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『TOUGH』より双子(一絨毛膜一羊膜双胎)について解説する

やっきー
やっきー

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!


突然ですが、皆様は「双子」と聞いてどのように思われますか?

双子は現実世界でもそれほど珍しくありません。
双子を妊娠されたことがある方、ご自身が双子であるという方もいらっしゃるでしょう。

特に漫画の世界には双子がしょっちゅう出てきます。

浅倉南を奪い合ったり、スカイラブハリケーンが発揮されたりと、
「双子」というガジェットを活用した漫画作品は枚挙に暇がありません。

出典:タッチ 13話
出典:キャプテン翼 10巻

とはいえ、三つ子や四つ子に比べれば双子は現実的ですし、
わざわざこのブログで茶々を入れるようなことはありません。


普通なら。

そう。

実は漫画界には、医学的に考えると心配で仕方がない双子がいるのです。

そんなわけで今日は、猿渡哲也先生『TOUGH -タフ-』より、
宮沢静虎・宮沢鬼龍の一絨毛膜一羊膜双胎について解説します。

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TOUGH -タフ-のあらすじ

物語の主人公は宮沢熹一みやざわきいち、通称「キー坊」です。

キー坊は最強の古武術との呼び声高い「灘神影流なだしんかげりゅう」の第15代目継承者です。

出典:TOUGH -タフ- 1話

前作『高校鉄拳伝タフ』での初登場時は17歳の高校2年生であったものの、この時点で既に格闘家として高校生離れした強さを持っていました。

そんなキー坊の父親が宮沢静虎みやざわせいこ

出典:TOUGH 龍を継ぐ男 8話

灘神影流の第14代目当主にして、「静かなる虎」と呼ばれる超一流の格闘家ですが、
「不殺」を信条とし、自分に厳しく他人に優しい人格者でもあり、キー坊からは「親父おとん」と呼ばれ敬慕されています。

そんな静虎には、実は双子の兄がいます。

彼こそが宮沢鬼龍みやざわきりゅう

出典:TOUGH 龍を継ぐ男 3話

「怪物を超えた怪物」などと呼ばれ、圧倒的な戦闘能力、IQ200の頭脳を併せ持つ悪魔のような人間です。

弟である静虎と異なり、鬼龍の性格は残忍そのもの。

灘神影流の使い手でありながら、灘神影流を潰すこと、キー坊を自らの後継者として育てることを目的として動いています。

このように、静虎と鬼龍は姿かたちは瓜二つで、ともに武闘家として比肩する者がいないほどの実力者ですが、性格は正反対です。

出典:TOUGH -タフ- 63話

キー坊は言います。

「親父と鬼龍は一卵性双生児なんやが 母親の胎内におる時から闘ってたらしい」

「鬼龍も親父もそのときの記憶がしっかりあるんやて」

出典:TOUGH -タフ- 94話


このシーンで全ての産婦人科医が震撼しました。

やっきー
やっきー

これ、一絨毛膜一羊膜双胎じゃね…?



双子について

結論から言いますと、鬼龍と静虎の妊娠はものすごくリスクの高い状況です。

胎内で闘ってたとか記憶があるとかいう話が些細に感じるほどの大変な妊娠です。

ここで「一絨毛膜一羊膜双胎」という言葉について考える前に、「双子」というもの自体について考えてみましょう。

羊膜と絨毛膜

妊娠中の赤ちゃんの付属物として、今回大事になってくるのは「胎盤」「臍帯(へその緒)」「羊膜」「絨毛膜」の4つです。

出典:日本産婦人科医会

「胎盤」と「臍帯(へその緒)」はイメージしやすいと思います。

「胎盤」母体からの栄養や酸素を受け取るためのもの
「臍帯」胎盤からの血液を赤ちゃんに届けるための通り道ですね。

「羊膜」「絨毛膜」はというと、
ここではひとまず「子宮の中で赤ちゃんを包んでいる膜」とお考え下さい。

通常の妊娠では、この「羊膜」と「絨毛膜」の違いを意識するべき場面は特にありません。

我々産婦人科医も、「赤ちゃんを包んでる膜だ」ニコイチで考えています。

この違いが問題となってくるのは、双子の妊娠の時なのです。

次に、双子の種類について考えていきます。



双子の種類

「双子の種類」というと、「一卵性双生児」と「二卵性双生児」という2種類の分け方が思い浮かぶでしょう。

「一卵性」ならそっくりの兄弟になり、「二卵性」なら普通の兄弟くらいの違いが出ますから、家族にとっては大事な問題ですね。

しかし、我々産婦人科医が妊娠管理をするにあたり、「一卵性」か「二卵性」かは正直全く気にしていません。

産婦人科医が意識する双子の分類は、子宮内の状況による区別です。
この分類方法だと3種類に分けられます。

出典:病気がみえるvol.10 産科(第3版)

二絨毛膜二羊膜双胎/DD Twins

双子のおよそ7割を占めるのが、画像右下の「二絨毛膜二羊膜双胎/DD Twins」です。

産婦人科医はよく「DDツイン」とか「DD双胎」といった呼び方をしますね。

DD双胎は、二人の赤ちゃんがそれぞれ自分用の胎盤を持っていますし、
絨毛膜と羊膜が赤ちゃん同士を分け隔てています。

イメージとしては、兄弟で自分専用の部屋もあり、ご飯もそれぞれ用意されている、といった感じでしょうか。

DD双胎の場合、一卵性と二卵性のどちらもあり得ます。

双子の中では比較的安全なDD双胎といえど、通常の妊娠より「妊娠高血圧症候群」「妊娠糖尿病」「早産」などを起こすリスクが高く、赤ちゃんが亡くなる確率は1.7~1.8%とされています。



一絨毛膜二羊膜双胎/MD Twins

そして、このDD双胎よりもリスクがかなり高い妊娠が、画像中央下の「一絨毛膜二羊膜双胎/MD Twins」です。

これも「MDツイン」「MD双胎」などと呼ばれますね。
双子全体の約3割を占めます。

MD双胎の場合、原則として一卵性双生児となります。

これの何がリスクが高いかと言うと、MD双胎ではひとつの胎盤を二人で共有しているのです。

言うなれば、兄弟それぞれが自分用の部屋を持っているものの、ご飯は「二人分を渡すから二人で分けて食べてね」といったような状態ですね。

こうするとどうなるか。

時々、胎盤の一部で赤ちゃん同士の血管が繋がっていることがあるのですが、
この血管を介して片方の赤ちゃんからもう片方の赤ちゃんに血液がどんどん移動してしまうことがあるのです。

その結果、片方の赤ちゃんが心不全を起こしたり、もう片方の赤ちゃんが育ちにくくなったり腎不全を起こしたりという不具合が生じるのです。

このように、赤ちゃん同士で血液の分布がおかしくなることで起こる赤ちゃんの異常を「双胎間輸血症候群」と呼びます。

ひどい場合では赤ちゃんが亡くなったり、何らかの障害が残る可能性もあるのです。

実際、MD双胎で赤ちゃんが亡くなる確率は4.4~7.5%ほどと、DD双胎より明らかに高いです。

そのため、産婦人科医としてはものすごく注意をしながら診ていかなければならないのが「MD双胎」なのです。



一絨毛膜一羊膜双胎/MM Twins

そんな「一絨毛膜二羊膜双胎/MD Twins」よりもさらにリスクが高いのが「一絨毛膜一羊膜双胎/MM Twins」です。

例のごとく「MMツイン」「MM双胎」と呼ばれます。

「双子」というもの自体が妊娠全体から考えると1%くらいの頻度ですが、MM双胎はその双子の中でもさらに1%くらいの割合です。要するに非常にまれです。

MM双胎では、二人の赤ちゃんの間を隔てる「羊膜」すらありません。
兄弟で同じ部屋に居るイメージです。

このMM双胎は、MD双胎の「双胎間輸血症候群」のリスクに加えてさらにもう一つ注意すべき出来事が起きます。

それが「臍帯相互巻絡」です。

二人の赤ちゃんを隔てる膜が無いので、へその緒が絡まり放題になってしまうことがあるのです。

この絡まりがひどいと、へその緒を流れる血液が途絶えてしまいます。

要するに、赤ちゃんに酸素が届かず、窒息死してしまうことがあるのです。

そんな事情もあって、昔はMM双胎の死亡率は40~60%と非常に高いものでした。

超音波診断や新生児管理技術が発達した現代ではかなり改善しましたが、それでもMM双胎の赤ちゃんの死亡率は10~20%とされています。



鬼龍と静虎の場合は?

ここでもう一度、鬼龍・静虎を見てみましょう。

出典:TOUGH -タフ- 94話

はい、明らかに二人の間に隔膜は存在しません。これは確実にMM双胎です。

しかも胎内で喧嘩をするほど暴れてたら、へその緒が絡まるリスクは上がります。

もし私が超音波でこんなふうに暴れてるMM双胎を見た日には気が気ではありません。いつへその緒が絡まって赤ちゃんが亡くなっても不思議ではない状況です。

結果として、鬼龍・静虎はともに非常に頭が切れる上、武術家としても世界最高峰の人間なので、胎内環境による後遺症は全く無かったと言って良いでしょう。

さすが鬼龍と静虎。

やっきー
やっきー

これはもうMM双胎を超えたMM双胎と呼べますね。



まとめ

以上、宮沢鬼龍と静虎のMM双胎について解説しました。

この記事をお読みの方の中には、MM双胎と診断されて悩まれているお母さん方もいらっしゃると思います。

確かにMM双胎はハイリスクです。
我々産婦人科医としても、「MM双胎」という時点で肩に力が入ってしまう、そういうものです。

そんな中でも立派(どころではないくらい)に育っている、
もしかすると鬼龍と静虎はMM双胎の星と言っても良い存在かもしれません。

…自分の子どもが鬼龍みたいになったら嫌だ、というのはさておいて。


大統領の娘の前でフルチンでピアノを弾く鬼龍さん
見たい方は『タフ外伝 OTON -おとん-』をどうぞ

出典:タフ外伝 OTON-おとん- 1巻


ここまでお読み頂き、ありがとうございました!



以下、関連記事です。

『TOUGH』考察記事、まさかの続編です。

『TOUGH』より 宮沢熹恵の出産と熹一の誕生について考察する

キー坊とおとんにそっくりな何者かが登場する作品です。

伝説のパロディ漫画『3年B組一八先生』ほぼ全話を振り返る

「幻魔拳」「弾丸すべり」等について解説しています。

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17 COMMENTS

匿名

わかりやすい解説と
症状の可能性がある妊婦さんへのさりげないフォロー、
見事やな‥(ニコッ)

返信する
やっきー

ありがとうございます!
妊婦さんの不安を闇雲に煽るような記述だけは絶対に書かないようにしていますが、それが伝わっていて嬉しいです!

返信する
匿名

図解を添えて要点をおさえたわかりやすい解説、マネモブが飽きないようにタフのキャプをくどくない程度に引用する手法…
プロって言葉はやっきー氏のためにある

あとOTONはガチ名作だから紹介してくれて嬉しいんだ
敬意が深まるんだ

返信する
匿名

ふうん、そういうことか
後年、鬼龍の心臓に疾患(バースト・ハート)があることが判明したけどこれが原因だった…?

返信する
やっきー

可能性はゼロではないですね!
ただ、MM双胎が原因で起きた心機能低下が、狭心症の薬を飲んだ程度で治るかと言われると…
なので、灘神影流の活法がよほど優れていたのでしょう、たぶん。

返信する
匿名

差別ワードが多いtoughをホームページに載せても問題無いように懇切丁寧に編集してかつ無知識で読んでも大変参考になる教養深い記事になっているんだ絆が深まるんだ

返信する
匿名

やっきー氏の正体見たり!!
漫画愛好家として知られる
やっきー氏の本性は
タフ語録を練り使う
異常猿愛者のような男だったのかあっ!

返信する
やっきー

MM双胎なのか、あるいはDD双胎かMD双胎なのかを診断することを「膜性診断」と言いますが、この膜性診断はだいたい10週くらいまでに行うのが基本とされています。(MMなら何週でもほぼ分かりますが、MDとDDの見分けは10週を超えるとかなり難しくなります)

すなわち、基本的にMM双胎を診断するのは妊娠初期であり、切迫流産などでもない限りこの時点で入院する必要はないですね。
「入院が必要」というのは言い換えれば「目を離せない患者さん」≒「自宅にいる間に赤ちゃんや母体に何かが起きるかもしれない、または既に起きてる」という場合です。
逆に言えば、それらが無い限りは必ずしも入院の必要は無いのです。

とはいえ、記事中でも書いた通りMM双胎はリスクが高いので、何も起きていなくとも「管理入院」という形で妊娠中期~後期くらいに入院してもらうことは多いと思います。

返信する
匿名

この記事を読んで自分がMD双胎だったと知ったのは…俺なんだ!
兄貴は胎内でアホほどワシから血液を奪っとったんや
その量…500億L
まあ却って高血圧で死にかけてたから血返せとは言わんけどなブへへへへ

返信する
匿名

双子の種類に子宮内の状況による区別があったのを知ったのは… 俺なんだ!
一卵性か二卵性しか知らなかったのでめっちゃおもろいわ
おとんと鬼龍は羅睺星だけあって胎内でも大変だったんスね

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