【漫画描写で学ぶ産婦人科】『レベルE』ミキヒサの性分化疾患について産婦人科医学的に考察する

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!

本日の【漫画描写で学ぶ産婦人科】はこちら。

冨樫義博先生『レベルE』より、ミキヒサの性分化疾患に関する考察です。

冨樫義博先生といえば、傑作中の傑作中の傑作『HUNTER×HUNTER』を連載中…
というより殆ど常に休載している先生ですね。

例え大御所であっても打ち切りに厳しい週刊少年ジャンプでありながら、
その圧倒的すぎる面白さにより10週集中連載と長期休載のサンドイッチ状態が編集部から許されている唯一の漫画家でもあります。

最近twitterを始められたということで、『HUNTER×HUNTER』を読んでいない人からも大きな反響を受け、
あっという間に全漫画家中で第一位のフォロワー数を獲得しました。

そんな冨樫義博先生が『幽☆遊☆白書』と『HUNTER×HUNTER』の間に連載していた名作、それが今回の『レベルE』です。


あらすじ

『レベルE』は宇宙人を題材としたオムニバス形式のSF漫画です。
ドグラ星からやってきた宇宙一頭の切れる人格破綻者、バカ王子(本名)の周囲で巻き起こる様々な事件を描いた作品であり、
全3巻と短いながらも冨樫節がこれ以上ないほど濃厚に盛り込まれています。
「冨樫義博の最高傑作」と評する人も多いですね。

出典:レベルE 第6話
出典:レベルE 第9話

そんな『レベルE』のストーリー中盤に登場するのが、
マクバク族のサキ王女と、地球人のミキヒサです。

マクバク族はメスのみが存在する種族で、王女が異種族のオスと交配することで繁殖しますが、交配したオスの種族全体が繁殖能力を失ってしまうというはた迷惑な特性を持ちます。

出典:レベルE 第10話
出典:レベルE 第10話

例えば、マクバク族の王女が地球人のオスと交配すると、数世代以内に地球人が絶滅してしまうのです。
そんなマクバク族がある日、婿探しのために地球に来訪します。

主人公のバカ王子は地球の治安維持対策委員会の最高責任者であり、その護衛隊を務めるクラフトらとしては無視できない事案です。

クラフトは穏便にサキ王女を追い返そうとしますが、サキ王女は偶然出会った地球人のミキヒサに一目惚れ
さらにミキヒサもサキ王女に一目惚れしてしまったため、一転して地球人の大ピンチという状況に陥ります。

出典:レベルE 第10話
出典:レベルE 第10話

ところが、ミキヒサは「幹久 今日子」という女性であったことが判明します。
メス同士では交配ができないため、サキ王女は諦めて地球を後にします。

出典:レベルE 第10話
出典:レベルE 第10話

地球人の危機が回避でき、安心するクラフトでしたが、
クラフトから事の顛末を聞いたバカ王子は一つの推論を立てます。

それは、ミキヒサが染色体レベルでは男性であり、
男性ホルモンの異常により女性として発現したのではないか、というものでした。

出典:レベルE 第11話
出典:レベルE 第11話

地球から離れたように見せかけたサキ王女も同様の推測をしており、
ミキヒサの身体を調べて確証を得ます。

出典:レベルE 第11話

依然として地球人の危機には変わりありませんが、
バカ王子の作戦により問題は解決に向かいます。
解決方法は本編をどうぞ。

ミキヒサには何が起きている?

本編が連載された1996年において、「心は男性で身体は女性」という概念は十分に浸透しているとは言えない状況でした。
その中でこの題材を取り上げた『レベルE』は実に先進的だったと言えるでしょう。

出典:レベルE 第11話
出典:レベルE 第11話

そういった性に関するアイデンティティも、昔は「病気」として一括りにされていたものですが、
1990年代後半頃から「LGBT」という言葉が生まれ、
トランスジェンダーという言葉も概念が広すぎない?ということで、
「LGBTQ」になり、「LGBTQ+」になり、今では「LGBTTQQIAAP」という呼び方まで使われることがあります。

この辺りは医学界でも未だはっきりとした定義が確立されていないため、
いずれ定義が固まればより分かりやすくなるのかもしれません。

さて、本題の幹久今日子に戻りましょう。

結論から申し上げますと、幹久は2022年現在の産婦人科医学で言うところの「不全型アンドロゲン不応症」と「性同一性障害」にあたるものと思われます。
それぞれどういう概念なのかを解説していきましょう。

アンドロゲン不応症

「アンドロゲン」とは、いわゆる男性ホルモンです。
体の様々な細胞が、この「アンドロゲン」に反応して機能します。
簡単に言えば、男性器の発達に関わったり、筋肉が増強するなど、
男性ホルモンによって「男性らしくなる」効果があるのです。

そして、Y染色体は「アンドロゲン」を産生する能力を持つため、
Y染色体を持つ男性は「男性らしくなる」わけです。

しかし、アンドロゲン不応症(AIS)の方はこの「アンドロゲン」に体の細胞が反応しない、または反応しにくいため、Y染色体を持っていても見た目が女性に近くなるのです。

さらに、このアンドロゲン不応症も、
「完全型アンドロゲン不応症(CAIS)」「不全型アンドロゲン不応症(PAIS)」に分けられます。

一気に説明しすぎると難しくなるので、一旦アンドロゲン不応症の話はここまで!
次に性同一性障害についてお話ししましょう。

性同一性障害

「性同一性障害」はテレビ等でも比較的よく使われる言葉ですね。
詳しくはないけど聞いたことはある、という方も多いのではないでしょうか。
簡単に言えば、「自分で認識している性別と、身体の性別が異なる」という状態を表す言葉です。

実は、「性同一性障害」は最近では避けられることがあります。
本人にしてみれば「障害」ではないので、差別用語にあたるという意見があるのです。
そのため、「性別違和」「性別不合」という言葉を使う動きもあるようです。

前述した通り、この辺りの概念はまだ確立されていません。
今使用している言葉も、数年もすれば古い言葉になってしまうかもしれません。

そのため暫定として、本記事では2022年現在の最新版『産科婦人科用語集 第4版』でも使われており、比較的一般性が高いと思われる「性同一性障害」として表記させて頂きます。

ここまでがミキヒサを理解する上での基礎知識です。

ミキヒサに起きていること

まず、基本的に「アンドロゲン不応症」の性自認(自分で認識している性別)は女性です。
理由としては、胎児期に脳がアンドロゲン(男性ホルモン)を多く浴びることによって性自認が男性になるわけですが、アンドロゲン不応症ではそれが起こらないためです。

しかし、「不全型アンドロゲン不応症」では性自認が男性になることがあります。
不全型という言葉の通り、「身体の場所によっては男性ホルモンに反応する」ということが起こるため、
身体は女性、性自認は男性ということが起こりえるのです。

実際、不全型アンドロゲン不応症の方は、10.9%の頻度で性同一性障害を併発するようです。
(出典:性分化異常症の管理に関する合意見解)

劇中のミキヒサの描写を全て満たす条件となると、
この「不全型アンドロゲン不応症」と「性同一性障害」の併発と考えるのが最も自然かと思います。

ちなみに、劇中では「男性ホルモンの分泌がなければ女性になってしまう」と記載されていますが、ここだけは実際と異なります。
この疾患は男性ホルモンが分泌されないのではなく、男性ホルモンに身体が反応しないために女性になるのです。
(もしかすると1996年当時はこの認識だったのかもしれません)

まとめ

ミキヒサは「不全型アンドロゲン不応症」と「性同一性障害」を併発している、比較的珍しいタイプのトランスジェンダーであると推測されます。

LGBTも、性同一性障害も、まだまだ定義が確立していない部分の多い概念です。
それと同時に、「アンドロゲン不応症」に代表される「性分化異常」は明確に疾患として分類されます。

現代の重要なキーワードに、「多様化」があることは間違いありません。
性に関するこれらのアイデンティティが、単なる「性的指向」なのか、「セクシャルマイノリティ」なのか、「性に関わる疾患」なのかを理解しておくこと、
それは現代を生きる上での重要なテーマのひとつかもしれません。

本記事がその理解のための一助となれば幸いです。

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