こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
突然ですが、皆様が一番好きな中華料理は何ですか?
そうですね、炒飯ですね。
私もチャーハンは大好きです。
では、漫画史上最も多くの人を救ったチャーハンとは何でしょうか。
そうですね、『真・中華一番!』で人々の脚気を治した「奇跡!彗星炒飯」ですよね。
産婦人科医は妊婦さんに栄養指導を行うことも多く、
栄養学については日常診療でも多少意識しているところです。
そんなわけで今日は「奇跡!彗星炒飯」の紹介と「脚気」の解説、
そして産婦人科医の目線から見て「本当に奇跡!彗星炒飯で脚気が治るのか」を考察してきましょう。
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『真・中華一番!』のあらすじ
小川悦司先生『中華一番!』は清朝末期、19世紀の中国を舞台とした中華料理漫画です。
1995年に週刊少年雑誌で連載を開始し、雑誌の移籍や『真・中華一番!』への改題などを経て1999年まで連載されました。
主人公は劉 昴星、通称「マオ」です。
マオは四川省の名店「菊下楼」料理長のパイの息子にして、13歳の若さで最難関とされる特級厨師試験に合格するほどの天才料理人です。
『真・中華一番!』ではマオと仲間たちが中国全土に散らばる”伝説の厨具”を巡り、謎の料理組織「裏料理界」と壮絶な戦いを繰り広げるという物語が展開されます。
この漫画が他の料理漫画と一線を画している最大の理由が、その料理の規模の大きさにあります。
豚一頭分の肉が全て入る大きさの焼売を作る程度は朝飯前で、
牛の丸焼きの中に子豚を仕込んで丸焼きにしたり、
食材を美味しく切れる代わりに触った料理人が凍傷になる包丁が登場したり、
果ては川を丸ごと煮立たせてさせて煮魚を作るという環境破壊が目的としか思えない料理法まで飛び出します。
(この煮魚は完成の直前に大雨が降ったことで未完成に終わりましたが、川は沸騰させてしまっているので生態系への影響は待ったなしです)
『美味しんぼ』が「食材が自然に近いもの、料理法が伝統的であるものほど美味い」という規則で動いているのに対し、
『中華一番!』の世界においては「料理の規模が大きければ大きいほど好!」とされるのです。
料理漫画の例に漏れず、美味しい物を食べた時の反応もまた一流です。
顔芸は基本中の基本ですね。
料理にも武力にも秀でた頼れる美男ことシェル兄貴であろうと美味い物を食えば顔面が崩壊します。
↓
知県閣下ともなれば口の中に竜巻が発生しますし、
食べる前から包丁の切れ味の良さに反応をとることもあります。
というわけで、皆様の心の歯車が「現実的な料理漫画」から「ぶっ飛び料理少年漫画」に切り替わったところで本題に移りましょう。
奇跡!彗星炒飯
マオ一行が”伝説の厨具”を探す旅の道中、九華山に”第三の厨具”があるという情報を得ました。
しかし九華山に来てみると、住民たちは無気力に呆けており、
「山を開拓した働き者たちが住んでいる」という情報と明らかに食い違っています。
どこからともなく銅鑼の音が鳴り響くや否や、お椀を持って一目散に疾走する住民たち。
集まった先では住民たちほぼ全員が集まり、お椀と金品を携えていました。
そこには凄まじい容積の巨大鍋(底の方をすくうの大変そう)があり、金品と引き換えに巨鍋の湯を飲んでいました。
住民たちは一様に「”神”の味だ!」と感動の涙を流します。
湯の正体が気になったマオは旅費を差し出し、湯と交換します。
どうやらアワビの湯のようですね。
およそ二枚目主人公がしてはいけない表情をしつつ、腰が抜けるほどの美味しさに驚くマオ。
特級厨師のマオをもってしても解析不能な美味しさは、「”伝説の厨具”の使い手が作った料理に違いない」と推察します。
この湯を作ったのは、かつてマオが懲らしめたことのある悪徳料理人、ウォン=セイヨでした。
セイヨは”伝説の厨具”「魔聖銅器」の力を使ってアワビの湯を作ったようです。
極上の湯を作れるのをいいことに、九華山の住人たちから奉納金と称して金品を巻き上げていたということですね。
平和な村を滅ぼしてまで私腹を肥やそうとするセイヨにマオは怒り心頭。
”伝説の厨具”を後回しにしてでも徹底的に叩きのめすことを決意しました。
では、九華山の住人は何故、一様に呆けていたのでしょう?
その理由をマオは「紺生素不足による脚気」であると推察しました。
(ちなみに中国語でビタミンは「维生素」であり「紺生素」ではありません。連載当時、文字を用意できなかったのかもしれません)
マオは九華山で神として崇められている「彗星神」を名乗り、住民の前に登場しました。
そしてセイヨに料理対決を挑みました。
神を名乗ってること以外は思いのほか正統派の戦い方ですね。(私だったら普通に役人に通報します)
かつてマオに辛酸を舐めさせられたセイヨは油断せず、料理対決のためにとっておきの巨大アワビを取り出しました。
この巨大アワビで作った特製料理はもう息もできない!重力にさえ逆らえない!という確実にヤバいブツなわけですが、
それに対抗してマオが出したのは巨大な皿でした。
住人たちが驚き戸惑っている中、
マオが手を振り上げると彗星がお皿に降り注ぎます。
そうはならんやろ。
まさかの投石器でチャーハンをぶん投げてお皿に命中させた模様です。
投げたシロウの制球力が凄すぎますね。
例えあらかじめ練習していたとしても、この距離ならちょっと風が吹いただけで着地地点がマオの頭上なんてことも普通に有り得ます。
そもそもチャーハンを投石器でぶん投げたら凄い勢いで飛散すると思います。
それに、このチャーハンは着地時に湯気が立ち込めるほど熱々のようですが、
それを調理してたのは一体誰で
いや、もうやめましょう。『中華一番!』にこんなツッコミは野暮というほかありません。
こうして住民たちはチャーハンを食べ始めます。(私なら空から飛んできたチャーハンなんて食いたくありませんが)
飛んでいきました。
ちなみにこの反応は『中華一番!』の世界においてむしろ控えめな部類に入るので、
初見の皆様は一旦心を落ち着かせましょう。
※控えめではない例
この奇跡!彗星炒飯を食べたことで、だるそうにしていた村人たちが見る見るうちに活気づいていきました。
奇跡!彗星炒飯は緑黄色野菜たっぷりで、不足した紺生素を一気に補給できるようにしてあるそうです。
活気づいた村人たちが正気を取り戻し、マオがセイヨの企みを暴露したことでセイヨは立場を失墜。
九華山から追い出した上に、”伝説の厨具”「魔聖銅器」を手に入れることもできました。
というわけで、『真・中華一番!』の紹介は完成了!
脚気とは
はい、それではここからがこの記事の本題です。
「脚気」という病気について解説しましょう。
脚気とは、マオが言うように紺生素不足により生じる病気です。より正確に言えば、硫胺素ですね。
硫胺素は糖質を動力に変換するのに必要な栄養素です。生きていく上では絶対に欠かせない重要な栄養素の1つと言えるでしょう。
日本では江戸時代、江戸を中心に白米を食べる文化が始まった頃に大流行した病気としても知られています。
体調を悪くした病人が江戸から故郷に帰るとケロッと治ってしまったので、「江戸わずらい」とも呼ばれました。
(江戸以外の地方では硫胺素の豊富な玄米を食べるのが一般的だったのです)
たかが脚気と馬鹿にはできないもので、江戸時代には年間1~2万人もの人々が亡くなっていました。
ちなみに脚気と聞くと膝を打腱器でコンッと叩いてビクッと動くアレ(膝蓋腱反射)が思い浮かぶ方もいると思いますが、
アレは脚気が流行していた当時の日本で脚気を診断するために必須の検査でした。
脚気は無くなった病気?
その後、脚気の原因は解明されましたし、栄養学が発展して脚気の患者数は減りました。
しかし、脚気という病気が無くなったわけではありません。
具体的には、妊婦さんや酒精依存症、透析患者さんや糖尿病患者さんなどでは今でも起きうる病気なのです。
さらには、清涼飲料水を極端に飲み過ぎた場合も発症する可能性があります。
妊婦さんに起きうる状況としては、何といってもつわりですね。
あまりにもひどいつわりだと数週間単位で殆ど何も口にできない方もいらっしゃるので、硫胺素欠乏を引き起こして脚気を発症することがあるのです。
そのため、産婦人科医が重傷妊娠悪阻(ひどいつわり)の妊婦さんを診る場合、点滴に硫胺素を添加することが多いです。
九華山の住人たち
さて、九華山の住民たちを見てみますと、奇跡!彗星炒飯を食べた直後からピョンピョン跳ね回っています。
これはさすがに回復が早すぎますね。
糖質を動力に変換するという硫胺素の性質上、それが消化吸収されて体中で作用を発揮するのにある程度の時間がかかります。
2014年に報告された症例を見てみると、硫胺素欠乏により意思疎通のできない状態だった患者さんに硫胺素を注射したところ、会話が可能になったのは6時間後だったようです。
(参考:桑原昌則ら「ショック,意識障害をきたした高齢者のビタミンB1欠乏症(脚気)の1症例」日本心臓病学会; 46 893-899, 2014)
これを見ると年齢や重症度、元々の全身状態によって多少の誤差はあれど、回復に少なくとも数時間はかかるでしょうね。
また、硫胺素はニンニクやほうれん草にも豊富に含まれていますが、特に豊富なのは玄米と豚肉です。
九華山の住人の症状を脚気と見抜いたマオは、優先して補給すべき硫胺素が豊富な玄米や豚肉、その他の紺生素を補給するために緑黄色野菜を取り入れつつ、糖分・脂質・たんぱく質の調和を考えた結果選んだのがチャーハンだったのでしょう。(玄米を使ったかどうかは不明ですが)
材料的にちょっと消化に悪そうなことだけが気になりますが、栄養価を考えた食材選びとしては意外と理にかなっていますし、実際に住民たちの症状は改善しているので良しとしましょう。
なお、脚気は未治療のまま放置し続けると、Korsakoff症候群という重い脳障害に進展する可能性があります。ここまでくると、いくら硫胺素を補給しても完全には治りません。
九華山の人たちに後遺症が残っている様子はないので、どうやら比較的軽い脚気の段階で済んでいたようですね。
まとめ
以上、『真・中華一番!』の「奇跡!彗星炒飯」と「脚気」に関する解説でした。
『中華一番!』の規模の大きさが分かって頂けたかと思います。
もしかすると読者様の中には、こんな意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
いくら『中華一番!』でも、これを上回る規模のチャーハンなんて無いよね!
やっぱりあなた達はワカってない
小川悦司という人物を―――
以上、母なる太陽球の紹介でした。
※ちなみにこの不衛生なチャーハンは西太后陛下(中国全土で最高峰に偉い人)に食べさせました。
おまけ
さて、皆様はここまでチャーハンチャーハン連呼されすぎて、
もうお口の中がチャーハンの気分になっている頃かと思います。
なっていますよね。書いてる私自身が一番なっています。
もちろん自炊したりお店で食べたりするのも良いのですが、ご家庭でもっとお手軽に本格的なチャーハンを食べたいという方も多いでしょう。
そこで、チャーハン大好き産婦人科医やっきーが最もお勧めする冷凍チャーハンをご紹介しましょう。
それがこちら。
美味しさに定評のある「大阪王将」の一番人気、『直火炒めチャーハン』です。
私、これが大好きなのです。
パラパラの食感、お酒との相性抜群な濃いめの味付けもさることながら、惜しみなく使われた九州産黒豚の叉焼は噛むごとに旨味が膨らみます。
ああもう、辛抱たまりません。
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