
ありがとうございます!!
ふう、今日も良い仕事をした。
そうそう、羊水をかぶってしまったからシャワーを浴びて、服を着替えて…
…あっ。
シュー…
そこに居たのは羊水まみれのシュー太郎。
これは…
どうしよう。
お産は夜だったから、シュー太郎を持って帰ったら明日履く靴が無いしなあ…
……
ええい、軽く汚れだけ拭き取ってそのまま使おう。
……
…なんだ?最近、なんか足に違和感があるな…
か…かゆい……足がかゆい…
皮膚科の先生!ちょっと診てほしいんですが!
ふむふむ、これは…
これは?
水虫です。
みずむ…し…
今までに水虫を発症したことは無いのですね。
最近、何か心当たりは?
……
…患者さんの羊水を浴びた靴を2週間ほど履き続けてます…
絶対それです。
………
シュシュー…
水虫を発症するような靴を履いて働くことはできない…
お別れだ、シュー太郎…
……
シュー!シュシュ!
えっ…?
シュシュシュー!!
な、何だよ…黙って聞いてれば偉そうに…
シュシュシュ!!!
お前がそんな奴だとは思わなかったよ!もういいよ!
どこへでも行っちゃえよ!!!
………
シュー太郎とはあれっきりだ。
もうシュー太郎の顔もよく思い出せない。
でも…今なら思うんだ。
あの時のシュー太郎の言葉は、本当に本心からのものだったのだろうか。
医者である私に気を遣わせまいと、自分から身を引いたんじゃないか…って。
…やめだやめだ、いくら考えても答えなんか出ないさ。
だって、シュー太郎はもう…いないんだから…
~ある日の靴屋さん~
さーて、新しい靴を探そうっと。
いらっしゃいませー!
えーとですね、仕事用の靴を…
!?
シュー!
あ、あの姿は…
シュー太郎!!シュー太郎なのか!?
シュー!シュー!
いや、あいつはもう居ないはずだ…
もしかしてシュー太郎の…生まれ変わりなのか…?
お客様落ち着いて下さい!あの靴はニューバラ〇スです!
全国のAB〇マートに置いてあります!!
そ、そうですよね…
すみません、取り乱しちゃって…ハハハ…
(店長、ヤベェ客が来ました)ヒソヒソ
えーと、ご注文は?
そ、そうですね…
クロックス下さい。
は???
こうして私はクロックス(医療用)を今でも愛用している。
これなら羊水だろうと血液だろうと完璧にガードできるし、
たとえ付着しても拭き取るのは容易だ。
4月から働き始めた医療従事者のみんな!
医療用クロックス、おすすめだぞ!!!
あ、もちろんスニーカーでもいいけどこまめに洗おうな!
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