こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
私はこのブログを立ち上げる際に手に入る限りの漫画を読み、それらに出てくる産婦人科に関する描写を全てピックアップし、
余りにも酷過ぎる医療行為を行っていた産婦人科医たちを厳選して「漫画界クソヤバ産婦人科医四天王」と命名しました。
そんな四天王の一角が『サラリーマン金太郎』に登場するこちらの産婦人科部長です。
さすがに漫画界最凶最悪の産婦人科医こと西浜様の悪行の数々には負けるものの、
彼もまた現実に存在したら超ド級のクソ医者であることは疑いようもありません。
そんなわけで、本日は『サラリーマン金太郎』の矢島美鈴を執刀した産婦人科部長と、
妊婦さんにとって怖い病気のひとつ「常位胎盤早期剝離」について詳しく解説していきましょう!
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『サラリーマン金太郎』
あらすじ
まずは『サラリーマン金太郎』の概要について。
『サラリーマン金太郎』を描かれた本宮ひろ志先生といえば、『男一匹ガキ大将』『俺の空』など男らしい作風が持ち味のベテラン漫画家ですね。
悪く言えば男くさくて暑苦しい展開が多いわけですが、
良く言えば熱く燃える、読んでいてエネルギーを得られる物語に定評があります。
フンドシが似合う主人公を描かせたら日本一と言えるでしょう。
そんな本宮ひろ志先生の代表作『サラリーマン金太郎』のあらすじをご説明しましょう。
主人公は矢島金太郎。
彼はかつて1万人を束ねた伝説の暴走族のリーダーで、
暴走族を解散した後は妻・明美の実家で漁師をしていました。
ある時、金太郎がヤマト建設の会長・大和守之助の命を救ったことをきっかけに、
サラリーマンとしての人生を歩み始めました。
一般社会とかけ離れた生活をしていた金太郎が、
様々なビジネスや人との繋がりを経て型破りに出世街道を歩んでいく物語。
それが名作ビジネス漫画『サラリーマン金太郎』です。
簡単に言えば血の気の多い島耕作です。
矢島金太郎と島耕作は『叩き上げのサラリーマン』『めちゃくちゃ出世する』『ものすごく女性にモテる』という共通点を持ちます。
私にサラリーマンの経験はありませんが、彼らはサラリーマンの憧れを凝集したような2人であり、だからこそ日本の漫画界を代表するサラリーマンになったのではないでしょうか。
そんな金太郎は妻・明美との間に長男の竜太をもうけましたが、
出産直後に明美は死去してしまいます。
その金太郎の後妻となったのが、本記事の題材である末永美鈴です。
美鈴は銀座の高級クラブ「ジャルダン」のママで、政財界に太いパイプを持つ切れ者であると同時に誰もが認める絶世の美女です。
美鈴はかつて政界の超大物である黒田征四郎の愛人として界隈では有名でしたが、
黒田征四郎が2年前に死去して以降はいかなる男性をも寄せ付けず、
銀座の伝説のママであり政財界における高嶺の花として強い影響力を持っていました。
そんな美鈴は金太郎に対し一目惚れ。
あっという間に口説き落とされてしまいます。
初めて連れられて行った銀座高級クラブで有無を言わさず美人ママにお持ち帰りされてしまうという音速の展開に読者は戸惑いを隠せませんが、
そもそも作中に登場する20~30代の女性はたいてい金太郎に惚れます。
さらには日本有数の大富豪である老婆、果ては未成年の芸能人に至るまで異様なまでの女たらしぶりを発揮しますので、
この程度のモテ具合は『サラリーマン金太郎』ではよくあることです。
ただし、日本サラリーマン漫画の二大巨塔の片割れである島耕作との大きな違いとして、
これだけモテるのに金太郎は作中で1回しか浮気をしませんでした。
(正確には関係を持ったのが1回、きわどかったのが1回)
いや浮気しとるやないかいというツッコミもあるかと思いますが、
妻子がいる身でニューヨークへの単身赴任中に現地の女性と子供を作って放置して帰国した島耕作に比べれば可愛いもんなので誤差の範囲内とします。
そんな島耕作のやらかしに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
美鈴の出産
その後、金太郎は美鈴と再婚して一子を授かりました。
妊娠経過は順調でしたが、美鈴がオーナーである競走馬・ダイゴのレースを見届けた直後、美鈴が突然の腹痛と出血を訴えます。
ただちに金太郎は救急車を呼び、美鈴を病院へ搬送しました。
金太郎の息子・竜太と、美鈴の連れ子・美々は遅れて病院に駆けつけますが、
看護師から「難しい状況であり、国立病院へ移った」と聞かされます。
搬送先の国立病院にて、金太郎一家は主治医の先生から病状説明を受けました。
そこでは「胎盤早期剥離」という病名、非常に厳しい状況であること、
そして最悪の選択もあり得ることも考えなければならない、という説明を受けました。
「いやだあああーーーっ」と絶叫し、先生にすがりつく金太郎。
メチャクチャ困った表情を見せる先生ですが、優しく金太郎を励まして逃げるように手術室へ入ります。
これはたぶん私でも逃げます。
かつて実母や前妻と死別した苦い過去のある金太郎は「俺は 女を殺すくさった運命を持ってるんだ」と自棄になりますが、
美々が金太郎を力強く励まします。
それにしても、生死に関わる状況だということを差し引いても
病院内で騒がしいなこの人たち。
たぶん手術室の裏では、
医師「他の患者さんいるから静かにしろって言ってきてよ」
看護師「先生が言ってきてくださいよ、どういうIC(病状説明)したんですか」
といった会話がなされていると思います。
やがて手術が終了すると、必要以上に神妙な表情の看護師に呼び出されました。
意識のない美鈴を見た瞬間、絶叫する金太郎。
漫画からは音量は伝わりませんが、この表情はハラの底から声が出てますね。
病院は大声を出す場所ではありません。
すると国立病院の産婦人科部長が「麻酔が効いてるから起きませんよ」と言い、母児ともに助かったことを告げました。
いや遅いよ。部屋に呼ぶ前に言えよ。
何でサプライズ演出かましたんだよ。
美鈴の分娩経過を振り返る
常位胎盤早期剝離
美鈴の分娩経過を振り返る前に、主治医の先生が言っていた「胎盤早期剥離」について解説しましょう。
これは正式には「常位胎盤早期剝離」と呼ばれる病気ですね。
「常位胎盤早期剝離」は、妊娠中に起きる病気の中でも特に怖いもののひとつです。
これは全妊娠の0.4~1.5%ほどに起きうる病気で、
母体と赤ちゃん、両者にとって命の危険になりかねません。
赤ちゃんは胎盤を通じて母体から酸素や栄養を貰っています。
赤ちゃんにとって胎盤は生命線ですので、出産が済むまで子宮にくっついている必要があります。
そして赤ちゃんが出てきたあとに胎盤が子宮から剥がれて、その役目を終えるのです。
いわゆる「後産(あとざん)」と呼ばれるものですね。
しかし稀に、出産が済む前にこの胎盤が剥がれてしまうことがあります。
胎盤が剥がれると、赤ちゃんは酸素を貰うことができません。
これは分かりやすく例えるなら、赤ちゃんが首を絞められているようなものです。非常に危険です。
「常位胎盤早期剥離」とは、このように「出産前に胎盤が剥がれてしまう」という病気なのです。
怖いのは赤ちゃん側だけではなく、母体にとってもかなり危険です。
赤ちゃんが産まれる前に胎盤が剥がれると胎盤と子宮の間でどんどん出血します。
この出血は増えることはあっても、自然に止まることはありません。
加えて、早期剥離では特有の仕組み(難しく言うと、胎盤組織の母体血への流入による凝固因子の枯渇)が働くので血が固まりにくい状態(DIC)になりやすいのです。
2010~2016年の日本における妊産婦死亡の原因として最も多いものが「産科危機的出血(22%)」ですが、
その「産科危機的出血」を起こした原疾患の第2位が「常位胎盤早期剥離(11%)」であったという統計もあります。
(参考:日本産婦人科医会「序文 妊産婦死亡と産科異常出血」)
赤ちゃんの命は勿論、母体にとっても決して無視できる疾患ではないことがお分かり頂けると思います。
美鈴の分娩経過
常位胎盤早期剥離がどういうものかが分かったところで、美鈴の出産に関する描写を振り返ってみましょう。
美鈴の初発症状は「突然の腹痛と出血」でした。
これは早期剥離の初発症状と一致しますね。
(陣痛の痛みは少しずつ強くなりますが、早期剥離では突然強い痛みが出現します。出血も「おしるし」より明らかに多いです。)
ベッドで移送される間も苦悶の表情を浮かべていますし、
陣痛が来ていないのにこの痛がり方をしているのは、主治医の先生の見立て通り常位胎盤早期剝離の可能性が高いと言えます。
他に考えるべき疾患としては子宮破裂あたりでしょうか。
これだけ痛がっているということは、子宮と胎盤の間にかなりの量の血液が溜まってきていることが示唆されます。
大量に出血しているとなると母体も危険ですし、
必然的に胎盤の剥離面積も広いことが予想されるので赤ちゃんも相当に危険です。
これはもう一刻を争う程に帝王切開を急ぐべき状況ですね。
場合によっては大量の輸血や赤ちゃんの蘇生処置も必要になってきますから、
個人病院から総合病院に搬送して緊急帝王切開を行うという主治医の先生の判断は適切と言えるでしょう。
漫画界クソヤバ産婦人科医四天王
ただ、問題は搬送先の国立病院の産婦人科部長です。
私はここからの彼の悪行をもって漫画界クソヤバ産婦人科医四天王の一角であると認定しました。
先程も疑問を呈しましたが、こういった命に関わる手術の終了後はまず母児の命が助かったことを最優先で話して、
その上で手術の状況や、術後に起きうる合併症のリスクに関してなどをゆっくり説明すべきです。
にも関わらず、この産婦人科部長は何の説明もなしに麻酔が効いて眠ってる患者さんと家族を会わせました。
金太郎のように絶叫するのはレアケースとしても、家族が取り乱すのは当然のことです。
そんな取り乱した家族を目の前にして、
恐らく家族の気持ちを何も考えていないであろう晴れやかな笑顔で
「よおーくがんばりましたあっ」という頭の悪い説明をぶちかまします。
なお、美鈴のようにかなり重症と思われる常位胎盤早期剥離では、
手術が終わるまでは上手くいったように思えても術後に出血が止まらなくなるなどの合併症が起こる可能性もあります。
「大丈夫 何の心配もない」
「後遺症も残らないでしょう もう大丈夫だ」
などという無責任な言葉は私なら口が裂けても言えません。
そして、極めつけがここからです。
彼はこのあと、金太郎一家を病院の駐車場に呼び出しました。
執刀を行った医者に呼び出されるというのは、家族にとって非常に緊張する出来事です。
母児の生死がかかった手術の直後なら尚更でしょう。
‥‥‥‥‥
ちょっと理解ができないので要約しましょうか。
つまり、「うちの犬が子犬を5匹産んだが、余ってしまったのでもらってくれ」とのことです。
なるほどなるほど。
それを伝えるためだけに意味不明なサプライズをしたわけですね。
この圧倒的なまでの空気の読めなさで
産婦人科という訴訟リスクの高い科の部長がまともに務まるのか甚だ疑問です。
患者さんの命を救った直後にこんな断りにくい要求を突き付けてくるあたり、
現実に存在したら死ぬ程やっかいな医者であることは疑いようもないでしょう。
それでいて「犬は安産の守り神」だとか「奥さんが奇跡的にがんばれたのはこいつのおかげ」だとか、
メチャクチャな理論でとにかく犬を押し付けようと必死です。
「雑種だからみーんな無視するんですよ」とか言ってますが、
たぶん普段からこういう行動してるから無視されてるんだと思います。
ていうかそもそも車の中に犬を放置するなや。
ワンちゃん死んだらどないすんねん。
幸いにも竜太が世話を買って出たことで円満解決しましたが、
「これからも矢島さんの家族の病気は私に任せなさい」
という申し出については私ならお断りします。
なのにこいつ看護師から好かれてるのか。
どんだけ心が広いんだここの病院のスタッフ。
私だったらこんな部長の下で働くのは絶対に嫌ですが。
おそらく彼が部長を務めている限り、遅かれ早かれこの産婦人科は何か重大な事件を起こすことでしょう。
まとめ
というわけで家族への病状説明の順番がメチャクチャで、
かつ命を助けた弱みにつけこんで飼い犬の始末を患者の家族に押し付けた国立病院の産婦人科部長を
栄えある漫画界クソヤバ産婦人科医四天王の1人として認定させて頂きます。
特に誇れることではありませんが、おめでとうございます。
なお、四天王のうち彼を除く3人は人格もさることながらそもそも産婦人科医として知識・技術があまりにも稚拙という理由による選出です。
今回の部長に関しては重症度が高いと思われる常位胎盤早期剥離の手術をきちんと成功させていることから腕自体は至極まともであると思われるため、
純粋に家族対応のクソさだけで四天王に選出されたというある意味ストロングスタイルを貫くクソ医者です。
そういえばあまりのクソヤバ産婦人科医ぶりにお話ししそびれていましたが、美鈴の赤ちゃんは無事でした。
ちなみに実際にこんな産婦人科医がいるのかという疑問を抱かれると思いますが、
ごく稀にこういう性格が終わっとる部長がいることは否定できません。
さすがに子犬を押し付けたケースは聞いたことありませんが。
実際に医局に所属して働いていると、「こいつ人の気持ちとか一切分からないまま、研究と論文と手術の腕だけで出世したんだろうなあ」と思わされる上司がたまにいます。
たまにですよ?(背後に気配を感じつつ)
万が一、この記事が消されたらそういうことだと思っておいて下さい。
以下、関連記事です。
漫画界最凶最悪の産婦人科医はこちらです。
漫画界最凶最悪の産婦人科医、『美味しんぼ』西浜タエについて考える
同じく四天王の一角を担う産婦人科医です。
常位胎盤早期剥離については、当ブログでもしばしば解説しています。
『ブラック・ジャック』より常位胎盤早期剥離と緊急帝王切開について解説する
産婦人科医が『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』の描写を解説する
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「男女の産み分けってできるの?」「逆子って直せるの?」「マーガリンは体に悪いの?」などの記事を基本無料で公開しておりますので、こちらもお楽しみください。
記事拝見しました。以前コナンの記事のコメントで匿名になっていたので今後このハンドルネームを使います。
指摘の通りこの産婦人科部長、「金太郎」本編を通して読むと(本宮節のせいで)そこまで異常な感じじゃなかったんですが
たしかに患者の家族に対してふざけてるとしか思えないんですよね…
多分ですけど、ファミリーものでペットを出しておくと話が広がるので強引に登場させちゃったんでしょうかね?
子供が捨て犬拾ってくるとかベタ過ぎで面白くないとか…
産婦人科医ではないんですが、ジャンプで連載していた「スケットダンス」の椿医師(院長)がなかなかトンデモで
主人公の高校生・佑助が同居している母親が実母ではないと気付き、事情を聞くと
15年前、学生時代からの友人のカップルがいて、ある日その片方が産気づいたので病院まで車で送ろうとしたら途中事故に遭い、それが原因で出産直後に亡くなってしまい、さらに同じタイミングで実父である旦那も事故で無くなってしまったと知る。
しばらくして、その事故の相手だった地元の病院・つばき医院の院長、椿院長が佑助のもとに謝罪にくる…という流れだったんですが
その経緯が壮絶で
①椿院長自身は病院の二代目で、病院のスタッフの女性と結婚し、継いだのはいいが子宝に恵まれず前院長(父親)から圧力をかけられ、連日の激務で疲弊していた。
②ある日、ウトウトしながら車を走らせていたら対向車線から来た車と激突!中には出産間近の妊婦が!※実は相手(佑助の義母)の視界不良も原因だった。
③すぐさま自分の病院に搬送(!?)全力で手術を行い、子供は無事取り上げたが母親の命を落としてしまう。
④その亡くなる直前、母親から告げられる。
「実は赤ちゃんは双子で、もし自分が死亡したらあなたにお願いしたい。」
「ここまで送ってきてくれた友人の性格上、絶対子供を引き取ると思うが、当人はデザイナー志望であり『2人』も育てるなんて難しいだろう。友人の夢を邪魔したくない。」
⑤いろいろな感情が巡りにめぐって椿医師の出した決断が
「よし!子供を片方引き取って、最初から子供は1人だったと言ってその友人に片方の子を渡そう!『1人』だったらどうにかなるだろ!」
⑥冷静になって後悔するものの、引き取った子に情が芽生えて言うに言えない状況が15年経過…
…いやもう法律とか超越したなにかを感じましたね。
いつもお読み頂きありがとうございます!
話広がりそうだからペットを登場させた、は結構ありそうです。
まあその後は全くと言っていいほど本筋に絡まないわけですが…
『SKET DANCE』のボッスンと椿ですね。
あれに関しては確かに取り上げ甲斐のある描写ではあります。医学的な話以上に法律的な話で。。。
椿医師の行動そのものは医者以前の問題ではありますが、父親からのプレッシャーで疲弊していたり、その後は後悔の念を持ち続けていたり、息子(佐介)とは良好な関係性を築けていたりと、
四天王に比べると情状酌量の余地がある分まだギリギリ…ですかね…?
良い感じの構成が整ったら記事にしようかと思います。ありがとうございます!
まあBJ先生も似たようなこと(しょっちゅう)してますから(^_^;)
それでもコイツの方がヤバそうなのはカタルシスが低いからなんでしょうな
最近、三田紀房先生の「Dr.Eggs」が面白いんですが、お医者様の学校ってみんなあんな感じなんですかねえ?
ご参考になる意見がございましたら、ぜひ取り上げてみて欲しいです♡