こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
新型コロナウイルスがこの世に出現してから丸4年が経ちます。
その間に日本では緊急事態宣言が出たりワクチンが導入されたり5類感染症になったりと、
医療者・非医療者を含めて翻弄され続けた4年間でもありました。
そんな中、2023年10月に「インフルエンザが異例の時期に流行している」というニュースが報じられ始めました。
加えて、2024年3月31日で新型コロナワクチンの無料接種期間は終了し、以降の接種は自己負担となりました。(高齢者を除く)
こういった状況の中で、患者さんからワクチンに関する質問をされることも多いです。
以前にもコロナのワクチンは打ったんですが、また打つんですか?
妊娠中にインフルエンザのワクチンって打っていいんですか?
子供にも打った方がいいんですか?
妊婦さんや保護者さんからこういった疑問が出てくるのは至極もっともです。
厚生労働省も分かりやすいサイトを作ったりして頑張っているわけですが、
なんせ目に見えないウイルスと効果を実感しにくいワクチンの話だからピンと来にくいですし、
全ての疑問が一発で解消できる資料はネット上にもそう多くないですからね。
それに厚生労働省が作る以上、資料には一定の公平性が求められるので、
分かりやすさ優先のおちゃらけた表現もできません。
おちゃらけた表現…?
私の得意分野です。
というわけで本日は『結局、コロナやインフルのワクチンは打つべき?』というテーマを、
個人ブログならではの表現も使って極限まで分かりやすくお届けしていきましょう。
ウイルスやワクチンの基礎知識から、特に妊娠中・産後・小さいお子様に関係する情報、
2024年9月現在における最新の知見まで幅広く網羅していきます!
「ワクチンを打つべきかどうか」で迷っている方は是非、ご参考として頂ければ幸いです。
基礎知識編
ウイルスとは何なのか
では早速、妊婦さんのワクチン接種のタイミングについて…
といきたいところですが、せっかくなので基礎中の基礎知識からいってみましょう。
まず一般の皆様にとって「ウイルスとは何なのか」というところからしてよく分からないですよね。
Wikipediaを読んでみると「他生物の細胞を利用して自己を複製させる、極微小な感染性の構造体で、タンパク質の殻とその内部に入っている核酸からなる」と書いてあります。
その説明で理解できる奴がどこにおるねんと叫んでスマホを叩き割りたくなる人が99%だと思いますが、
この知識が意外と大事になってきます。
「ワクチンが何故必要か」を知るためには「ワクチンとは何なのか」を知る必要がありますし、そのためには「ウイルスとは何なのか」を知らなければなりません。
ここが分かっていないと「結局、自分が打ってる物が何なのか」が分からないわけです。何かよく分からない正体不明の液体を注射されるのは誰だって嫌です。私も嫌です。
というわけで、ここを極限に分かりやすくしてみましょう。
まず、ウイルスとは超絶小っっっっっさい謎の生き物です。
偉い人達によると生き物かどうかすら怪しいようですがこの際どっちでもいいです。
大事なのは心じゃよ。
それはともかくこの謎の生き物、小さすぎて自分の力だけで増殖する能力すら持っていないため、他のもっと大きな生き物の細胞に寄生することでしか数を増やせられません。
他の生き物ありきの存在なのです。
ウイルスと「細菌」がよく混同されますが、「細菌」は適切な環境さえあれば自力で増殖できますので、そこが一番の違いと言えるでしょう。
分かりやすく言うとこんな感じです。
ワイはウイルスやで!
あぁ^~ そろそろワイも増殖したいんじゃぁ^~
自分の仲間を沢山作るのがウイルスの生き甲斐やで^~
でもなぁ…ワイは自分の力だけで増殖できへんからな…ええ感じの細胞はどこかにおらんか…
う~~酸素酸素!
いま酸素を求めて全力疾走している僕はごく一般的な肺の細胞
強いて違うところをあげるとすれば 酸素と二酸化炭素を交換できるってとこかなー
(ニッコリ)
や ら な い か
ウホッ!いい男…
細胞に寄生してめっちゃ増えたわwww
ぎゃああああああ!
といった感じになります。
寄生された細胞はまともに機能することができませんし、人間からすればウイルスは外敵、
ウイルスに寄生された細胞も異物扱いなので、肺に免疫細胞たちが大挙して押し寄せてくると肺は戦場と化します。
この「肺が戦場になった状態」を「肺炎」と呼ぶわけですね。
風邪とは何なのか
こうした「人間の細胞に感染するウイルス」は数百種類が確認されているわけですが、
中には鼻・のど・気管・肺などといった呼吸器に感染するタイプのウイルスが居ます。
こういった「呼吸器にウイルス(またはその他の微生物)が感染して起こる症状」を超ざっくり「風邪」と呼ぶわけですね。
では、風邪の時は体内でどんなことが起きているのでしょうか。
鼻に風邪のウイルスが感染した場合、いわゆる「鼻かぜ」について考えてみましょう。
おっ?ここはワイの住みやすそうな所やないか…
どうも、鼻の細胞です。
(ニッコリ)
増えたわwww
ちょっと兄ちゃん、誰に断って商売しとるんや?お?
え?僕なにかやっちゃいました?
とりあえず「反省」してもらわんとあかんな…
アニキ!こいつですかウチのシマで勝手に商売しとる奴は!
アニキ!いっぱい仲間連れてきましたんで!
アニキ!アニキ!
あひいいいいい
あとは、ワイらのテンションも上げてかんとアカンな…
よし!熱を出すで!
なんか熱が出てきた…しんどい…
ボスはしんどいやろうけど、熱が出たらワイらのやる気も上がるんですわ…
堪忍してつかあさい…
それにウイルスは熱に弱いしな。
んほおおおおお
※あまりに高熱がひどく、水分すら摂れない・眠れないなどの状況では無理せず解熱剤を使いましょう。
そういえばここは鼻やったな…
くしゃみと鼻水をたっぷり出してウイルスを追い出したろか!
かしこまりましたやで!(鼻水ドバー)
あばばばばばば
……
ふう…やっとおらんようになったで…
こいつの顔覚えたったから、次は「抗体」ですぐに退治できるようにしとくわな。
ワイも覚えといたわ。もう悪さはさせへんで。
さすがBリンパ球さん、Tリンパ球さん。
ワイらは記憶力悪いんで…いつもお世話んなってます。
さて、以前の侵入から数か月…この体を再び乗っ取る算段ができたで…
ん?あれ誰だろう…
!!おいBリンパ球、ワシらの出番やぞ!!!
ほんまや、こないだのヤツやないか!抗体作ったろ!!!
よろしくニキーwww
あばばばばばば
…と、このような流れで一度感染したウイルスに対しては「免疫力」が働きます。
これによって、過去に感染したウイルスが再び感染するのを防ぐ効果があるわけですね。
(ただし免疫の付き具合はウイルスの種類によって異なるほか、個人差も大きいです)
風邪とインフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の違い
さて、一般人どころか多くの医療者も漠然としか把握できていないのが「風邪」「インフルエンザ」「新型コロナ」の違いです。
特にコロナが流行する前は「インフルエンザと風邪って何が違うの?」という疑問が学校などでよく飛び交っていた覚えがあります。
私と同年代(現在30代くらい)のオタクにはお馴染みの『らき☆すた』でもそんな会話がありましたね。
実際のところ、鼻水・のどの痛み・咳・発熱などといった症状は風邪とインフルエンザで共通しています。
しかし、インフルエンザは全ての症状が強烈で、なおかつ感染力も他の風邪のウイルスより強力な傾向にあります。
高齢者や基礎疾患のある方は死亡する可能性も決して低くはありません。
そのため、症状だけを見れば「インフルエンザは風邪の強いやつ」という認識も間違ってはいないわけですが、
それだけで片付けてしまうにはインフルエンザというウイルスが凶悪すぎるため、
厚生労働省の見解としては「風邪」と「インフルエンザ」で明確に区別した方が良いとしています。
加えて、どんなウイルスも増殖する過程で「前のやつとちょっと違う性質を獲得する」という変化、
すなわち「変異」が起きることがあるのですが、
たまに感染力も重症度もケタ外れに強力な変異が起きてしまうことがあります。
これが起きると大抵世界中がパニックになります。
コロナを除いて直近で起きたヤバい奴は「2009年新型インフルエンザ」で、この時は全世界の累計死者数が約28万人と推計されています。
そして歴史上最多の死者数を出した1918年のインフルエンザ・通称「スペイン風邪」は全世界の死者数が5000万~1億人以上(当時の世界人口は18~19億人)とされており、歴史を変えた感染症として語り継がれています。
では、新型コロナウイルス感染症はどうでしょうか。
実は「コロナウイルス」というグループ自体は遥か昔から地球上に存在し、
たまに重い感染症が流行ることがあるものの、基本的にはよくいる風邪のウイルスの一種という立ち位置だったわけですが、
2019年12月に中国の湖北省武漢市で「なんかヤバい肺炎が流行ってんだけど!?」「見たことないタイプのコロナウイルスが検出されたぞ!」という報告が上がりました。
そこからわずか数か月で異常なスピードで増え続ける感染者数と死者数に、
世界保健機関(WHO)は2020年3月11日に「この新しいタイプのコロナウイルス危なすぎるわ。マジで死ぬから皆気を付けて」という声明を出しました。
そしてこのウイルスを「新型コロナウイルス2型 / SARS-CoV-2」と命名し、これによる感染症の名前を「COVID-19」と定めました。
新型コロナウイルスはのど・肺などの細胞に寄生し、発熱や咳などといったいわゆる風邪の症状を引き起こします。
しかし重症化したときがクセモノで、肺がメチャクチャな戦場になり、まともな呼吸ができない状態にしてしまうというとんでもない性質を持っていました。
まともな呼吸ができないと体は酸素を取り込めません。
酸素を取り込めないことで体中の臓器が機能不全に陥った場合、死に至ります。
そのため、コロナもインフルエンザ同様に「症状だけ見れば風邪の一種」と言えなくもないものの、
「ただの風邪」と割り切ってしまうには凶悪すぎる性質と膨大すぎる死者数(2024年1月7日時点で全世界累計701万人)を持っているために特別扱いをされるに至っている、というわけです。
(参考:WHO Coronavirus Dashboard)
ワクチンについて
さて、一度感染したウイルスに対してはTリンパ球くんやBリンパ球くんたちが覚えている限りすぐに対処してくれることは先程ご説明した通りですね。
このように見知らぬウイルスがやってくるたびに身体の免疫力に任せるのもひとつの選択肢ではありますが、
ウイルスの種類によっては一度目の感染で重い症状が出やすいもの≒最初の感染が命に関わるもの(新型コロナウイルスなど)や、
一度感染したらなかなか追い出すことが難しいもの(子宮頸癌の原因になるHPVなど)があるため、
特定のウイルスに関してはできれば最初から免疫力を持っておきたいわけです。
そこで登場するのがワクチンです。
ワクチンは人類が作り出した至宝のひとつで、ウイルス対策の決定版です。
しかしながら、仕組みが今ひとつ分からないという方もいらっしゃるかもしれません。
よーし!なんかすごい技術で毒性のないウイルスを作ったぞ!
見た目はウイルス、中身は無毒!
よわよわウイルスと呼んでほしいんやで!
このよわよわウイルスを、鶏の卵とかを使って…たくさん培養して…
ワクチンの完成だ!
ワクチンやで!中身はよわよわウイルスやで!
あなたにこのワクチンを打っておきましょう。
んほおおおおおお
どうも、免疫細胞の白血球です。
なんかこの体に侵入者が来たみたいやけど…どんな奴や…?
よろしくニキーwww
………
小便はすませたか?神様にお祈りは?
部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?
あばばばばばばば
なんやったんやこいつ?
妙に弱い奴やったな…
ようわからんけど…とりあえずこいつの顔覚えとくわな。
一応ワイも覚えとくで。
あ、リンパ球さんたち。お疲れっす。
あれ?知らない人がいる…
愛しい細胞!おはよー!チュッ(笑)
!!こないだの奴とそっくりや!!!
ほんまや!抗体作ったろ!!!
よろしくニキーwww
………
辛いです……
ワクチンを投与するとこのような流れで人体は免疫を獲得し、ウイルスを排除する仕組みが出来上がります。
これこそがワクチンの効果というわけです。
しかしながら、ウイルスは種類ごとに構造や性質が大きく異なるので、
わりと簡単によわよわウイルスを作れて免疫力もすごく長持ちするタイプのウイルスも居ますし、
よわよわウイルスは作れてもリンパ球くんたちがすぐに忘れてしまうウイルスもあります。この場合は期間をあけて再び接種しなければなりません。
というかそもそもよわよわウイルス自体を現在の技術では作れないウイルスも多いです。
有名どころではノロウイルスやHIV(エイズウイルス)にはワクチンが存在しません。
よって、我々がとれる予防策としては国がお勧めしているワクチンを適切に接種して、
予防できる感染症に対してきっちり対策をしていくのが一番だということになります。
ワクチンはウイルスという脅威に対して我々人類が対抗できる数少ない手段であり、
コロナが流行する前の2017年時点で毎年200~300万人の死亡を防いでいると推計される人類の叡智です。
長らく、人間は感染症に対し対抗する手段がほぼなく、ただ一方的にやられるほかありませんでした。
「特定の病気にかからなくなる(感染しにくくなる・重症化しにくくなる)」というのは現代人に許されたチートアイテムと言っても過言ではありませんから、仕組みを理解して積極的に使っていきたいですね。
新型コロナウイルスワクチンの基礎知識
コロナウイルスのワクチンが存在しなかった理由
新型コロナウイルス感染症は2019年に発生し、2020年にWHOによるパンデミック宣言が出されたにも関わらず、当時コロナウイルスにワクチンは存在していませんでした。
もっと早くワクチンが用意できていれば700万人以上も亡くならなくて済んだのに…!と言いたくなるところですが、
ここでウイルスごとのワクチンの作りにくさが関わってきます。
現在は根絶宣言が出されている「天然痘」などは、元々自然界にあったよわよわウイルスを利用して比較的簡単にワクチンを作ることができました。
この天然痘ワクチンの作りやすさを5段階のうちレベル1として、
先述したノロウイルスやHIV(エイズウイルス)のように何十年も前から多くの感染者が居るにも関わらず未だにワクチンが実用化されていないものをレベル5とするならば、
コロナウイルスのワクチンはレベル4くらいの難易度でした。
ワクチン製造にはよわよわウイルスの量産が必要不可欠なのですが、
「いい感じのよわよわウイルスを作る難易度」「よわよわウイルスを増やす難易度」の2つはウイルスごとに異なります。
ウイルスの種類によっては比較的容易に超えられるハードルですし、実際インフルエンザウイルスはワクチン製造がさほど難しくないのですが、
コロナウイルスはこれがとにかく難しかったのです。
しかし、コロナワクチン作るの無理!難しい!で済ませるわけにはいかない世界的パンデミックが起きていたので、
世界中の名だたるウイルス学研究者や製薬会社が意地とプライドを懸けて超特急でワクチンを作り始めました。
大人の事情的なところを考えると、ワクチン製造が上手くいけば世界史に名を残せるレベルの名誉と莫大な利益がもたらされますから、そりゃ躍起にもなるという話です。
実際、コロナの流行前まで一般の方々はファイザーもモデルナも聞いたことすら無かったと思いますが、今や世界中の多くの人々に認知される企業となりました。
しかし万が一、有害なワクチンを作ってしまい、大きな薬害をもたらしてしまった場合は会社・研究者の名声は地に落ちます。
そのため「めちゃくちゃ急いで作らなければならない」「でも絶対に失敗できない」という状況だったのが2020年という年でした。
mRNAワクチンとは
このようなワクチン競争が起きていた中、各社が注目した技術が「mRNAワクチン」でした。
従来のワクチンのようによわよわウイルスが作りにくいのであれば、丸っきり違う仕組みでワクチン作ってみようじゃないかということで取り入れられた技術です。
ここで使われるmRNA(メッセンジャーRNA)とは、ウイルスが自分のコピーを作る時に必要な部品みたいなものです。
コロナウイルスにおいて注目されたのは、「スパイク」(ウイルスの表面にある突起物)だけをコピーするmRNAをワクチンにするという技術でした。
と、このあたりで迷子になった読者様も多いと思いますので、死ぬほど噛み砕いてご説明しましょう。
例えるとこんな感じです。
mRNAワクチンとは(初心者向け)
さあ、コロナウイルスのワクチンを作るぞ!
インフルエンザワクチンと同じ作り方を試してみようかな…
コロナの中身を引っこぬいて、外側の殻だけにすれば…
外側はコロナウイルス、中身は空っぽ!
からっぽコロナウイルスと呼んでほしいんやで!
よーしできた!!!
………
アカン…中身がないと…力が………
……
ダメだ…なんでだろう…
※実際にはそもそもからっぽコロナウイルスが作れません。演出上の表現です。
いや…でも、コロナウイルスの外側の殻だけを作るっていう手法は間違ってないはず…!
そやで!諦めたらそこで試合終了や!
あ、あなたは!?
ワイはコロナの外側にある突起や。スパイクと呼んでくれ。
突起がしゃべった!?
からっぽコロナウイルスを作るのは確かに難しいかもしれへん…
けど、スパイク(突起)だけやったらイケるんちゃうか?
スパイクそのものに害は無いし、ワクチンの材料には丁度ええやろ。
いや、スパイクだけ作るのも難しすぎるんですよ!
ウイルスってめちゃくちゃ小さいし…ウイルスの中身だけ抜くのも難しいし…
こういう時は発想を逆転させるんやで、科学者くん。
「スパイクを注射する」ではなく、「体内にスパイクがあればいい」んや。
体内に…スパイクがあればいい…?
そうか…スパイクの材料だけを注射して、体内で組み立てることができれば…!
ちなみにスパイクの材料はコレやで。
どうも、mRNAです。僕自身はスパイクじゃないけど、体内に注射したらコロナのスパイクが完成するよ。
完成したスパイクを君らのリンパ球くんが覚えたら免疫獲得っちゅうわけやな。
ありがとう親切なスパイクさん!
え…しかもスパイクとか外側の殻とかを作るより、
mRNAの方がはるかに大量生産しやすい…なにこれ神…?
だが待ってほしい。僕をそのまま注射してもすぐに分解されてしまい、ワクチンとしては役に立たない…
mRNAは弱いんだ…
ほんとだ…これじゃワクチンとして使えないよ…
ならばその欠点を補ってやればいいのさ…
!?と言うと、具体的に何をすればいいの!?
僕らmRNA鎖を保護し、細胞への吸収をしやすくする効果のある固体脂質ナノ粒子(LNP)に分子を共製剤化するんだ。LNPは親油性の分子を可溶化できる固体脂質コアマトリックスを持っていて、脂質コアは界面活性剤によって安定化される。つまり、安定性の低いmRNA鎖を複数の脂質によって構成されるLNPによって包み込むといった感じだね。ん、分かりにくい?しょうがないな、こんな小さい字を読んでくれている読者の皆のためにもっと分かりやすく表現してみるね。mRNAを体内に注射したいところなんだけど、mRNAをそのまま注射してもすぐに分解されてしまうからワクチンにはならないんだ。そこで、分解されないようにする包装紙を用意してmRNAを入れるっていうイメージだね。この包装紙が体細胞に取り込まれるのに適した構造になっていれば最高なわけだけど、脂質でできたLNPと呼ばれる物質はこれらの課題を全て解決できる可能性があるってわけだね。要するに、LNPによってmRNAの安定化を図るとともに、細胞内に効率よくmRNAを取り込ませることができるという寸法さ。結論を言おう。科学者くん、君が見つけるべきは安全で安定したLNPだ。それを成し得ることができたなら、コロナワクチンの完成はすぐそこだよ。既に新型コロナウイルスのゲノムは解析されていて、スパイク蛋白をコードするmRNAも同定されているからね。あ、もちろん分かっていると思うけど、動物実験や臨床試験など様々な課題をパスする必要もある。何てったってmRNAワクチンの技術は初めて人体に使われるわけだから、そのあたりの安全性の確認は石橋を叩くくらいが丁度良いだろうね。さあ、分かったらこんなところでスパイク蛋白のmRNAと会話している暇なんて無いはずだ。人類の未来は君たちの手にある!不肖mRNAの立場ながら応援しているよ。
ありがとう親切なmRNAさん!
と、以上のような経緯でコロナウイルスのワクチンは完成したのです。(一部フィクションが含まれています)
実際、こうしたmRNAワクチンの製造方法は1990年頃から提唱され、世界中のウイルス学者たちが約30年をかけて少しずつ実用化に向けて駒を進めていたわけですが、
コロナの急拡大によって最後の1ピースを世界が総出で探し出して実用化に至ったという感じですね。
個人的にこのあたりの各国・各研究者の動きは調べていて超面白かったので、数十年後に映画化してもおかしくないと思います。
ワクチンに関するよくある疑問(一般編)
…というわけで、ここまでが基礎知識です。
嘘やろ?1万字近く読まされたんだけどまだ本題じゃなかったの?キレ散らかしたろか?と読者の皆様は怒り心頭のことと存じますが、
ここまでの前提があるか無いかで、ワクチンに対する信頼感は大きく変わってくるのです。
ここからは一般の患者さんから寄せられる、よくある疑問についてお答えしていきましょう。
インフル・コロナのワクチンに意味はある?
そもそもコロナのワクチンを打っても「第〇波」とか言って感染者が増えてましたよね?
ワクチン打つ意味はあるんですか?
ワクチンは「感染を防ぐ効果」「重症化を防ぐ効果」など、様々な視点で効果が検証されています。
その結果、感染を防ぐ効果はすぐに弱まるものの、重症化を防ぐ効果は長く続くことが立証されています。
インフルエンザや新型コロナウイルスのワクチンの話になると一般の方々が必ず抱くであろう疑問があります。
それは「ワクチン打っても感染するじゃん」「それって意味あるの?」というものですね。
これは確かに感染症に詳しくない方々からすれば当然の疑問で、このあたりの分かりにくさもワクチンの接種が一部の方々に進まない原因でもあります。
先程「ウイルスは種類ごとに構造や性質が大きく異なる」と説明しましたが、これはワクチンを打った後の効果にも関係してきます。
ワクチンを打った後の感染予防効果はウイルスの種類ごとにまちまちで、
例えば麻疹・風疹・HPVなどのワクチンは感染すること自体をほぼ完璧に防げます。(HPVは型の問題があるので少しややこしいですが、対応した型に関してはほぼ完璧に防げます)
一方、新型コロナウイルスに関してはどうかと言いますと、
感染すること自体を防ぐ効果(感染予防効果)はあるものの時間経過と共に弱まっていくのに対し、
重症化予防効果はそれなりに長い時間持続することが分かっています。
具体的な数字で言うと、オミクロン株流行下において3回目のコロナワクチン接種後、
5か月経つと感染予防効果は14.6%以下にまで減少していたのに対し、重症化予防効果は87.2%も維持できていたというデータがあります。
(参考:厚生労働省「2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針についての議論のとりまとめについて」)
ちなみにこちらは244万人を対象とした非常に大規模な研究です。
インフルエンザについても言及しておきますと、
インフルエンザワクチンの接種によりICUの入室リスクを26%、死亡リスクを31%減らせることが示されています。
これらのデータから「ワクチンには重症化を防ぐ効果がある」というのはお分かり頂けたかと思います。
頻繁にコロナワクチンを打つのはなぜ?
もう既にコロナワクチンを打ちました。
何故また何度も打たなければならないのですか?
重症化を防ぐ効果が弱まってしまうほか、
ウイルスが変異すると以前のワクチンの効果が低くなるためです。
ワクチンの効果がウイルスごとに異なるのと同様に、
ワクチンを接種すべき頻度もウイルスごとに異なります。
ものすごくざっくり分けると、
①子供の頃に行う定期接種により数十年以上にわたり効果が持続するタイプ
②毎年打たなければ予防効果がどんどん落ちていくタイプ
③微妙な変異を繰り返すせいで前は有効だったワクチンが1年後には有効ではなくなるタイプ
があります。(実際はもっとややこしいです)
①の代表例が麻疹や風疹、HPVワクチンなど、
②の代表例が犬に接種する狂犬病ワクチンですね。
インフルエンザウイルスとコロナウイルスは②と③の両方です。
インフルエンザ・コロナウイルスのワクチンに重症化予防効果があることは前項でお示しした通りですが、
接種後5か月で重症化予防効果が87.2%維持できていた…というのは、言い換えれば(単純計算で)12.8%くらい効果が落ちてしまうという意味でもあります。
接種後1年以上経過すればさらに効果が落ちていく可能性もあるわけですが、現状はっきりしたデータが少ないので実際に効果がどのくらい落ちるのかは検証段階です。
要するに、厚生労働省や医療者としては「新しい変異株に対応したワクチンをそのつど打って重症化を防ごう」というのがワクチンを勧める意図なのですが、
一般人からすれば「しょっちゅう打たなければならないくせに感染者がいっぱい出てるじゃん」という意見が出てくることになります。
よく見るとお互いの意見がいまいち噛み合ってないんです。
一度打てば一生コロナにもインフルにもかからなくなる魔法のワクチンがあれば問題は解決ですが、残念ながら今の技術では不可能なので、
現時点での最適解は「新しい変異株に対応したワクチンをそのつど打って重症化を防ごう」ということになります。
結局、ワクチンって安全なの?
結局、ワクチンが安全なものなのかを知りたいです。
コロナ、インフル共に厳しい審査により安全性が確認されています。
ワクチンに限らずあらゆる医薬品は有効性と安全性に関してすごく厳しい審査を通っています。
医薬品の副作用で害を受けてしまう「薬害」が横行したのはそうした安全性の確認作業が不十分だった時代であり、現在では少しでも怪しい薬はすぐに弾かれる仕組みが整っています。
とはいえ、審査をする側も神様ではないので「審査に通ったからワクチンは100%安全!」とは言い切れません。
そのため、特にコロナワクチンは安全性を確認するために現在でも臨床試験の一部が継続して行われていますし、
これまでに世界累計で数十億回にのぼる接種がされてきたわけですが、重篤な副反応が出現していないかどうか世界中の医療機関が監視の目を光らせています。
ここまでの報告をもとに有意なコロナワクチンのリスクを挙げるとするならば、「心筋炎」「アレルギー」の2点くらいですね。
これらに関してどのように捉えるべきかは後述します。
ちなみに、一部の慎重な人たち(ものすごく言葉を選びました)による「mRNAは遺伝子をコピーするから体内にコロナの遺伝子が取り込まれる!危険だ!」という意見を目にすることがあります。
上の「mRNAワクチンとは」の項目を読んで頂いた方ならお分かりかと思いますが、
そもそもワクチンに使われるmRNAはウイルスの突起しかコピーできませんし、mRNAはすぐに分解されてしまうので体内に残り続けること自体不可能ですし、もともと人間が持っているDNAにmRNAが組み込まれることも仕組み上ありえません。
「mRNAを注射したら体内のDNAに組み込まれてしまう」というのは、
例えるなら木造建築の家の柱1本に金属の補強をしたら家が鉄筋コンクリート造りに変わったくらいの非現実的な現象です。
ワクチンの開発期間が短すぎるのでは?
コロナワクチンが承認されたのは開発開始から約1年しか経ってないと聞きました。
早すぎてきちんと安全性が確認されているか不安です。
コロナワクチンが迅速に開発されたのは、いくつもの好条件が重なったためです。
確かに、ワクチンが開発されるまでには基本的に数年~十数年が必要なものです。
しかし新型コロナウイルスは2019年12月に報告され、2020年3月にWHOによるパンデミック宣言、
イスラエルで接種が始まったのが2020年12月、日本国内でワクチンが承認されたのは2021年2月という凄まじいスピードでした。
これは確かに「適当に審査したんじゃないのか」と思われても不思議ではないかもしれません。
ですが、これだけ早くワクチンが開発されたのにはいくつかの理由があります。
コロナワクチンが素早く製造できた一番の理由として、新型コロナウイルスがかつて猛威をふるったSARS(2002~2003年)やMERS(2012年)と同じコロナウイルス科の仲間だったことが挙げられます。
SARSは9.6%、MERSは35%という高すぎる致死率を持っていたため「今後またSARSやMERSが暴れ出した時のために」と、細々とではありますが持続的に研究が続けられていました。
この時の様々な知見があったおかげでワクチン開発はある程度進んだ状態からスタートできたというわけです。
加えて、世界中で凄まじい大流行を起こしたことで逆にワクチンの効果を検証しやすくなったこと、
各国の研究チームが協力体制を敷いたこと、米国政府などが多額の資金をワクチン開発に投入したことなども挙げられるでしょう。
もちろん、1年で作ったから適当ぶっこいて安全性の検証をしていないかというとそんなわけはなく、
ファイザー・ビオンテック社は43448人、モデルナ社は30420人を対象とした大規模な臨床試験を行い、その安全性を検証しています。
(参考:こびナビ「どうしてワクチンがたった1年間でできたのか教えて下さい」)
これは異例と言えるほど大規模な臨床試験で、例えば2009年の新型インフルエンザワクチンにおいて安全性検証の際に行われた臨床試験のひとつは高齢者(65歳以上)の1204人の接種者に対し副反応の発現頻度を確認しています。
(参考:厚生労働省「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会(2009年8月27日)配布資料1」)
この臨床試験が極端に少ないというわけではなく、こういう検証の相場はだいたい百人~数千人くらいです。
いかにスピーディーかつ慎重にワクチンの安全性が確認されたかがお分かり頂けたかと思います。
副反応はなぜ起こる?
ワクチンの副反応はどうして起こるのですか?
私は副反応があまり出ませんでしたが、免疫がついていないんですか?
ワクチンに対し免疫システムが働くことで副反応が起こります。
副反応の強さと免疫の強さに相関関係はありません。
めちゃくちゃ簡単に言えば、上の項目「ワクチンについて」(ここをクリックで移動します)で白血球くんがよわよわウイルスを攻撃している時に発熱や接種部位の痛みなどの症状が出るわけですね。
ただし、この時に熱が出ればor痛みが強ければ免疫もしっかり付く、というわけではありません。
「熱が出なかったから免疫ついてないかも」と心配する必要はありません。
心筋炎について
コロナワクチンの副反応として、心筋炎が起きると聞いたことがあります。
心筋炎はワクチン接種後、ごく稀に起きる可能性があると報告されています。
ただし、ワクチン接種後よりも新型コロナに感染した時の方が起こりやすいことが分かっています。
確かにワクチンを打ったあとの心筋炎はたまに起きるのですが本物のウイルスに感染した時の方が心筋炎は起きやすいのです。
ちなみに心筋炎の発症リスクが最も高いのは若い男性で、ファイザー・ビオンテック社製よりもモデルナ社製のワクチンの方が高頻度であることが分かっています。
とはいえ過度に恐れる必要は無く、国内の15~19歳の男性に対する接種のデータでは、
100万接種当たり25.5件(ファイザー・ビオンテック社製)と98.7件(モデルナ社製)となっています。高く見積もったとしても1万分の1にも満たない頻度です。
国内における15~39歳男性の新型コロナウイルス感染症患者のうち、心筋炎・心膜炎が疑われた報告頻度は100万人あたり834人ですから、
心筋炎・心膜炎に関しては本物のウイルスに感染するより遥かに発症しにくいと言えます。
(参考:厚生労働省「ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。」)
というかそもそも、心筋炎とは何なのでしょうか。
これは一言で言えば「心臓の筋肉に炎症が起きている状態」で、炎症の強さによって症状や予後もまちまちです。
世界でもかなり早い段階でワクチン接種を進めたイスラエルのデータによると、
ワクチン接種を行った255万8421人のうち54人に心筋炎の発症がみられたようですが(発症率は10万人あたり2.13例)、
76%が軽度、22%が中等症だったと報告されています。
死亡例は死因不明の1人だけ(しかも元々心疾患の既往があった方)に限られており、
その他、再入院を要した症例も1人だけ(心膜炎の再発)だったようです。
(参考:Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization)
もちろん、255万人のうち1人とはいえ亡くなられた方もいらっしゃる以上、心筋炎は無視していいからワクチン打っても大丈夫などと言うつもりはありません。
しかし、2024年1月7日時点で全世界累計701万人が亡くなっているCOVID-19という病気において、
少なくとも接種後5か月間は重症化リスクを87.2%減らせるワクチンがあるのであれば、
ワクチンを打った方が遥かにメリットが大きいと個人的には考えます。
心筋炎の症状としては胸の痛み・息苦しさ・動悸などが挙げられます。
これらの症状が接種後数日以内に出現した場合は医師に相談することをお勧めします。
ワクチン接種直後の激しい運動も避けた方が良いでしょう。
ワクチンに水銀が入っている?
ワクチンに水銀が入っていると聞いて不安です。
一部のワクチンには水銀を含んだ防腐剤が入っていますが、無視できるほど微量です。
確かに、一部のワクチンには「チメロサール」という防腐剤が添加されています。
これは体内で代謝されて「エチル水銀」になります。
水銀は胎児の脳や神経系に影響することが指摘されており、接種に戸惑うかもしれません。
が、実際は普段我々が口にしている食べ物にも水銀は微量ながら含まれています。
特に多く含まれている可能性があるのは魚介類で、
マグロの赤身60g(刺身4切れ分くらい)におよそ25μgのメチル水銀が含まれているとされています。
なお、インフルエンザワクチン(北里第一三共ワクチン株式会社)1回分に含まれる水銀量も同じ25μg、しかもメチル水銀より遥かに体内にとどまりにくいエチル水銀です。
水銀の含有量としては、はっきり言って無視していいレベルですね。
ちなみに「微量であっても水銀が入っているのは気になる」という要望に応えて水銀を使用していない(チメロサールフリー)インフルエンザワクチンも開発されていますし、
ファイザー社・モデルナ社のコロナワクチンにはそもそも最初から水銀化合物が含まれていない等、
各国で少しずつチメロサールを使用していないワクチンの導入が進められています。
レプリコンワクチンって何?シェディングって起きるの?
レプリコンワクチンではシェディングが起きるという話を聞きましたが?
レプリコンワクチンの原理的にありえませんし、シェディングは未だかつて確認されたことのない現象です。
2024年10月からは「レプリコンワクチン」が導入されました。Meiji Seika ファルマ社の「コスタイベ®」ですね。
これは「自己増殖型(レプリコン)のmRNAワクチン」という意味であり、上記のmRNAが体内で自己増殖を続けることにより、従来のワクチンよりも少量で長期間の効果が出るというものになっています。
言うなれば、従来のmRNAワクチンをバージョンアップさせたものですね。
しかし、この「自己増殖」というワードが科学を知らない反ワクチンにとって格好の餌食になりました。
「自己増殖」というとなんかちょっと怖いイメージがあるかもしれませんが、
仕組み上、mRNAの自己増殖に必要な酵素「レプリカーゼ」が無いところでは増殖しないので、
際限なくmRNAが生み出され続けてやがて飲み込まれるといったホラー映画の体内に寄生するモンスターみたいな現象は起きえません。
第一、局所のmRNAにしても投与後一週間程度で著しく低下することが確認されています。
また、反ワクチン界隈では、ワクチンを打った人間の息から毒的なもの(?)が漏れる「シェディング」なる現象が起きるとまことしやかに言われていますが、
上記のようにレプリコンワクチンを打ってもレプリカーゼが無いところで増殖はしませんので呼気にも汗にも漏れることはありませんし、
そもそもシェディングという現象が起きたことを証明できた人も居ません。
mRNAワクチンやレプリコンワクチンでシェディングが起こるというのは、
「地球の人口が増えすぎて地面がいっぱいになり、将来は宇宙までハミ出すに違いない」くらいアホな理論です。
そんなわけで、個人的にもできればレプリコンワクチンを率先して接種しておきたいわけですが、
上記の「コスタイベ®」は1バイアルが16人分というあまりにも取り回しの悪すぎる規格のため(接種希望者が16の倍数に満たない場合、余った分は捨てざるを得ない=医療機関が丸ごと損をする)、
医療機関側としてもコスト面で採用しづらく、対応している病院が少ないというのが痛し痒しなところです。
まあここはいずれ使いやすい規格になっていくでしょうから、現状(2024年10月現在)はあまり無理せず従来のmRNAワクチンを接種し、
たまたまコスタイベ®を採用してる病院が近くにあればラッキー、という感じで良いかなと思います。
(2024年10月7日追記)2024年10月以降の対応について
2024年現在のコロナウイルス流行株はJN.1系統とその下位であるKP系統に移行していることが確認されているため、
日本・ヨーロッパ・アメリカはいずれも「JN.1系統およびその下位系統」のワクチン株接種を勧めています。
現在、ファイザーの「コミナティ®」、モデルナの「スパイクバックス®」、第一三共の「ダイチロナ®」、武田薬品の「ヌバキソビッド®」、Meiji Seikaファルマの「コスタイベ®」がJN.1系統に対応したワクチンとして承認されています。
これらのワクチンの市場供給は2024年9月頃から始まり、10月1日から上記の高齢者への定期接種が始まりました。
(参考:厚生労働省「2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について」)
基本的にいつどの種類のワクチンを接種しても効果にほとんど違いはありませんが、
一応の違いとしてヌバキソビッド®は組み換えタンパクワクチン、コスタイベ®はレプリコンワクチン、その他はmRNAワクチンとなっています。
強いて言えば、組み換えタンパクワクチンであるヌバキソビッド®(武田薬品)はmRNAワクチンに比べて副反応が少ないことが報告されているため、従来のワクチンの副反応がしんどかった方は選択肢として考えてみてください。
(ただし、mRNAワクチンに比べて若干ですが有効性が劣るかもという報告もあります)
副反応の話を抜きにして接種の効果を考えると、上記のレプリコンワクチン(コスタイベ®)が現状の最適解ではありますが、ほとんど取り扱いがないのが玉に瑕です。
とはいえコスタイベ®を100点とすると、従来型のワクチンでも95点は取れるくらいの予防効果はありますので、遠出をしてまで打ちに行く必要もあまり無いかなと。
ワクチンに関するよくある疑問(妊婦さん・保護者さん編)
…というわけで、ここまでが全ての方々に共通してお話しできる前提知識です。
ここからが妊婦さんや小さいお子様を持つ保護者さんへの本題となります。
嘘やろ?1万4千字近く読まされたんだけどまだ本題じゃなかったの?1年半もブログ書いてるくせに短くまとめるの下手すぎか?と読者の皆様は私のことを養豚場のブタを見るような目で見始めていることと存じますが、
ここまでの前提があるか無いかで、ワクチンに対する信頼感は大きく変わってくるのです。(6000字ぶり2度目)
ここからは産婦人科ブログらしく、妊婦さんや小さなお子様をお持ちの保護者さんから寄せられるワクチンに関するよくある疑問についてお答えしていきましょう。
「結局、妊娠中にコロナやインフルのワクチンは打つべき?」という本記事のタイトル回収は今から始まります。遅いわ。
妊婦がワクチンを接種すると赤ちゃんに影響するのでは?
妊娠中にコロナワクチンを打つと流産や死産を起こすと聞いたことがあります。
ワクチンを打った場合と打たなかった場合で流産・死産率に変化はありません。
その他の妊娠中の合併症についても、安全性は既に実証されています。
よく一部の慎重な人たち(ものすごく言葉を選びました)が流産・死産・胎児の奇形が増えるなどといった大嘘を平然と流布することがありますが、全くそんな事実はありません。
具体的には「流産」「死産」「早産」「血栓症」「産褥熱」「常位胎盤早期剥離」「産後出血」「児の先天構造異常」「低出生体重児」「NICU管理」などに関してはワクチンを打った場合と打っていなかった場合で有意差がないことが実証されています。
これはワクチンを何が何でも推し進めたい闇の組織がデータを捏造しているわけではなく、
妊娠中のワクチン接種の安全性を検証した研究は紹介しきれないくらい大量に報告されています。
といっても全部をご紹介するわけにもいかないので、とりあえず4本だけご紹介しておきましょう。
強いて言えば、「どの研究も観察期間が短い。数年~数十年単位で考えた時の児への影響は分からない」という意見だけは間違ってはいません。
間違ってはいませんが、これはもはや悪魔の証明に近いです。
もっとも、スパイクタンパクをコードするmRNAを注射することによって年単位で赤ちゃんへの影響が出るかもしれないという懸念は、
ワクチンの仕組みを考えると風が吹くと桶屋が儲かるよりも遥かに難しい道のりだと私は思います。
インフルエンザワクチンも同様です。
コロナほどには最新の臨床試験やデータが多くありませんが、インフルエンザワクチンも安全性に関する多くの報告があります。
2009年に新型インフルエンザが流行した際、国内でワクチン接種をした「妊婦 35.7万人」と「妊婦を含めた全体 1091.5万人」の比較がなされましたが、副反応に全く差がなかったという結果が出ています。
海外の研究でも流産や先天異常を含めた比較が行われましたが、こちらも有意差は出なかったとしています。
(参考:厚生労働省「新型インフルエンザワクチン接種時の妊婦の安全性について」 「妊娠されている方へ 新型インフルエンザワクチンの接種にあたって」)
妊娠中のインフル・コロナ感染について
妊娠中にインフルエンザやコロナに感染すると妊娠にどう影響しますか?
妊婦さん自身が重症化しやすいほか、流産や早産などの合併症も増加することが示されています。
以前から「妊婦さんはインフルエンザが重症化しやすい」という事実は知られていましたが、
この事実が決定的となったのが2009年の新型インフルエンザで、妊娠していない方に比べて妊婦さんはインフルエンザ罹患による死亡リスクが約3倍になったと報告されました。
また、妊娠中のインフルエンザ罹患による胎児死亡のリスクも約1.9倍になるとされています。
新型コロナに罹患した場合についても見ていきましょう。
2020年9月~2022年6月の国内67施設・計1134人のコロナ感染妊婦を対象とした調査では、
コロナ感染により流産や死産は増加しなかったものの、
中等症Ⅱ(酸素投与を必要とする症例)以上の重症度となった妊婦さんの早産率が有意に高く、また中等症Ⅱ以上を発症した妊婦さんは全員ワクチン接種をしていなかったというデータがあります。
(参考:山田秀人, 出口雅士「COVID-19と妊娠」日本産婦人科・新生児血液学会誌 32(2): 35-42, 2023.)
なぜこのような結果になるのかと言いますと、妊婦さんは免疫システムの仕組み上、ウイルス感染に対する免疫力が低下していることが示されています。
ウイルス感染において活躍する免疫細胞の代表格がナチュラルキラー細胞やTリンパ球ですが、
自分の免疫システムが赤ちゃんを攻撃してしまうため、あえて働きを控え目にしているようです。
加えて、妊娠中は心臓がかなり頑張っている上に子宮が大きくなって息も少ししづらいので、インフル・コロナなどの呼吸器感染症がひどくなりやすいとされています。
妊娠中・授乳中のワクチン接種による赤ちゃんへの影響は?
授乳していてもワクチンを打てますか?
ワクチン接種をお勧めします。
赤ちゃんにウイルスの抗体が移行するため、赤ちゃんの感染症を防げる可能性があります。
妊娠中の妊婦さんがインフルエンザワクチンを接種すると、その後産まれた赤ちゃんもインフルエンザに罹患しにくくなるという結果は以前から示されていました。
コロナに関しては母体がワクチンを打った場合の赤ちゃんの罹患率については詳細が判明していないものの、
臍帯血や母乳中からコロナウイルスに対する抗体が検出されたと報告されています。
そもそも母乳というものは素晴らしくよく出来たものであり、
(コロナやインフルとは無関係に)母体が持っている免疫物質を赤ちゃんに移行させるという働きを持っています。
赤ちゃんは免疫システムが発達していないため、母体が持っている免疫物質を移してあげることで赤ちゃんの身を守るわけですね。
このことを考えると、妊娠中・授乳中のワクチン接種は利益こそあれど害はほぼ無いと言って良いでしょう。
(この世に絶対的なものは存在しないので「ほぼ」と言いましたが、個人の意見としては害は皆無だと考えています)
インフルエンザ・新型コロナワクチン接種はどのくらい期間を空ける?
インフルエンザとコロナのワクチンは期間を空けた方が良いですか?
インフルエンザ・新型コロナに関しては、同時にワクチンを接種しても問題ありません。
インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種については、
単独で接種した場合と比べて有効性・安全性が劣らないという結果が出ています。
また、以前はコロナワクチンの接種前後は2週間の間隔を空けることが推奨されていましたが、
間隔を空けずに接種しても特に問題ないことが分かったため、現在はこのルールは撤廃されています。
子供への接種について
子供にもワクチンを打てますか?
初回シリーズおよび適切な時期の追加接種をお勧めします。
日本小児科学会により、小児へのワクチン接種が有効であると結論付けられています。
以前から日本小児科学会は小児へのコロナワクチンの有効性・安全性を啓発していました。
日本小児科学会は、言うまでもなく日本で最も小児医学に精通した先生方の集まりです。
特に、2023年10月に日本小児科学会により出された提言「小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方」は非常に参考になります。
やや固い文体ではありますが非常に分かりやすくワクチン接種の意義について書かれており、
このページ1つで反論の余地が皆無と言えるレベルの情報量なので、小さいお子様の保護者の方々にはご一読をお勧めします。
時々「子供は重症化しない」という意見を耳にすることがありますが勿論そんなことはなく、
同サイトによると2022年1月1日~2022年9月30日までの新型コロナ関連の20歳未満死亡例は62例あり、うち外的な要因を除いた例は50例であったとされていますが、
小児のワクチン接種にも重症化抑制や死亡抑制効果があることが認められています。
インフルエンザについてもワクチン接種の意義に関する提言がありますので、こちらもご一読をお勧めします。
⇒ 日本小児科学会「小児におけるインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行に備えて~お子様の保護者の皆様へ~」
要約すると、生後6か月~17歳のすべての小児はインフルエンザ・新型コロナともにワクチン接種をすることが推奨されています。
アレルギーがあってもワクチンを打てる?
アレルギーがあるのですが、ワクチンを打ってもいいですか?
基本的にはワクチン接種が推奨されますが、
コロナワクチンについては重度のアレルギーが懸念される一部の方々は接種を控えた方が良いとされています。
一般的な花粉症や食物アレルギー、喘息やアトピー性皮膚炎などをお持ちの方々は問題なく接種可能です。
ただし、新型コロナワクチンについてはmRNAワクチンに含まれる「ポリエチレングリコール」という成分で重度の過敏症(アナフィラキシーなど)を発症した方は接種しないことが推奨されています。
ポリエチレングリコールは他のワクチンや大腸内視鏡検査前の下剤、その他様々な薬剤・日用品などに使用される成分です。
安全性の高い薬とはいえアレルギーの可能性が0というわけではないため、心当たりのある方はご注意下さい。
他にも、「他の予防接種で2日以内に熱が出たり、全身に発疹が出るなどのアレルギーを疑う症状があった方」
「mRNAワクチンの成分(≒ポリエチレングリコール)に対してアレルギーが出る可能性のある方」
に関しては注意して観察すべき(接種後30分の経過観察)とされています。
よく言われる誤解として「インフルエンザワクチンは卵を使って作っているから卵アレルギーだと打てない」というものがありますが、
過去の研究では卵アレルギーのある方にインフルエンザワクチンを接種しても副反応に有意な差は出なかったと結論付けられています。
そもそもインフルエンザワクチン1mL当たりの鶏卵タンパク質含有量は10億分の1グラム以下ときわめて微量であり、
アナフィラキシーを起こした方であれば注意を要するものの、そうでなければ卵アレルギーをお持ちでもインフルエンザワクチンの接種は可能です。
2024年4月以降(コロナワクチン無料接種終了後)はどうする?
2024年3月にコロナワクチンの無料接種が終了しましたが、それ以降はどうすれば良いですか?
自己負担になりますが、毎年秋~冬頃のワクチン接種をお勧めします。
2024年3月31日をもって新型コロナワクチンの全額公費による接種は終了しました。
65歳以上の方、並びに60~64歳の一部の方に関しては秋~冬に公費補助による定期接種が行われるものの、
妊婦さんや妊娠をお考えの女性、また小児を含めた高齢者以外の方々は公費補助の対象外となります。
これを受けてどのような対応を取るべきかは2024年9月時点で厚生労働省・小児科学会による公式の見解が無く、現状では個々の判断となりますが、
上記の理由でやはり妊娠中・授乳中および生後6か月~17歳までの小児や、
妊婦さんやお子様がご家族にいらっしゃる方々にはコロナウイルスワクチンの接種をお勧めします。
接種の時期についても未だ確定しませんが、当面は高齢者の定期接種と同じ毎年秋~冬頃の接種が望ましいでしょう。
秋~冬はちょうどインフルエンザの予防接種が推奨される時期でもあるので、同時接種がお勧めです。
まとめ
本日は「コロナとインフルのワクチンは打つべき?」という疑問に対する解説をお届けしました。
以上をまとめると、このようになります。
・インフルエンザ、新型コロナともにワクチンに期待する一番の効果は「重症化の予防」である
・インフルエンザ、新型コロナともに妊娠中は重症化リスクが高い
・様々なデータが妊娠中および授乳中のワクチン接種を推奨している
・ワクチンの安全性は様々なデータにより裏付けが済んでいる
・ポリエチレングリコールに重度のアレルギーがある場合を除き、アレルギーを理由にワクチンを回避する必要はない
もちろん、以上を踏まえた上で「ワクチンを接種しない」という選択をとることは個人の自由です。
私は患者さんご自身が「接種したくない」という場合、無理に勧めることはしないというスタンスです。
しかし、私自身は患者さんからワクチンの可否に関して質問された場合、これらのデータや各学会の見解を踏まえた上で、
私自身の医師としての責任をもってワクチン接種をお勧めしています。
この記事がワクチンに少しでも疑問や不安を抱かれている人にとって少しでも参考になりましたら幸いです。
非常に長い記事になりましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。
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最近、やっきー先生を知り、いくつか読ませていただきましたが、読み出すと長くても眠くても読むのをやめられない、知識が広がる楽しいためになるお話にクスクスと笑いも止まりません😆
これだけの大作を書かれるには、相当のお時間をかけられてるんだろうなぁ、と感心と感謝です。
ワクチンとウイルスについて、知らなかった、理解できてなかったことが、これで全部わかりました!!
分かりやすくて人に勧めたくなるワクチン解説でした。
ありがとうございました🙇
いつも有益な情報をありがとうございます。
最近、娘が産まれたばかりなので、大変参考になりました😌
余談ですが、今日行った整骨院に「日本看護倫理学会の声明」が貼り出されていて…少しテンションが下がってしまいました…。