こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
私のTwitterのフォロワーさんには医学部生、看護学生、薬学部生がちらほらいらっしゃるのですが、
この時期になるとタイムラインの2割くらいが「国家試験ヤベェ」という話で占拠されます。
私もかつて医師国家試験を受けた身なので、気持ちは痛いほど分かります。
なぜなら、医師国家試験の合格率は毎年ほぼ90%前後です。
…と言うと「なんだ9割受かるのか」と思われるかもしれませんが、そんな生易しいものではありません。
全国どこの学校であろうと、医学部は入学も進級もそれなりに難関です。
厳しい受験戦争を勝ち抜いて医学部に入り、熾烈な試験の数々を医学部6年生まで乗り越えた人間が勉強漬けになってもなお1割は落ちる試験、それが医師国家試験なのです。
そしてその落ちた1割に入ってしまおうものなら、同級生たちが研修医として働いているのを横目に勉強だけをし続ける無為な1年間が待っています。
絶っっっっっ対に落ちたくない試験なのです。
そして今年、2023年に行われる第117回医師国家試験の日程は2月4日・5日の2日間です。
この記事の公開(2023年1月30日)の5日後です。
このような状況にもかかわらず、私のTwitterをフォローし、私のブログを読んでくれている医療系学生さんたちのために、少しでも有益な情報をお届けしようと思います。
そこで本日は現役産婦人科医である私(やっきー)が第116回医師国家試験を言いたい放題に言いながら解いてみましょう!
非医療系の皆様の役にも立つようなるべく嚙み砕いて説明していますので、お気楽な気持ちで読んで頂ければ幸いです。
重要事項
この記事は厚生労働省の「第116回医師国家試験問題および正答について」の中から産婦人科範囲の問題+気になる問題だけをピックアップし、簡単な解説と率直な感想を書き連ねた記事です。
詳細な解説を目的とした記事ではなく、あくまでも「いち産婦人科医がこう考える」という内容ですが、試験本番でのヒントになれば幸いです。
医療系以外の読者の方のために、難易度を「易」「中」「難」の三段階に分類しました。
これは問題の難易度ではなく、あくまでも「一般の方々にとってイメージしやすい・有益な内容か」で分けています。
また、解説の太字の部分だけを飛ばし読みしても意味が分かるように書いています。
医療系の読者の方は太字ではない部分も読んで頂けると、より理解が深まると思います。
難易度:易(一般の方にもイメージしやすい)
116A2 - GBSについて
出産を経験された女性のうち10人に1人くらい「出産のときに何か点滴された」という記憶があるはず。
それはたぶん妊婦健診でGBSという菌が見つかったためです。
GBSの正式名称は「B群レンサ球菌」ですが、一般の方は知らなくてもOKです。
GBSは腟内にふつうにいる常在菌ですが、赤ちゃんに感染したら肺炎や髄膜炎などを発症する(可能性がある)菌なのです。
そのため、お産が始まった時に抗生剤を投与することで感染率を劇的に抑えることができるのですね。
PCG(ペニシリン)やABPC(アンピシリン)が基本ですが、ペニシリンアレルギーの妊婦さんにはCLDM(クリンダマイシン)が良いです。
aやbはタイミングが早すぎますね。かといってdやeだと直前すぎて抗生剤が効きません。
よって正解はcです。
116A47 - 強姦被害者の診察
強姦被害者の診察に関する問題です。
産婦人科医として働いてると、ときどき警察からこういう診察依頼があります。
『ハコヅメ』でも描かれましたね。
医師としては毎回、やるせない気持ちになる診察であり、
それと同じ数だけ「さーてレイプ魔のチ●コをちょん切りに行こう」と思ったものです。
それは一旦置いておいて、問題を読んでみましょう。
緊急避妊や証拠の採取を行ったり、何らかの性感染症の検査をするのは重要ですが、被害の状況を聞くのは産婦人科医の仕事じゃねえ。というわけで答えはeです。
何度も被害状況を思い出させて被害者の方のトラウマを刺激するのは「セカンドレイプ」という絶対にやってはいけない行為です。
116A52 - 苛性ソーダ
産婦人科ぜんぜん関係ないけど水酸化ナトリウム液(苛性ソーダ)がきました!!!
苛性ソーダ中毒について解説した記事がありますので、詳しくはこちらをどうぞ。
基本、こういう化学薬品系の初期対応は「まず洗いまくる」に尽きます。生食が理想的ですが無けりゃ水道水で良いです。答えはdです。
さらっと書いてるけど希塩酸液の点眼ってむしろどこで手に入るんだ。
116C46 - 産後
ハァーン!?なんだこのクソ問題!?
まずb、c、dは明らかに産後3日目の所見ではありませんので、容易に除外できます。
そしてeについてです。
後陣痛(出産後に子宮が元のサイズに戻ることによる痛み)は基本的に産後すぐ~1日目くらいが最も強いですが、多少の個人差があり、授乳の状況等にも左右されます。
答えは除外的にaとなりますが…
「初乳」は一般の方には聞き馴染みが薄いかと思いますが、実は母乳の成分は出産の直後と、それ以降とで変化します。
初乳とは産後3~10日くらいまでの間に出る母乳で、赤ちゃんの免疫機能を補う成分が多く含まれます。
産後2週間くらい経つと、赤ちゃんの体の成長に役立つ成分が多く含まれるようになるのです。
ただし初乳の定義はそんなにしっかり決まったものではなく、出産から5日以内、1週間以内、10日以内など諸説あります。
場合によっては「産後初めての母乳」を指すこともあります。
こんな曖昧な言葉を国家試験の問題にする意味が分かりません。
116C48 - つわり
これは臨床で山のように経験する場面ですね。妊婦さんたちにも是非知っておいて頂きたいところです。
妊娠により「つわり」「お腹の張り」などが原因で、それまでと同じように働くのは難しくなることは多いです。
そんな時に我々産婦人科医が発行するのが「母性健康管理指導事項連絡カード」です!
これさえあればどんなにブラックな職場に対しても水戸黄門の印籠のように劇的な効果を発揮します。
このカードを無視した労働をさせてたら行政から怖い人たちがやってきますし、
怒られるだけならまだしも企業名公開などのペナルティも普通にありえますからね。
そんなわけで答えはdです。
それでもブラック労働を押し付けてくる上司には妊婦チョップを食らわして出ていきましょう。
116D10 - 早期流産
流産は意外に起きやすく、およそ10~20%ほどの割合で生じます。
その原因のほとんどは染色体異常ですね。
答えはdです。これは知っておくしかないやつです。
116F8 - 過多月経
過多月経、つまり「月経の量が多くなる疾患はどれか」という問題です。
特にひねりのない問題ですね。子宮内膜(子宮の内側)の表面積が広がる疾患(子宮筋腫や子宮腺筋症など)は過多月経の原因になりますので、答えはaです。
他はむしろ月経量が減ります。
116F75 - 後期流産
これが第116回医師国家試験における最後の問題です。最後の問題が産婦人科範囲なのは嬉しい限り。
この問題は知らなきゃ解けない系の問題ですね。
妊娠11週までは早期流産、12週から21週は後期流産、22週からは早産として扱われます。
いわゆる「中絶手術」ができるのは早期流産にあたる週数、つまり妊娠11週までです。
12週以降に妊娠中絶をする場合、「中期中絶」という特殊な方法を使わなければ中絶できません。
そして12週からの流産や中絶には「死産届」が必要になります。
よって答えはdとなります。
12週以降の後期流産は少し稀なケースなので、実臨床では中期中絶の方が遭遇しやすく、産婦人科医としてもこちらを意識することが多いです。
難易度:中(一般の方には少し難しめ)
116A42 - 常位胎盤早期剝離
これは超やばいです!緊急帝王切開です!
他のなんやかんやは置いといて、妊娠後期で腟内に凝血塊があるというだけで産婦人科医としては常位胎盤早期剥離を疑います。
普通のお産の進行で腟内に凝血塊なんてことは普通ありません。
加えて、高年妊娠や妊娠高血圧は早剥のハイリスクですし、胎児心拍数陣痛図で遅発一過性徐脈が見られるため赤ちゃんにもストレスがかかっているようです。
胎盤の厚さも普通はせいぜい2~3cmなので、7cmというと胎盤と子宮の間に血液が溜まっている可能性が非常に高いですね。
実際の臨床でこれだけ証拠が揃いまくってる早剥はなかなかないですが、出題者による「これ早期剥離だぞ~分かってくれよ~」というアピールを感じます。
そんなわけで正解はaです。
早剥についてもっと知りたい方はこちらの解説記事をどうぞ。
漫画界クソヤバ産婦人科医四天王『サラリーマン金太郎』の産婦人科部長について語る
116A44 - 無月経
なんかゴチャゴチャ書いてあることは一旦無視して考えるとして、大事なのは「乳頭の圧迫で乳汁分泌がある」という部分ですね。この時点で高プロラクチン血症を疑いたいところです。
答えの選択肢が否応なしに全部ホルモンですが、実際の臨床で考えるならば「最初の1~2年は月経が来てた」というのが診断のポイントになります。
子宮や腟・卵巣などの形成に先天的な異常がある場合、1回も月経が来ないのが普通なので、1~2年は月経が来てたという場合は途中から何かがおかしくなった=ホルモン異常を疑いたいところ。
それでいて子宮長は3cmだそうです。思春期以降、妊娠していない子宮は鶏の卵くらいのサイズはあるので、3cmとは小さすぎますね。
高プロラクチン血症はLH・FSHを抑制します。要は、授乳中に排卵なんかしてる場合じゃねえってな感じでネガティブフィードバックが働き、女性ホルモンの働きが弱まるのですね。
これによって子宮がうまく育たたなかったものと思われます。答えはeです。
116A65 - 前置胎盤
この状況で34週でこんな病状説明を今更するってどういうことやねん(ふつう30週前後くらいで診断する)と言いたいところですが、
画像で赤ちゃんの頭の下にあるなんかモリモリした白いやつは胎盤ですね。
赤ちゃんが出る⇒胎盤が剥がれる⇒お産終了!おめでとう!というのが普通の流れですが、胎盤が赤ちゃんの出口を塞いじゃってるので赤ちゃんが出てこれません。
出てこれないどころか、産もうとしたら大量出血して死にます。この状態を「前置胎盤」と言います。
そもそも妊娠中にMRIを撮る状況といえば前置胎盤か、かなり大きめの子宮筋腫合併妊娠(たぶん国家試験で出ることはない)くらいなので、妊娠中のMRIが出てきたら前置胎盤で決め打ちでいいような気がします。
さらに既往帝王切開、かつ子宮の下の方(帝王切開で切る場所)に胎盤がかかっており、MRIでも子宮筋層と胎盤の関係がいまいちよく分からない=胎盤が子宮に食い込んでると思われるので、この患者さんは「前置癒着胎盤」と呼ばれる状態である可能性が高いですね。
普通の前置胎盤ですら相当リスクが高いですが、前置癒着胎盤はそれをさらに上回ります。
前置胎盤をフリーザ様とするなら、前置癒着胎盤は完全体セルくらいの強敵です。
3回目の帝王切開ということを踏まえても、帝王切開と同時に子宮摘出をする可能性も大いにあるレベルです。
そんなわけで選択肢はbとe。
選択肢のaとdは早期剥離の説明ですが、早剝でMRIなんか悠長に撮っとる場合ではありません。(撮るのに20~30分ぐらいかかる)
116B7 - 妊娠とホルモン
いわゆる「妊娠反応の検査」というのは、実際には尿や血液の中の「hCG」というホルモンを測っています。
受精卵が細胞分裂していくと、大まかに「赤ちゃんになる部分」と「胎盤になる部分」に分かれるのですが、この「胎盤になる部分」は最初のうちは「絨毛」という名前です。
この絨毛がhCGを分泌し、hCGが卵巣の「黄体」という場所を刺激してくれるおかげで、妊娠を維持するためのホルモン≒女性ホルモンがたくさん分泌されます。
胎盤が育ってくると胎盤自体が妊娠を維持するためのホルモン≒女性ホルモンを出してくれるので、hCGはそんなに要らなくなってきます。
てなわけで妊娠初期の方が高いのはhCG、答えはeですね。
116B37 - 頸管無力症
ぎゃー!!!
とりあえず問題うんぬん以前に、この超音波画像すごいな。
たぶんこの問題作った先生は朝のカンファレンスか何かでこの症例を見て「これ国家試験に出そう!!!」と心の中で強く思ったことでしょう。
気を取り直して、妊娠23週での腹痛、出血ですね。
本来、この週数なら子宮頸管(子宮の出口部分)がビッチリ閉じてるはずですが、
この超音波画像では穴の開いたちくわ状態になっています。
子宮頸管には「適切な時期まで赤ちゃんが出てこないようにする」という早産を防ぐ機構が備わっているのですが、それが機能していない、すなわち「頸管無力症」という状態です。
しかも赤ちゃんの足が先進して、子宮の出口らへんにあります。
破水でもした日には臍帯脱出(へその緒が腟内に出てくる状態。スーパーウルトラやばい。超緊急帝王切開)が起きかねません。
もう数え役満です。一刻も早く頸管縫縮術をしたいですね。
よって答えはc…と言いたいところですが、この手術をする前には子宮収縮抑制剤を投与し、少しでもお腹の張りを取らなければいけません。
頸管縫縮術というのは子宮頸部を引っ張ったり針を通したりと刺激がたくさんあるので、子宮収縮が起きやすい手術なのです。
そんなわけでまず最初に行うのはdです。cはその次に行うものですね。
それでもやっぱり破水してしまうなどで出産せざるを得ない状況とれば、eを行ってからbという方針になるでしょうか。(現在では人工羊水などの治療も検討されているようですが)
この問題、学生には難しすぎないかな?
(2023/1/31 追記)
Twitterで相互フォローをしている産婦人科の先生から「リンデロン(副腎皮質ステロイド)を真っ先に行きたい」とのご意見がありました。
確かに妊娠34週未満の早産が懸念される場合、児の肺成熟を促すためにリンデロンを投与します。
個人的には妊娠22週~23週でのリンデロン投与のコンセンサスは限定的であるためβ2刺激薬(子宮収縮抑制剤)を優先したいと考えますが、リンデロンは手技が簡単(筋肉注射するだけ)ですし、母児にそれほど大きな害があるわけでもないので決して否定される内容ではありません。
というわけで、「e:副腎皮質ステロイドの筋注」も適切だと思います。
現役産婦人科医同士でも意見が割れる問題を国家試験にしたらあかんがな。
116B39 - 子宮粘膜下筋腫
過多月経に伴う動悸と息切れ、よくある症状ですね。
さらに子宮の内腔に飛び出しているビー玉みたいな子宮筋腫(粘膜下筋腫)が見えます。
この筋腫のせいで子宮内膜の表面積が増えて、月経時にたくさん出血してしまう、という病態です。
これは子宮鏡下手術(細いカメラで子宮の中を見ながら手術をする)の良い適応になります。答えはbです。
a、dをやってしまうと妊娠できなくなるので論外として、cはこのサイズの筋腫では大して意味がない上に妊孕性も怪しいので行いません。
ちょっと困るのがeで、実際の臨床では手術の前にeを行うことも珍しくはないんですよね。
子宮鏡下手術は内膜が厚い時期(増殖期)に行うとめっちゃ難しいので、内膜を薄くしておく術前処置としてプロゲステロンを処方しておくのは悪くないです。
私が採点者ならeでも正解にします。はっきり言って選択肢が良くないです。
116D1 - Rhマイナス
血液型不適合妊娠の話ですね。
妊婦さんがRh(-)、赤ちゃんがRh(+)だと出産時等に母体にRh抗原に対する抗体ができてしまいます。
一人目の赤ちゃんには何の影響もありませんが、二人目以降の赤ちゃんがRh(+)であった場合、母体の抗体が赤ちゃんの赤血球を攻撃して貧血になってしまうことがある、というものです。
そんなわけでRh(-)の妊婦さんへは「妊娠28週頃」「赤ちゃんがRh(+)と確定したならば出産後72時間以内」「妊娠中の腹部打撲、羊水穿刺や流産など(これはたぶん国家試験に出ないかも)」の3つのタイミングで免疫グロブリンを注射します。
実臨床で問題になるのが、血液型不適合妊娠について妊婦さんへ説明するのがかなり難しいという点ですね。
「Rhマイナス?自分がそうだと聞いたことはあるけど、赤ちゃんに何か影響があるの?」という方は多く、なかなか説明に難渋します。
116D61 - 子宮頸がん
これは問題が妙に不親切です。
我々産婦人科医は「がん検診で異常を指摘された」だけの情報でいきなりプレパラートを渡されて患者さんを診ることは普通ありません。ベセスダ分類くらい問題文に載せればいいのに。
画像自体は問題の答えに影響しませんが、細胞診はHSILと見るべきです。
コルポスコピーでは広汎なP病変と、一部はGo病変も伴っていますね。
狙い組織診をして診断を確定します。よって答えはeです。
が、それはそれとして、細胞診の結果とコルポスコピーの見た目からすると上皮内癌、下手すれば微小浸潤癌や浸潤癌まで進行しててもおかしくなさそう。要するに初期の子宮頸がんの可能性があります。
23歳と若いのに円錐切除や子宮全摘すら考慮される状況になっているのは気の毒です。
子宮頸がんワクチンを打ちましょう。子宮頸がんワクチンに関する話はこちらの記事でしています。
【医学の話】『コウノドリ』より 子宮頸がんとHPVワクチンについて考える
あと超個人的な感想として「コルポスコピィ」という呼び方がなんか受け付けません。
赤ずきんチャチャのポピィ君じゃあるまいし。
産婦人科ガイドラインにも「コルポスコピー」と書いてあるのに、なぜわざわざ「コルポスコピィ」なんて表記しているのでしょうか。
116D66 - 双胎間輸血症候群
MD双胎やMM双胎にみられる、双胎間輸血症候群の話ですね。
これは以前『TOUGH』の記事で解説しましたので、詳しくはこちらをどうぞ。
『TOUGH』より双子(一絨毛膜一羊膜双胎)について解説する
双胎間輸血症候群はDD双胎では起こらないので、まず②=MD双胎という話は重要ですね。
次に、最大羊水深度が受血児で8cm以上、供血児で2cm以下だと双胎間輸血症候群と診断されます。児の体重は参考にはなりますが診断には関係なしです。
よって②=bと④=dの2つが答えになります。
それはそれとして、体外受精胚移植ならその状況を問題文に詳しく書くべきですね。
38週の初産婦でも、過去の不妊治療の経過などによっては胚を2つ子宮内に戻す可能性もあります。これだとDD双胎の可能性が高いです。
胚を1つ戻してMD双胎になるのはかなりのレアケースですし、問題自体にも大して影響しません。
この一文、丸ごと無くした方が良いんじゃないかな。
116E18 - ワクチン接種
産婦人科範囲ではありませんが、気になったのでピックアップしてみます。
新型コロナウイルスワクチンの接種は、もはや多くの医師が1回は経験する医療行為のひとつになりましたね。
答えはdなのですが、学生にはちょっとしんどい問題かもしれません。
まずaの18G針は太すぎます。18G針の径は1.2mmなので、こんなん筋肉に刺されたら悶絶します。18G針は全力で輸液や輸血をしたい時に使う針ですね。
ワクチン接種ではだいたい26Gくらいのほそーい針を使います。
bは不要ですし、eの経過観察期間は5分ではなく15分~30分ですね。この2つは学生さんもワクチン接種を受けた時のことを思い出せば除外できそうです。
cが中々やっかいな選択肢です。
患者さんの体に針を刺して注射をする時、「逆血確認」という作業がしばしば行われます。
皮下や筋肉に注射をする時、たまたま大きい血管に針が入ってしまい、血液の中に直接薬が入るのを避けなければなりません。そのため、シリンジ(注射器)をちょっと引いて血液が返ってこないか確認する作業が「逆血確認」と呼ばれる作業ですね。
ただし、ワクチンの筋肉注射でよく使われる三角筋(肩の筋肉)に大きな血管は通っておらず、逆血確認自体にも痛みを伴うため、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種ガイドラインによりワクチンの筋肉注射における逆血確認は不要と定められています。
昔は筋肉注射でも逆血確認をするのが常識だったので、古い先生は今でも普通にしているはずです。
正直なところ、私も2~3年前まで逆血確認が不要であることを知りませんでしたが、コロナワクチン接種会場で偉い先生から「逆血確認をせずに注射するように」とのお達しがあったのをきっかけに知りました。
116F46 - 正常分娩
午前9時に子宮口は5cm開大、午後3時に9cm開大。
陣痛間隔は約3分、お産のペース自体もそれなりであり、赤ちゃんも元気そうです。
いわゆる正常な分娩進行です。自然なお産の経過を見るべき状況なので、答えはbです。
ちなみに陣痛促進すべき状況としては(一概には言えませんが)2時間にわたりお産が進行していない、明らかに微弱陣痛である、等が適応になります。
モニターの横軸がアホほど読みづらいことを除けば臨床に即した問題と言えるでしょう。
”140bpm”や”120bpm”の場所も”←1分→”の範囲も微妙にずれていますし、画像作りが適当すぎる。
116F27 - 出生前検査
いわゆる出生前検査に関する問題ですね。
高年妊娠などの理由で、これらの検査をされた方もいらっしゃると思います。
選択肢の5つはいずれも出生前検査ですが、「遺伝学的検査」かつ「確定的検査」となると、
「赤ちゃんの遺伝子(染色体)が確実に分かる検査」ということなので、絨毛検査や羊水検査ですね。
この2つなら赤ちゃんのDNAを確実に採取できます。答えはaとbです。
難易度:難(ガチの医学知識)
116B29 - 卵巣腫瘍の術後
なんじゃこりゃ?問題の意図が今ひとつ汲み取れませんが…
まず、卵巣腫瘍は良性だったようなのであまり関係なさそうです。
おそらく「元々整形外科に通院しててボランティアによる支援もある」という状況を踏まえると骨形成不全症に対する介入はしっかりされているので、b、d、eを行う必要は無いよ、ということでしょうか。
答えは順当に考えればcで良いのでしょうが、aも不正解と言えるほど大間違いな内容かなあ…?
骨形成不全症の方が術後に飛んだり跳ねたりすることは無いでしょうから、過度に安静を指示する必要もないですが、aでも間違っているとは思えません。
116B33 - 妊娠と糖尿病
空腹時血糖値132mg/dLというのがポイントですね。
「妊娠中の明らかな糖尿病」の基準である126mg/dLを超えているので、糖尿病確定です。
妊娠中の経口血糖降下薬は禁忌なのでbは除外、これ以上の糖負荷試験はDMを増悪させるだけなのでeもNGです。
まずは血糖値の日内変動(空腹時や食後2時間の値など)をみて、必要に応じて食事指導を行ったりインスリンを少しずつ導入していく、というのが一般的な流れです。
よって答えはcですね。
116C16 - バルトリン腺炎
なかなか学生にとっては嫌なとこ突いてくる問題ですね。
「炎」とついてるぐらいなので炎症が起きてるっぽい「バルトリン腺炎」、答えはd!となるところでしょうが、
a、b、c、eも学生レベルだと「なんか痛そうに見える」という字面ばかりです。
aですが、子宮は人によって腹腔内で前に倒れてたり後ろに倒れてたりします。
チン○ンがちょっと曲がってるとかそういう個人差のレベルです。これ自体は痛くもなんともないです。
bは癒着の原因が何かが気になりますが、これ自体は痛みはないですね。
cは子宮の出口の粘膜が薄い、的な意味です。これも痛みはありません。
eが地味にいやらしい選択肢です。「子宮内膜ポリープ」なら月経困難症が起きる⇒痛みで受診、となる可能性がありますが、
「子宮頸管ポリープ」は健康な方にも時々みられるものです。ほとんどは良性かつ無症状です。
116C50 - 回旋異常
うーん…意図は分からなくもないですが、なんかいまいち臨床的に意味がない問題というか…
経過を見てみるとそれなりにしっかりした陣痛が来ているにも関わらず、8時間経ってもほとんど進んでいないようです。
ならば、なぜお産が進んでいないのか?という原因を探るという問題ですね。
Martius-Guthmann法のレントゲンを見る限り児頭は骨盤を通過しそう、つまり児頭骨盤不均衡ではない、
大泉門が1時方向に触れるということは第2回旋が正しい向きではないので、お産が進んでいない原因は前方前頭位(赤ちゃんの向きがちょっとおかしい)⇒d、となるわけですが…
Martius-Guthmann法自体、エビデンスが微妙な検査であり、「これで大丈夫だったから絶対に児頭は通過できる!」という検査でもありません。
このお産の対応は医師や施設ごとに多少の差はあるでしょうが、私ならレントゲンを撮っていようがいまいが、このまま経過観察か陣痛促進してみて進めばそれでよし、進む気配がなければ帝王切開にするので、
前方前頭位だと分かることが以後の経過の参考にはなりますが、対応自体は特に変わらないです。
これは国家試験で問うべき問題ではない気がします。
116C53 - 胎児発育不全
またなんかヘンテコな問題が来ました。
出題者の誘導としては「胎児発育不全を認める」「胎児心拍数陣痛図は問題なし」ということで「赤ちゃんがしんどい」という状態を表すd、eを除外し、
ついでにaも除外(本来なら胎児の中大脳動脈血流で確認しますが、胎児心拍数陣痛図からも推定できるケースがあります)、
それでいてBPDの発育は正常で、ACの発育は不良、よって正解はc…と言いたいのでしょう。
確かに、生理学的に考えれば脳の血流は増加していると思われますが、
それは赤ちゃんの体の中を覗いてみないと分からない上にこれが分かったからどうなるという話でもありません。
Asymmetrical FGRであることが診断の参考にはなりますが、妊婦さんへの対応自体が大きくが変わるわけでもありません。
これを問うて何がしたかったのか、出題者の意図がよくわかりません。
116D52 - 卵巣癌
これは卵巣癌の治療がそれなりに頭に入ってないと分かりにくい問題ですね。それでいて必要以上に専門的すぎる知識を問うわけでもない、良問と言える問題です。
卵巣癌は(胸水・腹水を採取できる状況や、子宮内膜に転移している等の例外を除き)手術をして病理検査を出さないと組織型どころか良悪性すら確定できません。
画像の見た目的には境界悪性腫瘍か悪性腫瘍?腫瘍マーカーの上昇を含めて考えるなら悪性っぽい?といった印象を受けますが、良性腫瘍の可能性も残されています。
その状態からいきなり抗癌剤治療や放射線治療をやるわけにはいきませんし、腫瘍細胞をまき散らすかもしれない嚢胞穿刺吸引なんてもってのほかですね。
そんなわけで答えはaです。
学生向けの知識としては、子宮頸癌は組織型しだいで放射線治療・化学放射線同時療法がよく効く&ある程度進行すると手術そのものが不可能なので必ずしも手術が第一選択ではありませんが、
子宮体癌と卵巣癌は(よほどの進行癌を除き)子宮全摘と両側付属器摘出が必須であるという点を覚えておくと良いでしょう。
116E10 - 妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群の話ですね。
妊娠高血圧症候群によって蛋白尿が生じることはありますが、これ単体だと妊娠高血圧症候群には該当しません。
よって答えはbです。
妊娠高血圧症候群については以前にも解説していますので、こちらもどうぞ。
116F30 - 妊娠と検査値
これは模範的なダメ問題ですね。
ダメな理由の1つ目として、「増加する」というのが「体内の総量」を表しているのか、「単位血液量あたりの濃度」を表しているのかが不明瞭です。
学生の人生を左右する国家試験で日本語が不十分な問題作っちゃダメでしょう。
そしてダメな理由の2つ目が問の答えです。正解はdとeです。
妊娠中は出産に備えて凝固系が亢進するのでフィブリノゲンが上昇する、という知識は臨床上重要です。
しかし総コレステロールを問う意図が分かりません。
一応、最近の研究で妊娠中の総コレステロールの変化と産後うつの関連性を調べたものが存在しますが、まだまだ研究中の段階です。
妊娠中のコレステロール値上昇が妊婦さんにとって問題になった場面を私は見たことがありません。
今後の研究次第ではありますが、今の時点ではトリビア級のムダ知識です。
血中濃度を問うているという前提で考えると、
妊娠中は循環血漿量の増加により血小板や赤血球の濃度が薄まりますので、血小板とヘモグロビンは軽度低下します。(造血も亢進するので体内の総量は増加しますが、それでも追いつかないくらいに薄まります)
クレアチニンも循環血症量の増加と腎濾過量の上昇により低下します。よってa、b、cは除外できます。
116F32 - 卵巣癌
これは知ってるかどうか問題ですね。bとcです。
特に胃癌の卵巣転移は「Krukenberg腫瘍」と呼ばれることで有名ですね。
実際の臨床でも卵巣癌が疑われる状況では術前に上下部内視鏡検査(胃カメラ+大腸カメラ)を行うことが多いというのは知っておくと他の医学生に差を付けられるかもしれません。
検査してみると原発巣である胃癌や大腸癌が見つかることがたまにあるのです。
116F43 - どうでもいい問題
こんなどうでもいい問題、よく国家試験に出したな。
第1頭位の状態から分娩が開始した通常の分娩経過(回旋異常なし)なので、
骨重積は左頭頂骨の方が下側、第4回旋では母体の右側を向いてて右肩が先に娩出される、
よって答えはbですが…
「産瘤が左右どっちにできるだろう?」なんて意識しながらお産すること無いけど???
Fブロックの問題はことごとく出題者のセンスが悪いです。試験の大詰めでこんな悪問を解かされた学生が可哀想です。
臨床から離れた先生が頭の中だけで作ってる雰囲気をありありと感じます。
まとめ
以上、現役産婦人科医による第116回医師国家試験の解説でした。
問題に対する素直な感想を書きまくってたら終盤はイチャモンだらけになってしまいましたので、
この記事がいつの間にか消えてた場合は色々と察して下さい。
(私の上司や元上司が問題を作成している可能性あり)
そして私の屍を乗り越えて合格して下さい。
学生の皆様はあと5日間、体調に気を付けて頑張ってくださいね!
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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