2026年7月8日、医療ドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』が放送開始となりました。
産婦人科・周産期をテーマにした医療ドラマといえば、誰もが思い浮かべる大成功事例が2015年・2017年の『コウノドリ』でしょう。
ドラマ仕立てにするために多少の脚色こそあるものの、医療描写は現場の実態にきわめて忠実。
綾野剛さん、星野源さんを筆頭に主要キャスト陣も見事なハマり役で、2017年秋ドラマの平均視聴熱ランキングで第1位に輝いたことからも大ヒットドラマと呼ぶに相応しい名作だったことは疑いようもありません。

そんな中で、久々に周産期医療を題材として公開されたドラマが『ファーストクライ 母子救命救急班』でした。
個人的に普段からお世話になっている産婦人科医の宋美玄先生、重見大介先生が医療監修に入っているとあって、私も大いに楽しみにしていたのです。もしかしてコウノドリの再来なるか?と。
しかしいざ観てみると、あまりにも拙い医療描写の数々、ツッコミどころだらけの内容に頭を抱えるしかありませんでした。
そこにコウノドリはいなかった。
いっそフィクションに全振りした作品ならばそういう楽しみ方もできたでしょうが、
この『ファーストクライ』は中途半端に現代医療を下地にしているせいでとにかく粗が目立ちました。
例えるなら、羽生善治さんが監修に入った将棋ドラマで堂々と二歩が打たれてたり、
イチローさんが監修に入った野球ドラマで2塁ランナーがまっすぐホームに帰ってきてたとかそういうレベル。
私は宋先生・重見先生を医療発信者の先達であり超えるべき目標として心の底から尊敬しているため勝手に弁護しますが、
あのお二方がきちんと監修してあんな出来になるとは到底思えないので、内容に介在できる余地はほぼ無かったのではないかと推察します。勝手に。
「ドラマとしての完成度」に関しては今回言及しませんが、医療描写に関しては目を覆わんばかりの惨憺たる内容で、
もともと全話観て感想をまとめようと思っていましたが苦痛すぎて2話以降を観れなくなってしまったので、
今回は普段お世話になっている先生方が監修に入った待望の産婦人科ドラマを1話で切ることにした理由について丁寧に解説していきましょう。
『ファーストクライ』第1話のおかしなところ
本作の舞台となる病院は、富裕層向けに特化した医療を提供する聖フィオナ病院。
セレブが出産先に選ぶ産院として人気を博しているようです。

さっそくですが、聖フィオナ病院の廊下がしんどすぎる。
いや、いいんだ。意味のないカーペットや謎の机が置いてあっても良いと思うよ。セレブ向け病院だから。
ただ、入院設備があるような病院の廊下って、ストレッチャー(患者さんを護送するタイヤ付きのベッドみたいなやつ)が引っかかるのを防ぐため&体液が床に落ちた時に清掃しやすいようにツルツルの材質になってるのが普通だし、
特に産科なんて血や羊水が不意に出てしまうのが避けられないので清掃スタッフさんの業務がヤバいことになりそうだけど、セレブ向け病院だから良いと思うよ。
そんな無駄に清掃費がかかっていそうな聖フィオナ病院に、
産婦人科専攻医の永坂(演:松島聡)と高木(演:瞳水ひまり)がやってきました。

えっ専攻医取ってんの???セレブ向け病院が???
産婦人科の後期研修を終えて専門医を名乗るためには、「周産期」「婦人科腫瘍」「女性ヘルスケア」「生殖医療」を修める必要があります。
他はまあなんとかなるとしても、さすがに婦人科腫瘍をこの病院でやっているとは思えないので、聖フィオナ病院はどこかの専門研修プログラムの連携施設になるわけですが、永坂は初期研修医を終えたばかりという設定のようです。
全くありえないとまでは言いませんが、例えるならジャンプに配属されたばかりの新人編集者が初めて担当する漫画が『HUNTER×HUNTER』だった、みたいな感じ。
いきなりえらくトガった病院に行ってんだな…
そんな後期研修トガリ散らかし清掃費マシマシ病院で数か月前から働き始めたのが、主人公の産婦人科医・光井。(演:比嘉愛未)
彼女は東南アジアで多くの出産に立ち会ってきたお産のスペシャリストだそうです。
「お産のスペシャリスト」という肩書きは周産期医療に慣れ親しんだ人間からはまず出てこない文言であり、
例えるならプロのレーシングドライバーに対して「運転のスペシャリスト」と呼ぶような絶妙なダサさを覚えますが、
公式ホームページに「お産のスペシャリスト」と書いてあるので彼女はお産のスペシャリストなのです。

わざわざ手袋した状態で髪を結びはじめる衛生観念の無さが冒頭から披露されますが、
彼女はお産のスペシャリストなので何も問題はありません。
すると光井は専攻医の永坂を引き連れ、急患の対応に向かいます。
その急患とは未受診妊婦(妊婦健診を全く受けていない妊婦さん)のようです。

別に呼吸器感染症が疑われるわけでもない未受診妊婦の初期対応だというのに、
N95マスクと分娩時用のガウンを着て滅菌の手袋を二重に装着するという過剰すぎる準備を始める光井に対し、
「なんで未受診妊婦を!?ここ聖フィオナですよね?」と疑問をぶつける永坂。
お前この世界の産婦人科医にしてはマトモな感覚だな。
そりゃそうです、未受診妊婦さんはただ産ませればそれでオッケーというわけではなく、社会的な支援もめちゃくちゃ要るので、周産期センター併設の公的な病院で産んだ方が良いに決まってます。
そんな永坂の正論はさておき、助産師の倉田(演:山村紅葉)に対し光井が状況を説明します。

「お腹の大きさからして妊娠後期。破水していて羊水は透明。」
せめてBPDかEFWから推定週数言えや!!!
こういった未受診妊婦さんの対応はたまにありますが、大事な情報のひとつが「現在の妊娠週数」です。
産まれた赤ちゃんの初期対応は在胎週数次第でけっこう変わってくるため、「これくらいの週数っぽいな」というおおよその当たりを付けておくことは不可欠で、
そうした場合によく用いられるのが超音波検査で得られるBPD(赤ちゃんの頭の大きさ)やEFW(赤ちゃんの推定体重)といった数値です。
倉田くらいのベテラン助産師なら妊娠後期かどうかなんてお腹の大きさ見りゃ分かるので、
ここで産婦人科医に求められる情報はこれらの超音波計測値から得られるもう少し正確なデータであるはずですが、
光井が答えたのは素人でも答えられるような薄っぺらい情報のみ。
そんなお産のスペシャリストこと光井は、滅菌手袋を二重に着けた状態でエコーをするという不可解な行動に出ますが、
どうやら子宮口全開大の状態で、かつ逆子である模様。

そして「自然分娩は危険」「赤ちゃん苦しがっています。今すぐお腹開けて出すしかありません。」と話します。
この妊婦さんの痛がりようからして子宮口全開大なのはまあ納得ですが、そこまでいってるなら逆子であろうと経腟分娩を考慮に入れてもいいはずなので、
そんな中で「赤ちゃんが苦しがっている(胎児機能不全)」を理由に緊急帝王切開するということは1分でも惜しいくらいの緊急事態だということが伺えます。
にもかかわらず帝王切開中の描写からして妊婦さんは思いっきり目が覚めてますね。

これはつまり、手術室に入ってすぐにできる全身麻酔ではなく、どんなに急いでも5分くらいはかかる脊椎くも膜下麻酔(下半身の麻酔)をしている可能性が高いと思われます。
言ってることとやってることの整合性が取れておらず、何で帝王切開したのか謎すぎる。
あと胎児機能不全による緊急帝王切開ならせめて酸素マスクぐらい付けろや。
そして手術が進み、子宮内に手を入れた光井は、
「横位…赤ちゃんの体勢が逆子から横になってる…」
と息を吞みました。
骨盤位(逆子)から横位に変わりうる状況(骨盤未陥入)で子宮口全開大することあるか???
と思いますが、一旦そこは良しとしましょう。
横位になっていると聞いた永坂は、
「赤ちゃんが動いた…?横向きだと取り出すのそうとう難しいんじゃないですか」
と話しますが、帝王切開中ならそんな別に難しくないぞ。初期研修終えたばかりだとさすがに厳しいけども。

そして赤ちゃんは無事に産まれ、産声が手術室に鳴り響きました。
それを聞いた光井の反応がこれ。

なんかファーって光が舞ってる!!!
まあ産声に感動するのは個人の自由ですがオペ中に目を閉じるな。はよ縫え。出血が増えるだろ。
あと赤ちゃんの対応をした小児科医の対応もだいぶ微妙です。
出てきてすぐ泣いたならまだしも、娩出~第一啼泣まで24秒かかっており(私が測った)、その間はSpO2モニター装着の指示をしてた以外は特に何もしていませんでした。
そもそも未受診妊婦の胎児機能不全で帝王切開してるんだから補助換気の準備くらいしろよ。
ここでオープニングが流れるのですが、ここまででようやくドラマ開始から10分です。
えっまだ10分しか経ってないの??しんどい。しんどすぎる。
普段ぜんぜんドラマ観ない方だけど、こんなつまら……ゲフン、医学考証の行き届いてないドラマを観なければならないというのがここまで苦痛だと思わなかった。
その後、なぜこのセレブ病院で、お金を払えない可能性のある未受診妊婦を受け入れたのか?
という至極真っ当な指摘について、スタッフが集まるカンファレンス(会議)で説明が行われました。
ちなみにこの未受診妊婦さんは出産後、病院から居なくなってしまったようです。つまりお金を払っていません。

カンファ室がダルすぎる。
ていうかこれただのホテルの会議室だよね。ロケ費がういたよ!やったねたえちゃん!
未受診妊婦を受け入れたことに対して「6件の病院に受け入れを拒否されて泣きつかれたから」と弁明をする光井に対し(なんで大学病院とかに依頼しなかったんだろ)、
四宮先生のパチモンみたいな小児科医の富永(演:濱正悟)が意見を述べました。

「昨日の未受診妊婦、感染症スクリーニングの結果が出る前に処置を始めていた。B群溶連菌、MRSA、風疹。どれか一つでも陽性だったら新生児や術後の妊婦に感染するリスクがあった。院内クラスターになっていたかもしれない…」
バカなの???
セレブ病院で未受診妊婦を受け入れることの是非はさておき、カンファでこんな的外れな追及をされたら私ならキレるけどな。「クラスター(院内伝播による集団感染)」の意味たぶん分かってないと思う。
GBSは感染というより、全妊婦さんのうち1~2割が「保菌してる」状態であって、GBS陽性の妊婦さんが居るからといって必ずしも院内で感染が広がるような性質のものではありません。院内で感染が広がる状況としては、手袋を使い回しまくってるなどそもそもの医療体制がクソでない限りまず起きません。
MRSAはギリギリ分からなくもないですが、GBSと同じく「保菌しているからといって悪さをするとは限らない菌」ですので、理由もなく妊娠中にわざわざ調べるような性質の菌ではありません。
んで風疹は、現在では多くの日本人が抗体を保有しているわけなので、急性期の感染が強く疑われるような状況じゃなければクラスターの話をすること自体がちゃんちゃらおかしい。
あえてこの状況で院内クラスターの話をするならコロナとかインフルとかを引き合いに出すべきであって、
GBS・MRSA・風疹を産院におけるクラスター懸念の例として挙げるのは「ジャンプ作品は全部めちゃくちゃ休載するので読むべきではない」くらいに論理が飛躍してます。
そこに颯爽と院長の真矢みきが登場。(真矢みきさんは何を演じても真矢みきさんなので今後も真矢みきと呼称します)
真矢みきは、肝いりの「母子救命プロジェクト」について説明を開始しました。

妊娠28週未満の症例を含めた周産期合併症や、経済的な問題を抱えた妊婦さんの無償受け入れなど、
妊産婦さんの受け入れ門戸の大幅な拡大を意図した施策のようです。
なんでそんな超重要事項をスタッフの誰も知らんねん。
28週未満の超早産の対応に必要なスタッフや設備は普通の産院のそれとはケタ違いなので、どこかの大学病院の小児科の全面協力や年単位の根回しをしてようやく成り立つレベルです。
ダルいカンファ室で「今度から28週未満も受け入れるかんね!」と院長が発表して済むような話ではありません。
何の準備もなく「来年から山手線の駅ひとつ増やします」って言ってるようなもん。

院長室が一番ダルかったわ。
カンファ室はまだマシだったわ。
病院長なんてデスクワークが腐るほどある立場だと思いますが、この環境マジで仕事しづらそう。
そして試験運用として立ち上げられた「母子救命救急班」は光井をチーフとして、なぜか研修医上がりの専攻医・永坂が参加。
そういう試験運用のスタッフはせめて専門医くらいは持ってる人間で固めるべきだと思うんだけど……???

そんな光井と永坂は、産み逃げした女性の居場所を突き止めて「赤ちゃんに会いに行け」と説得しに行きました。
それはソーシャルワーカーとか児相とかが動くべきであって医者が動く事案じゃないんだが。
そもそも、この説得自体も大問題です。
この女性はなぜ未受診妊婦だったのか?なぜ産み逃げをしたのか?といった社会的背景も何も聞く気がなく、ただただ母性に訴えて「会いに行け」と説得しに行くのは精神論にもほどがあるよ。
そして「赤ちゃんに会いたくない」と席を立った女性を見て、
「もう気が済んだでしょ。帰りますよ光井先生。」
と話す永坂。お前この世界の産婦人科医にしてはマトモな感性だな!
すると光井はまた別の未受診妊婦・宍戸さんを発見。
どうやら頭痛・立ちくらみの症状があるようです。


光井は診察ののち、
「31から32週。頭痛と立ちくらみの症状が起きていたのは、妊娠高血圧症候群がかなり進んでいるためです。」
と話しました。
助産師の倉田によると血圧は150に近く、視覚異常や頭痛も相当であろう、とのこと。
この時期に頭痛・立ちくらみが起きるほど進行している妊娠高血圧症候群ということは、Early-onsetの妊娠高血圧腎症が疑われます。
これは妊娠高血圧症候群の中でもかなり重症化しやすい状態……というか既に臓器障害が進んでいてもおかしくない状況です。
このまま家で放置しとくとマジで命に関わるので、入院の上で硫酸マグネシウムやカルシウム拮抗薬といった薬剤の持続的な投与が必要です。
そんな宍戸さんは点滴を受けつつ、新生児室の赤ちゃんを見つめていました……


チラッとだけ点滴が見えるけど…これただの生理的食塩水だ……
ハッキリ言って、この状態の妊娠高血圧症候群の妊婦さんはいつとんでもない合併症が起きても不思議ではない状況です。
例えるなら、天ぷら鍋が燃え上がってるのに「まだ壁は燃えてないからいいや」と放置してるに近い状態。
はよマグセント始めろ!ニカルジピンも用意しとけ!たぶんこの調子だとステロイドも打ってないよなどうせ!
ていうかこんな病院に居たら死ぬから他の病院に行くんだ!!!
次のシーンでお産のスペシャリストと唯一の常識人である専攻医は優雅に昼食を摂っていました。
私ならそんな妊婦さんを生食だけ点滴して放置してたらメシが喉を通らんけど。
話の流れで光井は左耳の難聴について問われ、「先天性風疹症候群」「あたしを産んだ人がちゃんと病院に行ってなかったのが原因」と答えました。

……違うよ??未受診だけが原因ではないよ??
先天性風疹症候群は、母体が(主に小児期に)ワクチンを接種できてたかどうか、抗体が付いてたかどうかが問題であって、
妊娠初期の検査で風疹の抗体価が少なければ「人込みを避けるべき」という指導は確かにしますが、「未受診妊婦だったせい」ではありません。

そんな中、頭を押さえて倒れる宍戸さん。
そりゃ生食オンリーの点滴で放置してたらそうなるだろアホか!!!!
次のシーンでは、光井が胎児心拍数陣痛図を読みながら
「血圧がかなり高くなって、赤ちゃんの酸素が足りていません。今すぐ緊急帝王切開が必要です。」
と話します。

CTGみじか!!もっと付けろよ!!というのはこの際おいとくとして(状況にもよるが、本当に赤ちゃんの酸素が足りてないことを判断したいならこの数倍くらいの紙の長さは欲しい)、
妊娠高血圧症候群の妊婦さんが突然の頭痛を訴えるというのはハチャメチャな緊急事態であり、
呼吸が止まりかねない「子癇」の一歩手前や、血圧が上がりすぎて脳の血管が破綻した「脳出血」などを鑑別すべきですが、
のん気にCTG着けてるとこ見ると頭痛の原因精査をロクにやってない可能性が高そうです。
どちらにせよ、もはや一刻の猶予も惜しい状況ですから、緊急帝王切開で妊娠を終結させることに異論はありません。
そんな宍戸さんを手術室に連れていく道中で、別の妊婦さんがお腹を押さえてうずくまっている現場に遭遇します。

無痛分娩中のセレブ妊婦・一ノ瀬さんが急にお腹を押さえて苦しがっている模様。
腹部は板状硬。常位胎盤早期剝離で緊急帝王切開が必要な状況と診断しました。
普通に考えて他の医師に応援を頼むべき状況ですが、
「姫島先生(産婦人科部長)は別の分娩であと1時間はかかります」
「他の先生方に用務外の母子救命救急班のオンコールはできないの」(何そのクソシステム)
とのことで、応援は呼べないようです。
あのダルいカンファ室に腐るほどいた医者たちはどこに消えたん???

それはともかく、緊急帝王切開が必要な妊婦さんが2人も同時にいる、大病院でもたまにしか起きない緊急事態です。
スタッフがたっぷりいる状況ならまだしも、母児の安全を考えるなら1人は母体搬送(この場合は宍戸さん)して1人に集中すべき(この場合は一ノ瀬さん)ですが、
そこに麻酔科医の藤堂(演:岡部たかし)が通りがかりました。

藤堂「一ノ瀬さんは俺が担当する予定だった。彼女のオペなら付き合ってもいい。」
なんでこいつこんな死ぬほど上から目線なの???
というかこれ遠回しに宍戸さんの麻酔は担当しないと言ってるようなもんだけど、医療人としてそれはどうなんだ。
このレベルの急患に対して「こっちの人は診ません」は控えめに言って終わっとる。
場面は少し飛んで、宍戸さん(未受診妊婦・妊娠高血圧)の手術前。
この超緊急事態だというのに産めないだの育てられないだのと、それは入院する時に話し合っとけよとしか言いようがない問答を始めるお産のスペシャリスト。
赤ちゃんの酸素足りてないのにそんなこと話しとる場合か???


そして、ついに宍戸さんの手術が始まりました。
メスを受け取り、下腹部正中切開を行う光井。

一方その頃、別の手術室では専攻医の永坂による一ノ瀬さん(常位胎盤早期剝離)の手術が開始となりました。

えっ??????ちょっとまって?????
初期研修医あがりの専攻医が一人で???早剝の緊急帝王切開???えっ?????どういうこと??????えっ???????
帝王切開は数えきれないくらいやってきた私ですが、一人で帝王切開なんぞやったことがありません。
まあ物理的にはできないとまでは言いません。安全性や迅速性が犠牲になりまくるので、それやるぐらいなら外科医や研修医の先生に助手を頼みますが。
ただまあ、それは多少なりとも帝王切開に慣れてるからできることであって、
初期研修医あがりの専攻医がたった一人で早剝の緊急帝王切開というのは普通免許とりたての素人がF1マシンに乗り込むようなもんです。
あと事態の逼迫具合から考えると光井と永坂の役回りは逆です。
どう考えても、お産のスペシャリストが常位胎盤早期剝離の緊急帝王切開をすべきでしょう。
つーか最初っから2人でやれよという話ですが。
緊張する永坂(当たり前だ)に対し、麻酔科医の藤堂が声をかけます。

藤堂「まあ俺が司令塔だ。最低でもお前の腕を中堅レベルまで引き上げてやる。」
どうやって??????????
いや麻酔科医の先生には普段からホントめちゃくちゃお世話になってますよ。
でも麻酔科医の仕事は患者さんの体にストレスを与えることなく、執刀医が自分の実力を100%発揮できる状況を作り上げることであって、研修医上がりの医者の手術技能を引き上げることは不可能です。
ここで場面は光井の帝王切開(妊娠高血圧)に切り替わります。

光井「腹膜を開きます。メスとハサミは最小限で。手でいく。」
看護師「出血も組織損傷もほとんどない…」
うん…医療描写が拙すぎて「この人すごい」がただただ陳腐でしかないよ……
あとメスやハサミを最小限にして腹膜を用手的に広げるってめっちゃ普通の術式ぞ?
もっとも、下腹部正中切開にJoel-Cohen風の腹膜鈍的開放というのはやってることがイマイチ嚙み合ってませんが。
例えるなら漫画の1巻は紙で買って2巻は電子書籍で買った、みたいな感じ。
場面は再び専攻医の永坂。
執刀を開始しようとした直後、一ノ瀬さんから大量の性器出血と血圧低下!!


手術をほったらかして逃げ出す永坂!!!!!!
「お前の腕を中堅レベルに引き上げてやる(ドヤァ)」は何だったんだよ!!!
もうどこをどうツッコんだらいいのか分からんよ!!!!!
ごめんもう無理っす。
こんなんを産婦人科ドラマとは呼びたくないです。
もはや細かいところツッコんでたらキリが無いのでハイライトシーンを抜粋します。
32週の赤ちゃんがちょっと泣いただけで補助換気をさっさと止めちゃう新生児科医。
(32週にしては大きすぎるが大人の事情で仕方ないだろうなとは思う)

実は産科医だった真矢みきを連れて帰ってきた永坂。
「僕ができることは代わりの医者を見つけることだと思って」
それはお前の仕事じゃねえ、手術室スタッフの仕事だ。

突如、心停止する宍戸さん。
この心電図がいきなり完全フラットなAsystoleになることある…?
時速100kmで走ってたトラックが1秒後に完全停止するようなもんだけど…?

恐ろしいほど下手くそな心臓マッサージを開始するお産のスペシャリスト。
力のかけかた、深さ、テンポ。何も褒めるところのない心臓マッサージです。

ここにきてようやくマスク換気が始まる。
帝王切開中にショックバイタルになって酸素すら投与してなかったの…?

そして心臓マッサージを遠巻きにボーッと見ている連中。
もしかしたら忘れてる人がいるかもしれませんがこのチームの名前は「母子救命救急班」です。

光井の「赤ちゃんを一人にしないで!」という声掛けパワーにより心拍再開。
よくこの手抜き救命処置で心拍再開したな……

まとめ
以上、『ファーストクライ』1話の感想とツッコミどころ総まとめでした。
おかしな描写はまだまだあるのですが、もう疲れました。これ以上観たくねえ。
『コウノドリ』『コード・ブルー』『フラジャイル』など、医療描写のリアリティを追及した作品が多い昨今においてここまで低品質な描写を平然と出してくるあたり、制作陣の医療への興味のなさが透けて見えます。
何度でも言いますが、宋先生・重見先生がマトモに監修に入ってたらこんな大惨事になるとは到底思えないので、
おそらく監修という立場からはどうにもできない点が本当に多かったのではないか、と察します。
というか、お二方が入ってなかったらこれより遥かにヤバいことになってた可能性すらあると思います。
重見先生の感想を聞く限り、口出しできる範囲にはかなりの制限もあったようですし、仕事に対して手を抜く先生方では絶対にないので、おそらく最大限手を尽くした結果がコレなのかもしれません。
宋先生・重見先生の医療レベルがこんなもんだと思われるのが本当に…口惜しいとしか言いようがないな…
(7月17日追記)
今回の記事の執筆後記を書きました。URLはこちらの記事からどうぞ。
第2話の実況生配信も行いましたが、現在はアーカイブ配信を終了しています。

最後に、今回出てきた疾患に関連する記事をまとめておきます。






2025年9月、単著を出版しました!
タイトルは『産婦人科の質問箱 アレはホントにマジなのか』。
様々な俗説を検証する「アレはホントにマジなのか」のほか、
「ワクチンの話」「妊娠・出産の話」「健康の話」など、全26項目にわたる徹底解説をお楽しみいただけます。
現在、ニュースレター『産婦人科医やっきーの全力解説』を配信中です。
「男女の産み分けってできるの?」「逆子って直せるの?」「マーガリンは体に悪いの?」などの記事を基本無料で公開しておりますので、こちらもお楽しみください。

『医学の話を全くしないnote(仮)』も不定期配信中です。
医学や漫画の話をしたりしなかったりする雑記帳です。特に役に立たない話を読みたい方は、こちらもどうぞ。

産婦人科医・宋美玄先生が代表を務める医療メディア『crumii』へ不定期に寄稿中です。
私の執筆記事はこちらからどうぞ。




新生児医療に携わる小児科医です。もやもやした部分を全て言語化して発信してくださりありがとうございます。
1話を観て、いくらドラマとはいえ我々の仕事をバカにされているのかと思いました。判断ミスも沢山ありましたが、患者を目の前に清潔な格好で人を呼ぶからとは言え逃げ出す人もいないし、間違った知識を世の中に流布しかねない内容でした。
ちなみに先生も思われていましたが、もっと必死に我々小児科も蘇生します(笑)やる気なさそうな蘇生を世の中に放送されたのは無理でした。
これならばもっとコメディに走ってくれてくれれば良かった。
観たことすら後悔しました。同業者が同じ感想で良かったです。
小児科医で感染症専門医です。ドラマ見てないけど、内容はよく分かりました。そしてツッコミに笑えました。3分に1回くらい(もっと?)のツッコミどころだったみたいで、どうしたらそこまでひどく出来るのか聞いてみたい(笑)
整形外科医です。医療ドラマは最初から見ません。先生の憤りよくわかります。
女優さんが悪いわけではないですが「お産のスペシャリスト」センセイは前世(以前のクールの連ドラ)で刑事という超不規則勤務な夫を持ちながら子育てをしながら心臓外科医として多数の執刀をされており、監禁されたテレビ局でロングヘアなびかせながら血管吻合などされていた凄腕だったので、まあ何でもありです…
面白く読ませていただきました。
韓国ドラマの「いつかは賢くなるレジデント生活」(名作ドラマ「賢い医師生活」の派生ドラマ)では、大病院の産婦人科レジデントが主人公になっており、
賢い医師生活もそうでしたが日本のドラマに比べると医療監修がかなりしっかりしていて(放射線科医目線ですが)見応えがありました。
Netflixで見れますのでお時間ある時によければぜひ!
例えが分かりやすく、素人の私でも分かりやすかったです!
おもしろく拝見いたしました.
臨床を離れてだいぶ経つMWです.
題材が現代社会の問題のひとつであり、携わっている分野でもあるので楽しみにしておりましたが、ひどすぎました.
先生も書いておられるように、なまじリアルを追求しているから、あらが目立つ.
中途半端だなとがっかりでした.
ほんと、「ありえないwww」と全部笑えるくらいコメディに振り切ってくれたほうがましです.
また、主人公が「赤ちゃんに会いに行って」という場面、まるで責めているようでした.実際はもっとお母さんの声や事情を聴きます.未受診妊婦を助長するのではないかと危惧しました.
(あと男の影がまったく見えないのもやめてほしい.妊娠はひとりじゃできないのだからそこ描けと思いましたね)
長くなるのでやめておきます.笑
セレブ病院にはピッチもなければ、除細動器もないのですかね.
先生のこの記事、ひじょうにすかっとしました.
母子救急で次女を産み、その後4ヶ月周産センターでお世話になりました。もう19年も前の話だし、大学病院なのでセレブとは程遠いですが。
ドラマを見始めてすぐハテ?と思い、この記事にすぐたどりつきました。
吹きました笑
私が見てきた母子救急とは程遠い映像でしたが、おかげでこのnoteを見つけたので良かったです 笑