【漫画描写で学ぶ産婦人科】『推しの子』アイの妊娠と出産のリスクについて産婦人科医学的に考察する

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!

本日の【漫画描写で学ぶ産婦人科】はこちら。
赤坂アカ先生・横槍メンゴ先生『推しの子』より、星野アイの妊娠と出産に関する考察です。


『推しの子』といえば、『かぐや様は告らせたい』で一世を風靡している赤坂アカ先生が原作を担当し、女の子の可愛さに定評のある横槍メンゴ先生が作画を担当する、今最も話題の作品ですね。

実績のある両先生のタッグということで連載開始時から話題になっていましたが、先日ついにアニメ化も決定しました。

ちなみに私は赤坂アカ先生の未完の名作『ib -インスタントバレット-』の続編をいつまでも待ち続ける勢です。
魔女さんかわいい。

出典:インスタントバレット 3話
出典:インスタントバレット 11話

あらすじ

さて、『推しの子』は宮崎県の山奥の病院に勤める産婦人科医、ゴロー先生の独白から始まります。

ゴロー先生はアイドルグループ「B小町」のセンターとして活躍するアイ(16歳)の熱狂的ファン、いわゆる「推し」です。その推しっぷりは患者さんの病室で「B小町」のライブビデオを観るほどです。仕事しろ。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

そんなある日、突然アイは活動休止を発表。
もちろんゴローはショックを受けますが、気を取り直して日常診療に勤しみます。

その矢先に目の前に座った初診の妊婦は、ゴローの推しである星野アイでした。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

推しのアイドルが妊娠していた事実に嘔吐しそうになりながらも診察はきちんとこなし、20週の双子がお腹にいることを告げます。
アイの両親は不在、16歳での妊娠、しかも子供の父親は明かせないということで、なかなかにリスクの高い状況です。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

事務所の社長も出産に難色を示す中、アイは出産を決めました。
出産後もアイドル活動は続けるつもりなので、妊娠や出産は公表しないことに決めたわけです。

ゴロー先生はファンとして、医者として、アイの出産が無事に済むよう全力を尽くすことを誓いました。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

妊婦健診も順調に進み、ついに出産予定日。
分娩を待機するゴロー先生ですが、謎の男に襲われ、意識を失います。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

目が覚めると、なんとアイの息子に転生していました。

出典:推しの子 1話

このように、プロローグこそなんでやねん展開ではありますが、
アイの息子として生きることになったゴローことアクア、
そして同じくアイの双子の娘として生きることになったルビー、
芸能界で生き抜く兄妹二人を取り巻く個性的な人々の物語は必見です。

「萌えっぽい絵柄のアイドル漫画」ということで敬遠している方はもったいないですよ!
まずはアプリで1巻だけでも読んで頂きたいです。

個人的に『推しの子』の1巻数ある漫画の1巻の中でも屈指の完成度だと思います。

中絶の可能性について

それでは、アイの妊娠と出産について産婦人科医の視点で考えてみましょう。
アイの妊娠・出産に関するハードルは大きく2つあると思われます。

社会的なリスクの高さ
双子であるという点

特に「社会的なリスクの高さ」は現実問題として大きく、ゴローや事務所の社長も危惧していたように、妊娠を続けるかどうかが第一の争点になってきます。
要するに、中絶をするかどうかですね。

さて、あまり知られていませんが、中絶という行為は法律でガチガチに固められています。
赤ちゃんとして産まれるはずだった命を絶つわけですから、一つ間違えば殺人スレスレの行為です。
このへんをきちんとしてないと医者も普通にお縄にかかります。

それ故に、我々産婦人科医としては法律に反していないかは入念にチェックするところです。
ここで中絶に関する法律「母体保護法」の第十四条を見てみましょう。

都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。

一 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの

二 暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

…はい、分かりにくいですね。
内容を分かりやすく嚙み砕いてみると、こんな感じになります。

・中絶をしていいのは都道府県が許可した医者だけだよ
・その医者のことを「母体保護法指定医師」って呼ぶよ


・中絶していいのは妊娠や出産が母体にめちゃくちゃ負担な時だけだよ
・ここで言う負担っていうのはお金が無いとか体が弱いとかだよ
強姦された人に関しても中絶OKだよ

ここでアイについて振り返ってみましょう。

アイドルという事情は置いておいても、アイは親のいない16歳です。
人気こそあれど、1~2年の休業に耐えられる程の蓄えがあるとは思えませんし、その間の収入もほぼゼロでしょう。
これはもうバリバリの特定妊婦であり、行政の介入は避けられません。
よく出産を隠し通せたなあ…

このような場合は、上に挙げた母体保護法第十四条における「経済的理由にあたりますので、妊娠中絶も許容されると思います。

中絶時期の問題

さらに、妊娠中絶は妊娠22週以降に行うことができません。

なぜなら、医学が発展した現代では、22週の赤ちゃんはギリギリ生きていける可能性があるからですね。
22週以降の赤ちゃんを中絶しようものなら堕胎に問われます。

つまり、アイの初診時である妊娠20週は、かろうじて中絶が可能な週数です。
この時期の中絶を「中期中絶」と呼び、日帰りでできるような妊娠初期の中絶手術とはだいぶ勝手が異なります。

詳細はここでは省きますが、処置を開始してから中絶するまでにだいたい3~5日くらいが必要です。

したがって、上記のような経済的理由を勘案した上で、20週という週数で妊娠継続の意思を確認するという流れは理にかなっています。
その上で、アイ本人が妊娠継続を希望することを確認したら、それに向けて全力を尽くすゴロー先生の対応は産婦人科医として満点と言えるでしょう。

双子の出産のリスク

そして次の問題が、双子の出産ということ。

28週の妊婦健診時にゴロー先生は、
「赤ん坊の頭蓋骨が大きかった場合 君の体型だと骨盤の開きが足りないことが多いんだ」
と言って帝王切開を提案していますが、これはちょっとおかしいですね。

出典:推しの子 1話
出典:推しの子 1話

確かに双子では帝王切開をすることが多いですが、それは「確率的に片方は逆子になりやすい」「陣痛が弱くなりやすい」といった理由によるものです。
赤ちゃんの頭蓋骨が大きくて骨盤を通れない、いわゆる「児頭骨盤不均衡」は双子とは直接関係ありませんし、それを28週時点で指摘することはまず無いでしょう。

出典:病気がみえる 産科

結果として、出産時のシーンを見る限り帝王切開している雰囲気は無いので、アイは無事に双子を分娩することができたようです。

双子の合併症については、もっともっとリスクの高い双子の某兄弟漫画界には居ますので、その時に詳しくお話ししましょう。

まとめ

ゴロー先生は患者の病室でライブビデオを流すヤバい医者ですが、
肝心の医療内容は結構きちんとしていることが分かりました。

そして産婦人科医時代(転生前)こんなにハジけたキャラだったのに、
アイの息子として育ってから(転生後)はある事件がきっかけで寡黙で達観したキャラになりました。

その理由も、1巻を読めば分かります。
本当にお勧めできる作品ですので、1巻だけでも読んでみることをお勧めします。

余談ですが、妊娠35週で踊っているアイのビジュアルはセラそっくりですね。

出典:推しの子 1話
出典:インスタントバレット 4話

ということで、私はまだまだインスタントバレットの連載再開の可能性が残されていることを主張したいと思います。
『かぐや様』『推しの子』も読んだという皆様は、是非「インスタントバレット」も読んでみて下さい。
全5巻で大変読みやすくなっております。


最後にゴロー先生に倣って、私も名言を残しておきましょう。

赤坂アカ漫画を読むと健康に良い。それが私の医師としての見解だ。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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