こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
本日の【漫画描写で学ぶ医学】の題材は「青酸カリ」です。
日本においては殺人事件を扱ったフィクションに欠かせない毒物として有名ですね。
というより、フィクションにおいて「毒殺」と言えば青酸カリ、と言っても過言ではないほどの存在感を発揮しています。
近年はほぼコナン君のせいですが。
そんなわけで、名前だけは知ってるけど実際見たことはないでお馴染みの「青酸カリ」について、
具体的にどういう症状が出るのか?
実際に使われることが滅多にないのは何故か?
そもそも何故こんなに有名になったのか?
といったあたりを詳しく解説していきましょう。
青酸カリが登場する漫画
では、青酸カリが登場する漫画を具体的に見ていきましょう。
…と言いたいところですが、近年の殺人事件もので青酸カリが使われている作品はほぼ『名探偵コナン』に限られます。
『コナン』以外で青酸カリが使われている話を調べるにはちょっと昔の作品まで遡る必要があります。
有名どころでは、医療漫画の金字塔『ブラック・ジャック』に一度だけ青酸カリが登場しました。
「ガス」にてピノコが風邪薬と間違えて青酸カリ入りのカプセルを飲んでしまいました。
ここではBJ先生の機転と手術により、カプセルが溶け出す前の摘出に成功しています。
少年漫画ミステリーの超有名作として『名探偵コナン』と双璧を成すのが『金田一少年の事件簿』ですね。
さぞかし『金田一』にも青酸カリは使われまくっているに違いない…と思いきや、
『金田一』は撲殺・刺殺・絞殺といった物理攻撃が主体のため毒殺自体の頻度がそれほど高くありません。
もちろん全く使われていないわけではなく、例えばFile7「異人館ホテル殺人事件」では青酸カリによる毒殺が2件行われました。
『名探偵コナン』
このように昭和中期~平成初期にかけてフィクションに数多く登場し、2000年代頃からその使用頻度が急速に落ちた青酸カリですが、
バリバリの現役で使用されている数少ない作品が『名探偵コナン』です。
1994年の連載開始以降、2024年現在に至るまで漫画・アニメ・映画と一線級の活躍をしている作品です。
そんな『コナン』においては今なお毒殺といえば青酸カリと言えるほどの扱いを受けており、現在の青酸カリの認知度向上に一役買っている面は多分にあるでしょう。
『コナン』における青酸カリ初登場のエピソードは単行本2巻収録の「奇妙な人探し殺人事件」ですね。
後のメインキャラ・灰原哀の姉である宮野明美が黒の組織の末端として10億円強奪事件を起こしたのですが、
彼女の共犯者である大男・広田明(偽名)は青酸カリによって毒殺されました。
青酸カリが登場する『コナン』のエピソードを他にも挙げたいところですが、あまりにも多すぎるのでもう1つだけご紹介しましょう。
15巻「金融会社社長殺人事件」です。
犯人は金融事務所のコンロのツマミに毒を塗るというひとつ間違えたら他の人を殺しそうな方法で社長を毒殺しています。
(社長にコンロを触らせるための策は一応ありましたが)
特筆すべきはコンロに付着した青酸カリの証拠隠滅の方法です。
犯人はハンカチにチオ硫酸ナトリウムを染み込ませてコンロを拭き取り、鑑識の目をごまかしました。
チオ硫酸ナトリウムは青酸カリの毒性を弱める作用があり実際に青酸中毒の治療薬として使われるほか、
病院で手術が終わった時などにヨードの消毒剤を落とすための「ハイポエタノール」としても使われます。
ちなみにコナン君、このトリックを示すためだけに蘭に探偵事務所へ戻らせヨードチンキを持ってこさせました。
証拠品のハンカチを鑑識で調べた方が確実だと思いますが、わざわざヨードを持ってこさせる意味とは。
青酸カリについて
『コナン』ではこれ以降も青酸カリが山のように使われているのですが、
全エピソードを解説していたらとんでもない分量になってしまったのでこの記事の最後にまとめて紹介します。
では、ここからは青酸カリそのものについて詳しく解説していきましょうか。
青酸カリとは?
そもそも「青酸カリ」は通称に近い呼び名で、化学的には「シアン化カリウム」または「青酸カリウム」と呼ばれます。
金属工業の世界ではメチャクチャ重要な薬品で、金や銀を抽出したり金属のメッキに使われるほか、
(現代ではまず使われませんが)昔は写真の現像や昆虫標本作りにも利用されていました。
そもそも青酸カリの根幹をなす「シアノ基(CN)」という構造自体がめちゃくちゃ人体に有害なので、
シアノ基をもつ化合物を「シアン化合物」と呼びますが、青酸カリ以外のシアン化合物も殆どが強力な毒性を持っています。
そんなシアン化合物、日常生活には無縁の物質だと思われがちですが実はかなり身近な物質で、
車の排気ガスやタバコの煙などにも含まれるほか、
生のアーモンドや果物の種などにも微量ながら含まれます。(大量に摂取した場合に中毒を起こした例もあります)
青酸ガスの匂いが俗に「アーモンド臭」と呼ばれるのはこのためですね。
なお、ここで言うアーモンド臭とは収穫前の生のアーモンドで、身近なものだと杏仁豆腐の香りが近いようです。
青酸中毒
そんなシアン化合物を一定以上摂取した際に起きるのが「青酸中毒」です。
例えば青酸カリを摂取した場合、
口から入った青酸カリが胃酸と反応して「シアン化水素」というガスを発生させます。
青酸カリ自体もかなり毒性は強いのですが、シアン化水素のヤバさは尋常ではありません。
シアン化水素が胃粘膜・肺・皮膚などから吸収されると細胞がエネルギーを生み出せなくなります。
超簡単に言えば、体中の全細胞が窒息して死ぬクソヤバ毒ガスです。
人間の体において常にエネルギーを欲している臓器ツートップが脳と心臓なので、
青酸中毒をきたすと脳と心臓にすさまじいダメージが及んで死にます。
少量ならばめまい、頭痛、失神などで済むケースもあるものの、
一定以上の量を吸入すると意識障害やけいれん、不整脈や血圧低下などが起きて死にます。
特に大量の場合は「急に大声を出して倒れ、けいれんを起こして急死する」という「脳卒中型」と呼ばれる症状を起こすとされています。
『コナン』に出てくる青酸カリ中毒死の大半は、この「脳卒中型」の症状にのっとった描写がなされていますね。
ところで初期の『コナン』も『金田一』も青酸中毒者は血を吐いて倒れるのが初期症状のように描かれていましたが、
青酸中毒を起こしても吐血は基本的に起きません。
確かに青酸カリは強いアルカリ性で粘膜に対する腐食性を持っているため、摂取量や飲み方次第で少量の血が出る可能性はありますが、こういう噴水のような出方はしません。
(読者からの指摘があったのか、「金融会社社長殺人事件」以降の被害者は吐血していません)
青酸中毒の治療法
青酸の吸収速度はメチャクチャ速く、摂取してから数秒~遅くとも数分以内には症状が出現します。
(胃の中に食べ物が多量にある場合などはもう少し遅れることも)
とはいえ、青酸中毒はたとえ患者さんが昏睡や呼吸停止していたとしても、心臓さえ動いていれば救命の可能性は残されています。
実際、メッキ工場の事故などで青酸中毒を起こした例はいくつも実在しますが、即死した症例を除いて多くの患者さんはきちんと回復できています。
それでは救急の現場でどのように青酸中毒に対応するのかを見ていきましょう。
・酸素投与と呼吸管理
まずは何といっても酸素が必要です。
青酸は体中の細胞を窒息させて死ぬ(厳密に言えばちょっと違いますが)ので、
とにかく酸素を送り込んであげれば青酸の毒性をある程度カバーすることができます。
・解毒剤の投与
次はシアン化合物の毒性を薄めるための解毒剤です。
「金融会社社長殺害事件」で使われていた「チオ硫酸ナトリウム」もこれに含まれますね。
より厳密な治療法としては、最初に「亜硝酸アミル」をガーゼに浸して吸入し、
次に「亜硝酸ナトリウム」を注射し、その後に「チオ硫酸ナトリウム」を注射します。
即死を免れることができれば、これらの対応により後遺症なく回復することも十分に期待できます。
参考文献
伊規須英輝, 住澤知之『シアン化物中毒』臨牀と研究 82(9): 1530-1534, 2005.
井上尚英『シアン化物による中毒の臨床』臨牀と研究 76(7): 1334-1336, 1999.
青酸カリの問題点
そんな青酸カリですが、ハッキリ言って現代日本において殺人に用いる毒物としては全く向いていません。
というのも、現実で使用するにはかなり使いづらい毒物なのです。
・問題点① 管理が厳重
青酸カリは「毒物及び劇物取締法」で毒物に指定されており、厳重な管理が求められるほか購入元に記録が残ります。
青酸カリを購入した工場や研究所から盗むとしても、青酸カリは鍵のかかる倉庫での保管や在庫量の記録が指示されており、そう簡単に流出させられるものではありません。
要するに「青酸中毒による明らかな他殺」というだけで犯人がそれなりに絞られるのです。
・問題点② 保管しにくい
犯人だとバレても一向に構わんという心構えで青酸カリを購入したとしても、そもそも青酸カリの保管は難易度が高いです。
青酸カリは強アルカリの物質であるため、空気中の二酸化炭素と勝手に反応して有毒ガス(シアン化水素)を出すほか、
日光に当たると分解していくという取り扱いの難しさも問題ですね。
・問題点③ 飲ませるのが難しい
ここまでのハードルを乗り越えて青酸カリを手に入れたとしても、実際に服毒させるのは至難です。
先程も書いた通り、青酸カリは強アルカリの物質です。
青酸カリの致死量は成人で200~300mg程度と言われていますが、
水1Lに対し青酸カリ100mg(致死量の半分以下)を溶かしたとしてもpH 11.0くらいの強いアルカリ性を示します。
そしてアルカリ性の物質はめちゃくちゃ苦味があることが知られています。
お菓子作りなどで重曹を入れすぎると苦くなることがありますが、あれも重曹が弱アルカリ性を示す物質なのが原因です。
そんな重曹より遥かに強いアルカリ性物質である青酸カリはコーヒーに入れても明らかに味が変わると言われるレベルで、
要するに「気付かれずに食べ物に仕込む」ことがほとんど不可能な毒物なわけですね。
青酸カリがフィクションで使われる理由
では、何故こんなに扱いづらい青酸カリが『コナン』『金田一』を初めとした推理ものフィクションでは使われまくっているのでしょうか。
そもそも青酸カリの毒性が日本で有名になった最初のきっかけは、1935年の「浅草青酸カリ殺人事件」だと言われています。
この事件では小学校の校長先生が被害に遭っていますが、
青酸カリ入りの紅茶を一口飲んで「これは臭くてたまらない。まずいぞ」と言い、その直後に昏倒し絶命したようです。
このセンセーショナルな事件は東京日日新聞(現在の毎日新聞)が号外で取り上げ、
事件からわずか8か月で犯人に死刑判決が下される(当時の水準からしても異例の早さ)など世間からの注目も非常に高い事件でした。
丁度この頃の日本ではメッキ工場で青酸カリがよく使われていたほか、
昆虫標本の材料として薬局や文房具店でごく普通に青酸カリが売られていたなどの理由でかなり手に入りやすい毒物だったことも災いしました。
この事件以前も化学に詳しい人間が青酸カリを自殺に用いていた例はあったものの、
この事件がきっかけで青酸カリの毒性が広く知れ渡り、青酸カリ自殺が流行してしまったようです。
法整備がなされる昭和末期までは数年に一度くらいの頻度で青酸カリによる殺人事件が起きていたという記録もあります。
こうした青酸カリの知名度上昇は、逆に「毒性についていちいち説明する必要がない」という創作上のメリットを生む結果となりました。
見たことも聞いたこともない毒を使おうとすると、その詳細を説明しなければなりませんからね。
また、致死量を飲むとほぼ即死するという性質も物語を作る上で便利です。
この青酸カリに注目し、創作に応用したのが戦後の推理小説家たちです。
日本では戦前から「探偵小説」というジャンルが一大派閥を築き上げつつも、第二次世界大戦中は探偵小説が禁圧により出版できなかったのですが、
戦後はこれが解禁されたこと、そしてGHQの規制対象にならなかったことで探偵小説は復活を遂げます。
こうした戦後の流れで『怪人二十面相』で知られる江戸川乱歩、『金田一耕助シリーズ』で知られる横溝正史らが推理小説を再興させ、
結果として多くの推理小説作家が「分かりやすい毒殺の手段」として「青酸カリ」を使うことにした…というわけです。
つまり、青酸カリは「知名度が高い」「致死性と即効性が高い」という創作上の利点と、
「真似しづらい(模倣犯が出にくい)」という現実世界での利点が共存する、
作劇上の観点からきわめて都合の良い毒物だと言えます。
これらの理由で多少のリアリティを無視してでもフィクションで使われまくっているわけですね。
『名探偵コナン』の青酸カリ登場話まとめ
というわけで青酸カリが現実で使いづらい理由と、
それにも関わらずフィクションで使われる事情についてお分かり頂けたかと思います。
ここからは『名探偵コナン』原作で青酸カリが使われた事件を全て確認しつつ野暮なツッコミを入れていきましょう。
(手作業で確認したため、チェック漏れがある可能性があります)
「奇妙な人探し殺人事件」
先に紹介した『コナン』初の青酸カリ登場エピソードです。
前述した通り青酸カリでこんなに血を吐くことはまずありません。
実際のところは「何らかの毒を飲んだ」という描写がビジュアル的に分かりやすいので、
吐血しているのは漫画的記号としての事情でしょうね。
余談ですが、この事件にて宮野明美(灰原の姉ちゃん)は組織の末端として10億円強奪事件を起こしたわけですが、
10億円の所在を唯一知る人物である宮野明美に対してジンの兄貴は「だいたいの見当はついている…」と言いながら射殺。
結局10億円の所在は分からず、まんまと警察に押収されてしまいました。
黒の組織からすると無駄な事件を起こして世間の注目を集め、
構成員を3人死なせた上、ほぼほぼ手に入るはずだった10億円も手に入らないという、
普通の会社でも左遷は免れない話になったわけですが、果たしてジンの兄貴が組織の幹部を張れているのは何故でしょうか。
「カラオケボックス殺人事件」
次に青酸カリが登場したのは単行本5巻「カラオケボックス殺人事件」です。
人気バンド「レックス」のボーカル・木村達也が毒殺されました。(90年代では山のように使われた名前)
この事件でキムタツはどのように毒を盛られたかと言いますと、
①キムタツのジャンパーの左ひじの内側に毒を塗っておく
②キムタツが自分のヒット曲をジャンパーを脱いで左ひじを触る振り付け込みで熱唱することに賭ける
③キムタツがその直後にご飯を手づかみで食べることに賭ける
というメチャクチャな方法でした。
ライブ後の打ち上げという状況で振り付け込みのガチ熱唱をする可能性が高いとは言い難いですし、
そもそもジャンパーを着た時点で多少の毒が手に付着することは避けられませんし、
それを奇跡的に回避したとしても歌う前におにぎり食べまくってお腹いっぱいになってしまった場合は青酸カリが手に付いてるキムタツが普通に動き回るため非常に危険です。
こんなややこしい事せずにもっと犯人を特定しにくい状況で毒を盛ればいいのでは?(禁句)
「金融会社社長殺人事件」
こちらも先に紹介した15巻収録のエピソードですが、
青酸カリの致死量を考えるとコンロのツマミに塗る程度では少なすぎます。
「命がけの復活」
続いては『コナン』の作品全体を通しても非常に重要なエピソードである「命がけの復活」ですね。
今回の犯人は青酸カリを仕込んだ氷を入れたアイスコーヒーを被害者に飲ませた上で自分も同じものを飲み、
自身に容疑がかかるのを防ぐために青酸カリ入り氷が溶ける前に飲み干しました。
新一「その氷が溶ける前に急いで飲めばすむ事ですよ…」
「飲めばすむ事」で片づけるには余りにも度胸が要求されるトリックですが。
「集められた名探偵! 工藤新一vs.怪盗キッド」
言わずと知れた青山剛昌ユニバースの最重要人物・怪盗キッドが関係した事件である「集められた名探偵! 工藤新一vs.怪盗キッド」にも青酸カリが登場しました。
謎の人物によって毛利小五郎を始めとした探偵たちが「黄昏の館」に招聘されるのですが、
そのうち一人である大上祝善が青酸カリにより死亡。
犯人はティーカップの取っ手に青酸カリを塗っておき、
爪を噛むという被害者のクセを利用して服毒させました。どう見ても致死量に足りません。
「中華街 雨のデジャビュ」
次は34巻「中華街 雨のデジャビュ」です。
この事件の犯人は中華料理屋の回転テーブルの裏に毒を塗っておき、卵アレルギーの被害者の前に卵料理を回して遠ざけさせるというどう考えても不確実かつ不自然な手法を展開しており、
もはやいかに奇抜な方法で毒を盛るか大会の様相を呈してきましたね。
「トイレに隠した秘密」
まだまだあるのでテンポ上げていきましょう。
続いては41巻「トイレに隠した秘密」です。
この回でお粥食べてる哀ちゃんはマジ天使なのでそこは各自でご確認頂くとして、
今回はなんとトイレットペーパーの芯に青酸カリを塗っておき、被害者がウンコしたあと芯を触った手でハンバーガー食ったら死ぬという汚いトリックが用いられました。
何度読んでもきたねえ。
「ため息潮干狩り」
続いては51巻「ため息潮干狩り」ですが、
ペットボトルのフタの内側に青酸カリを塗っておくという過去トップクラスにシンプルな手法になりました。
「本庁の刑事恋物語」
次は52巻「本庁の刑事恋物語」。
コーヒーに青酸カリを混ぜただけというシンプルな手法はさておき、
コナン君がなんか嫌な予感がしたから様子を見に行ったら死んでたという、勘が鋭いとかいうレベルでは済まされない異常な能力を発揮しているのが見どころですね。
「殺意はコーヒーの香り」
次は60巻「殺意はコーヒーの香り」。
こちらもコーヒーに青酸カリを混ぜただけという『コナン』らしからぬ服毒法です。
(このトリックの肝は自殺に見せかけたことですが)
服毒法を「シンプルすぎる」と表現するのが適切かはさておき、
トイレットペーパーの芯に塗るとかジャンパーの左ひじ部分に塗るとかに比べるとひねりのない手法なのは確かです。
青山先生(作者)はスランプだったのでしょうか。
「回転寿司ミステリー」
続いては63巻「回転寿司ミステリー」です。
コナンら少年探偵団が回転寿司屋に行った際に客が青酸カリで死亡したわけですが、驚くべきはその手法。
使い捨てタイプのお手拭きに青酸カリを染み込ませておき、被害者の隣の席に座ってお手拭きをすり替え、これで拭いた手で寿司を食べたら死ぬというもので、
容疑の目から外れるために容疑のかかりやすい場所に座るという本末転倒なトリックが用いられました。
俺たちの青山先生が帰ってきた。
「裏切りのホワイトデー」
そして69巻の「裏切りのホワイトデー」。
ここではレモンの果肉の一部をオブラートで包んだ青酸カリにすり替えたものを用意し、
被害者がこれをレモンティーとして飲むというものでした。
犯人には常軌を逸した手先の器用さが求められますし、
被害者もかなり注意力散漫な人間でなければこのトリックは成立しませんね。
青山先生絶好調。
「絶叫手術室」
72巻「絶叫手術室」では原点回帰。
青酸カリ入りのカプセルを飲ませ殺害するところまでは特に工夫なく、
その後に被害者が生きてるように見せかけて犯人のアリバイを作る方向にトリックが展開されました。
「死ぬほど美味いラーメン」
↑の「絶叫手術室」からわずか3エピソード後にあたる73巻「死ぬほど美味いラーメン」で青酸カリ再登場です。
今度の服毒法は変化球タイプです。
犯人は理髪店の店主で、被害者が来店した際にメガネのフレームの左側に青酸カリを塗っておき、
被害者がラーメン屋に入った時にメガネが曇るのを利用して毒を触らせるという、
どう考えても上手くいく要素が皆無の手法で毒を盛られてしまいました。
余談ですが、メガネが曇ったことで過去最高のドヤ顔してるコナン君が私はめちゃくちゃ好きです。
結露!!
「毒と幻のデザイン」
↑の「死ぬほど美味いラーメン」からわずか5エピソード後の「毒と幻のデザイン」にて青酸カリ登場。
この時期の青山先生は毒殺がブームだったと見えます。
そして前述の通り青酸中毒は適切な処置を行えば生存できる可能性があるので、コナンも平次も諦めが早すぎます。
せめて救急車くらい呼ばない?
この事件の犯人は錯視・錯覚を利用して2人の人物に青酸カリを盛ったわけですが、そのうちの1人は
「若」の字をたくさん見せる
⇒ゲシュタルト崩壊して「若」の字が分からなくなり、国語辞典を引く
⇒「わ」のページに青酸カリを塗っておく
⇒被害者がその手をペロッと舐めて死亡
という他人頼みにも程がある手法でした。ピタゴラスイッチかな。
余談ですが、このエピソードで和葉は殺人事件が起きたその日に平次に告白をぶちかましました。
おめえ倫理観ぶっ壊れてるのか???
「ギスギスしたお茶会」
続いては84巻の「ギスギスしたお茶会」。
なんと「毒と幻のデザイン」から単行本9冊分も空きました。
この犯人は酸性かアルカリ性かで色が変わるハーブティーを利用し、
レモン(酸性)や重曹(アルカリ性)で色を変えることで犯人に青酸カリ入りハーブティーを飲ませました。
結論から言うと、このトリックは実現できるかどうか以前に非常に危険です。
アルカリ性の青酸カリと酸性のクエン酸(レモン)を混ぜた時点で青酸ガスが発生して周囲の全員が危険に晒されるためです。
まあいいや、コナンのトリックだし。
余談ですが、対外的には一般人扱い(実際には公安)の安室に対し守秘義務ガン無視の情報漏洩をやっちまう高木刑事はそろそろ職を替えた方がいいと思うんだ。
「ゾンビが囲む別荘」
続いては88巻の「ゾンビが囲む別荘」。
青酸カリを飲ませる手法の説明は「うまい事飲ませて毒殺」。
雑ゥ!!!
「代役・京極真」
96巻の「代役・京極真」では青酸カリを仕込んだストローで服毒させるという直球なトリックが使われました。
相変わらずコナンは青酸中毒に対して諦めが良すぎます。
心臓マッサージくらいしなさいよ。
しかしこのエピソードの見どころはむしろロケバスをフルアクセルで走行し自殺を図った犯人に対し、後ろから追いついて持ち上げた京極さんですね。
京極さんなら蹴り一発でロケバスを横転させるくらいはお手の物だと思うのですが、あえての車体持ち上げ。
「天罰くだる誕生パーティー」
次の青酸カリ登場回は98巻「天罰くだる誕生パーティー」ですが、特に考察する余地がないので割愛。
「めんどうくさいトリプルコラボ」
というわけで、長かった『コナン』の青酸カリ登場話紹介もこれで最後です。
102~103巻収録「めんどうくさいトリプルコラボ」が現時点(2024年5月現在)で最新の青酸カリ登場回。
この話で興味深いのはむしろ、毒を塗ったイスを触った手でマリトッツォを食べさせるというトリックの方かもしれません。
あったなそんなスイーツ。
まとめ
というわけで以上、青酸カリに関する解説でした。
それにしても『コナン』の米花町は青酸カリによる殺人がここまで相次いだら青酸カリの扱いをさらに厳格にする法整備が進んでもよさそうなものですが、
犯人たちはどこから青酸カリを調達してきているのでしょうか。
ちなみに米花町には病院に青酸カリが置いてあるそうです。何で?
現代において青酸カリの用途はほぼ金属加工と化学合成くらいに限られるはずですが、
総合病院内で行うレベルの医学研究に青酸化合物などというクソ危ないものを一体何に使うのでしょうか。
しかもそれを職員とはいえ一介の事務員が盗んでバレもしないという管理のズサンさ。
こんな管理体制が横行している以上、どこの誰が青酸カリ持っててもおかしくない町なので、おそらくこれからも米花町では青酸カリによる殺人は行われることでしょう。
以下、関連記事です。
『コナン』では珍しい、青酸カリ以外の毒物を扱ったエピソードについてはこちら。
安室透初登場回の解説はこちら。
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昔から多いなと思ってましたが、コナンワールドでは青酸カリに対する規制がほとんど機能してないようですね…
いやそこら中にクリームに混ぜて塗られまくったらどうなるんだ…?
メタ的にいうと、凶器による暴行だと食周囲の物を壊したり、被害者が逃げる姿を描写しないといけないため
食事中からスムーズにくたばってくれる毒殺の方が作画労力と話の展開的に楽、ってのもありそうですね。
コナンの世界、蘇生諦めるの早すぎ問題に触れてみてほしいです!笑
これは面白そう…
いつかやります🐻❄️
通りすがりにこのブログを拝見しまして、面白くて色々な考察を読ませて頂いております。
コナンにおける青酸カリ事件なのですが、ネットでよく見かけるコナン画像の中に、コナンが青酸カリの入った液体(?)を舐め「ペロッ…これは青酸カリ!」のようなものがあったように思うのですが、あれはコラ画像なのでしょうか?それとも原作そのまま……?(原作を読んでいないのでわかりません)
もし原作のままであれば、青酸カリを「ペロッ」しても生きていられるのでしょうか?