こんにちは!
産婦人科医やっきーです。
本日は私の医学知識まとめ記事として、
医療従事者・妊婦さんへ向けた「妊娠中に使える薬、使いにくい薬、使いたくない薬」を解説します!
他科の先生が処方する可能性があり、かつ妊婦さんにとって接する機会が多いと思われる薬について、現役産婦人科医である私の主観もどんどん含めて解説します!
なお、本記事は読みやすさとコンパクトさを重視しています。
例えば経口血糖降下薬やACE阻害薬などといった「他科の先生が妊婦さんに処方する場面が考えにくく、妊婦さんが接することもまず無い」と思われるような禁忌薬や、
子宮収縮抑制剤や分娩誘発剤などの「妊婦さんが使う可能性があるが、産婦人科以外で出す可能性はほぼ無い」と思われる薬については解説しません。
重要事項
本記事執筆に当たっては可能な限りガイドラインや各種文献を参考に作成していますが、
分かりやすさ・読みやすさを優先し省略している部分や、私の主観を含んだ内容も多く含まれています。
実際に処方する際は、この記事の内容だけを鵜呑みにせず、
産婦人科や薬剤師への情報収集も行った上で処方を頂くようお願いします。
なお、明らかな医学上の間違いや説明が不十分と思われる内容等がありましたら、ご指摘頂けますと幸いです。
前置き:妊娠中と授乳中の考え方
本題に入る前に、もう1つだけ前置きをしておきます。
意外と医療従事者でも知らない方が多いですが、ほとんどの場合において「妊娠中に使える薬」は「授乳中も使える薬」です。
妊娠中に胎盤を通じて赤ちゃんに移行する薬の量に比べると、
授乳中に母乳を通じて赤ちゃんに移行する薬の量は圧倒的に母乳の方が少ないです。
また、「胎児の器官形成に影響する」「子宮収縮作用がある」などの理由で妊娠中に使えない薬がいくつかありますが、これらも出産した後なら問題ないわけです。
よって、基本的に「妊娠中に使える薬なら、授乳中も使える」とお考え下さい。
ただし、逆はそうとも限らないことには注意しましょう。
実践編①:便秘薬
それでは実践編に行きましょう。
まずは妊婦さん最大のcommon diseaseである便秘について!
ただでさえ女性は便秘の方が多いですが、妊娠中はそれがさらに悪化します。
妊婦さんは子宮が大きくなることによる腸の圧迫、ホルモンの作用による腸蠕動の抑制などの影響により、ものすごーく便秘になりやすいのです。
酸化マグネシウム(マグミット®、マグラックス®など)
やっきーが妊婦さんに最も使う薬、第一位!
酸化マグネシウムです。いわゆるカマグですね。
作用機序は、便の水分を増やして軟らかくするだけと、とってもシンプルです。
腸からはほとんど吸収されないため赤ちゃんへの影響も無視できるレベルで、
刺激性も習慣性も無いので長期投与可能と、まさに便秘に悩む方々の救世主。
腎不全を除きたいていの人に使いやすく、内服量も調整しやすく、値段もお手頃。神の薬やで。
刺激性緩下剤(ピコスルファート/ラキソベロン®、センノシド/プルゼニド®など)
腸蠕動を亢進して便を出すお薬。マグミットで効かない便秘によく使います。
作用は強力なのですが、習慣性がありますし、
長期投与すると超粘膜に炎症を起こして吸収障害を起こしかねません。
その代わり、頓用で使うには良い薬です。
たまに子宮収縮作用があるという話を聞きますが、妊婦さんに使っている実感としてはそこは無視できるレベルかなという印象です。それより長期投与をしないよう心がけることの方が重要です。
大建中湯
やっきーが好きな便秘薬、第二位。
やっきーが好きな漢方薬というくくりで考えても上位を争います。
便秘薬のカテゴリに入れてますが、適応疾患には下痢もあります。
作用はちょっと複雑なのですが、簡単に言えば「腸の血流を良くして動きを正常化する」といったところ。
マグミットだけでは効きが悪い、でも長期的に使いたいときに出すお薬です。
刺激性のある「ダイオウ(大黄)」が含まれておらず習慣性も無く、妊婦さんに使いにくい生薬も配合されていません。
婦人科でも便秘のほか、イレウスで使うことがよくあります。神の薬その2。
間質性肺炎や肝機能異常の副作用が出る可能性があるそうですが、私は見たことがありません。
整腸剤(ビオフェルミン®、ミヤBM®、ビオスリー®など)
ビオフェルミン®は乳酸菌の薬、ミヤBM®は酪酸菌の薬、ビオスリー®は乳酸菌・酪酸菌・糖化菌が全部入ったニンニクマシマシアブラカラメ的な整腸剤です。
分かりやすく言えば、腸内の善玉菌ですね。
いずれも腸内細菌叢を整える効果があり、便秘にも下痢にも適応があります。
腸内環境を良くすることは体にとって良いことずくめですので、
妊娠中にこれらを内服するデメリットは皆無と言っても良いでしょう。
例えば味噌汁や納豆、ヨーグルトといった発酵食品を摂ることで切迫早産のリスクが下がるなんて研究もあるくらいです。
もしかすると将来、「妊娠中は整腸剤を常用しよう」なんて日が来るかもしれません。
そういえば「整腸剤飲むと便秘になる」と仰る先生がたまに居ますが、私個人としては懐疑的です。
薬の仕組み上、「下痢が治る」はあっても「便秘になる」はちょっと考えにくいですね。
実践編②:かぜ薬
妊婦さんが最も気になる病気のひとつ、風邪!
医学的に言えば感冒!
内科や救急の先生が妊婦さんを診る機会の最たるものだと思います。
「風邪の妊婦さんが受診してきたけど、何の薬が使えるのか分からない」と悩まれた経験のある先生は多いのではないでしょうか。
非麻薬性鎮咳薬(デキストロメトルファン臭化水素酸塩/メジコン®など)
妊娠中の鎮咳薬に関する調査研究はほとんどありません。
その中で数少ない、大規模調査により妊娠中の安全性がほぼ確実に担保されている鎮咳薬がデキストロメトルファン臭化水素酸塩(メジコン®)です。
個人的には、風邪は何もせずともいずれ治るのでできるだけ薬は使いたくないところですが、
妊婦さんはあまりに咳がひどいとお腹が張ってしまうのが悩みどころです。
咳によって早産や切迫早産になる、あるいは鎮咳薬によりこれらが改善する、などといったエビデンスはありませんが、それでも妊婦さんにとってお腹の張りは気になる症状ですから、希望される場合は私ならメジコン®を処方します。
他にも非麻薬性鎮咳薬はあるのですがデキストロメトルファンのように大規模調査が行われたものは無いため、どうせ使うなら安全性の担保されたメジコン®を使いましょう。
麻薬性鎮咳薬(コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩)
ちょっと扱いに迷う薬。いわゆるリンコデですね。
妊婦さんや授乳婦さんに出してる先生をたまに見かけます。
実際、リンコデを飲んで何かが起きた妊婦さん・赤ちゃんを診たことはありません。
しかしコデインや、コデインの活性型であるモルヒネは母乳にけっこう移行するようです。
その結果、赤ちゃんの嗜眠傾向が引き起こされる可能性があるとか。
妊娠中の内服による赤ちゃんへの影響も、特に影響ないとする説、奇形リスクがあるとする説があります。
そんなこんなで、地味に意見が割れる薬です。
現時点では絶対禁忌!とまで言うほどのものではありませんが、まあ使わずに済むなら使わない方が良いでしょう。
私なら、コデインを出すならメジコン®を優先します。
トローチ(テトラサイクリン配合トローチを除く)
のどの炎症をおさえる薬ですね。
スーッとすっきりして甘い風邪のお供。
風邪をひいた時に水色のSPトローチ®を舐めた経験のある方は多いのではないでしょうか。
現時点で妊娠・授乳に対する明らかなリスクは指摘されていませんが、大規模な検証が行われたわけではなく、影響は未知数です。
とはいえ、有効成分や含有量を考えれば、妊娠に与える影響は無視できるレベルだと私は考えています。
喉の痛みに悩む妊婦さんには出して良いと思います。私もたまに出します。
SPトローチ®や、処方箋なしで買えるタイプ(指定医薬部外品)のトローチはほぼ全部大丈夫でしょう。
例外として、テトラサイクリン配合トローチ(アクロマイシントローチ®)は避けるべきです。
テトラサイクリンは「歯牙黄染」と言い、赤ちゃんの歯が変色するリスクがあります。
一般的なテトラサイクリンの用量に比べるとトローチでは含有量は少なく、何錠か舐める程度で起きることは考えにくいですが、それでも妊娠中・授乳中は避けた方が無難ですね。
去痰薬(カルボシステイン/ムコダイン®、アンブロキソール塩酸塩/ムコソルバン®など)
去痰薬の妊娠・授乳中の影響に関するデータはほぼ皆無です。
今のところ妊娠中の使用による赤ちゃんへの影響の報告はありませんが、元々それほど強い効果が実感できる薬でもありませんし、出さない方が無難かと思います。
PL配合顆粒®
風邪で内科に行くとよく処方される、透明な袋に入った白い粉薬です。
中身としては、解熱剤(サリチルアミド/NSAIDs、アセトアミノフェン)、抗ヒスタミン剤(プロメタジンメチレンジサリチル酸塩)、鎮痛剤(無水カフェイン)の合剤ですね。
NSAIDsとカフェインの常用は妊娠中あまり良くないのですが、そもそもPL配合顆粒における含有量が多くないので、風邪の時に少し飲む程度で赤ちゃんに影響することは考えにくいです。
だからといって、何も考えず出して良い薬というわけでもありません。
第一、風邪にPL配合顆粒を処方すること自体、内科の先生の間でも賛否があります。
結論としては、「詳しいことは不明だし、多分大丈夫だと思うけど、私は使いません」ということになります。
漢方薬(葛根湯、麻黄湯、小青竜湯など)
風邪の時に漢方薬を使うことは時々ありますね。
しかし、当帰芍薬散や大建中湯など、それなりに妊婦さんに対する安全性が保障されているものは例外として、
基本的に漢方薬が妊娠に与える影響というのは十分なデータが無いことが多いですから、
強い確信をもって処方する場合以外は漢方薬を出さない方が良いでしょう。
いずれ自然に治る風邪なら尚のことです。
実践編③:抗生剤、抗ウイルス剤
ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系、クリンダマイシン系(βラクタマーゼ阻害薬配合剤を除く)
妊娠・出産期に産婦人科がよく使う抗生剤トップ3がペニシリン系、セフェム系、マクロライド系です。
次いで、ペニシリンアレルギーがある場合にクリンダマイシン系(ダラシン®など)が使われる、といった順列ですね。
この4種類は赤ちゃんへ与える影響についてそれなりに信頼できる研究があり、安全性が保障されています。
実際に使う場面としては、
ペニシリン系(ペニシリン®やビクシリン®)はGBS陽性妊婦さんの出産時に、
セフェム系(セファゾリン®やセフメタゾール®)は帝王切開の周術期に、
マクロライド系(ほぼジスロマック®)は妊娠中のクラミジア感染に対してよく使われます。
要は、ものすごく使用経験の積み重ねがあるのです。
そのため、他科の先生方が抗生剤を処方される場合も、この中から選ぶのが無難かと思います。
勿論、これら以外にも使える抗生剤はいっぱいあるのですが、種類が多すぎて解説できません。(放棄)
とはいえ、大抵の場合はこの4種類でこと足りると思います。
この4種類でカバーできない妊娠中の細菌感染症はかなりのレアケースです。
ただし、ペニシリンやセフェムでもβラクタマーゼ阻害薬配合剤(オーグメンチン®、スルバシリン®、スルペラゾン®など)は話が違ってきます。
クラブラン酸(オーグメンチン®やクラバモックス®)に限った報告ではありますが、妊娠時の使用により新生児の壊死性腸炎のリスクが上昇したという報告があります。
その頻度はあまりはっきりしていませんし、他のβラクタマーゼ阻害薬に関するデータもありませんが、一応私は避けています。
グラム陰性菌や嫌気性菌のカバーを目的にβラクタマーゼ阻害薬を考慮する場面があるならば、最初からそれらにスペクトラムのあるセフメタゾール®、セフトリアキソン®、ダラシン®などにしておくのが無難でしょう。
抗インフルエンザウイルス薬(タミフル®、リレンザ®、イナビル®など)
新型コロナウイルスの流行の影響でインフルエンザを診る機会はだいぶ減りましたが、
妊婦さんがインフルエンザに罹患すると重症化するリスクが高いとされています。
そのため、罹患した場合は上記のような抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)を使って積極的に治療することが推奨されています。
過去の研究からタミフル®、リレンザ®は妊娠・授乳中の使用でも問題ないとされています。
イナビル®についてはデータ量がやや少ないものの、現時点で有害な影響の報告はありませんし、1回の吸入のみで良いため使いやすいですね。
実践編④:痛み止め、解熱剤
実はけっこう使う場面の多い薬です。
通常の妊娠経過でも、出産後の後陣痛・会陰部の痛みによく使われます。
頭痛持ちの妊婦さんもいらっしゃいますし、最近だと新型コロナウイルス感染で解熱剤を使うこともありますね。
アセトアミノフェン(カロナール®など)
2022年8月、新型コロナウイルス感染者の急増によりカロナール®の出荷調整がされたのは記憶に新しいところ。
後述するNSAIDsに比べて、妊婦さんや子供にも使いやすいからと処方されまくったのが原因のようですね。
確かにアセトアミノフェンはかなり妊娠中・授乳中の安全性が高い薬です。
もっとも、他が使いにくいので相対的に立場が強いという事情もあります。
NSAIDs(バファリン®、ボルタレン®、ロキソニン®など)
NSAIDsの持つPG合成阻害作用は、妊娠後期では赤ちゃんの動脈管閉鎖の原因になるため原則禁忌です。
しかし、逆に言えば妊娠前期~中期や授乳中の服用は問題ないと言えますし、
習慣流産や妊娠高血圧症候群の発症予防に低用量アスピリンを長期内服するという手法も存在しますので、
NSAIDsは何が何でもダメ!というわけではありません。
とはいえ、解熱鎮痛剤を使いたいならアセトアミノフェンを優先すべきですね。
特に妊娠中に、わざわざNSAIDsを優先すべき場面は無いと思います。
授乳中の方なら私はけっこう処方します。あまりにも大量でなければ赤ちゃんへの影響も無視できるレベルだと思います。
湿布薬(ロキソニンテープ®、モーラステープ®など)
妊娠中に腰痛や肩こりを訴える方は多いですね。
四六時中、お腹に何キロもある赤ちゃんを抱えているので当然と言えば当然です。
しかし、湿布薬には上述のNSAIDsが含まれているものが非常に多く、常用するのはお勧めできません。
(1~2枚貼った程度でただちに赤ちゃんに影響することはありませんが)
湿布を貼るよりも、ストレッチを行う、温かいタオルを患部に当てて血流を促すなどを優先すべきです。
トリプタン製剤(イミグラン®、レルパックス®など)
解熱鎮痛剤からは少し外れますが、いわゆる片頭痛の治療薬です。
片頭痛持ちの妊婦さんはわりと多いので、このカテゴリに入れました。
そして臨床では結構悩ましいところ。
というのも、トリプタン製剤は赤ちゃんへの影響に関する研究が殆どないのです。
そのため実際の使用場面としては、アセトアミノフェンで効かない場合に、しっかりとICした上で使う、というところになるかと思います。
将来、妊娠中のトリプタンに関する大規模研究が行われることを願います。
なお、授乳中のトリプタン内服は全く問題ないようです。
ちなみにエルゴタミン製剤(イミグラン®)も片頭痛によく効きますが、これは子宮収縮作用があるので妊娠中は避けた方が無難ですね。
実践編⑤:抗アレルギー薬
抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン/レスタミンコーワ®、フェキソフェナジン塩酸塩/アレグラ®、エピナスチン塩酸塩/アレジオン®など)
もはや国民病となった花粉症。
そんな花粉症によく使われる抗ヒスタミン薬は、第一世代・第二世代ともにかなり妊娠中・授乳中の安全性が高いことで知られています。
くしゃみや鼻水がつらければ遠慮なく飲んでOKです。
その他の抗アレルギー薬(リザベン®、シングレア®など)
「その他」とかなり強引にまとめてしまいました。
抗ヒスタミン薬は歴史のある薬であり疫学調査もしっかりしたものが多く存在するのですが、
その他のメディエーター遊離抑制薬やロイコトリエン受容体拮抗薬などといった抗アレルギー薬は妊娠中の使用経験にやや乏しいというのが現状です。
妊娠中の内服に関するこれといった有害事象の報告もないのですが、
どちらか選べる状況ならわざわざ危険を冒さず、抗ヒスタミン薬を選ぶのが賢明かと思います。
実践編⑥:喘息の薬
基本的には、喘息の治療薬が赤ちゃんに与える影響は無視できるレベルと考えて差し支えありません。
それよりも薬を使わずに重症化し、赤ちゃんに十分な酸素が行きわたらなくなることの方がよほど危険です。
β2刺激薬(ホクナリン®、スピロペント®、ベネトリン®など)
喘息治療における主戦力、β2刺激薬です。
β2刺激薬の安全性に関する調査はいくつかありますが、
現在のところ、β2刺激薬が妊娠や赤ちゃんに与える悪影響があるとする結論に至ったものはありません。
一応、β刺激作用が子宮収縮を抑制するという機序は無くはないので、
専門書や添付文書ではそのあたりの注意書きがあるわけですが…
私の感覚としては「ほとんど関係ない」と言い切れるくらいに影響は弱いです。
それより喘息を治すことの方がずっと大事です。
吸入ステロイド(フルタイド®、パルミコート®など)
喘息治療における長期的コントロールの主役ですね。
吸入ステロイド薬についてはかなり多様な研究が行われていますが、いずれも妊娠・赤ちゃんに与える影響に有意差は無いという結論に至っています。
安心して使える薬のひとつですね。
ちなみに、アドエア®、シムビコート®、フルティフォーム®といった吸入ステロイド・β刺激薬配合剤についても安全性は非常に高いものと考えられています。喘息の方は遠慮なく使いましょう。
キサンチン誘導体(テオドール®、ネオフィリン®など)
教科書的にはキサンチン誘導体であるテオフィリンは胎盤通過性が高く、
高用量の場合に胎児の中毒症状の可能性がある、とは書かれていますが…
個人的には「テオフィリンのせいでひどいことになった!」という経験はありません。
私見としては、高用量になってないかだけ気を付ければ良い、という感覚です。
実践編⑦:アトピー性皮膚炎の塗り薬
ステロイド外用薬(リンデロン-V®、ロコイド®、デルモベート®など)
アトピーと言えばステロイド外用薬、ステロイド外用薬と言えばアトピー、というレベルの立ち位置ですね。
基本的にステロイド外用薬は体から吸収される量はわずかであり、妊娠中に使用してもほぼ影響はありません。遠慮なく使いましょう。
また、アトピーではステロイド外用薬以外にタクロリムス(プロトピック®)もよく使われますが、こちらについても安全性は問題ないとされています。
実践編⑧:サプリメント系
ビタミン剤(チョコラ®、フォリアミン®など)
妊婦さんがけっこう飲んでたりするサプリメント。
上記のようなビタミンや葉酸の薬は飲んでも問題ありません。むしろ積極的に摂ってOKです。
よほど大量に飲まなければ害はありません。
もっとも、きちんとした食生活であればこれらの欠乏が問題になることは少ないので、
わざわざ産婦人科医が処方することもあまり無いですね。
鉄剤(フェログラデュメット®、フェロミア®、インクレミンシロップ®など)
やっきーが妊婦さんによく出す薬、第二位!
妊婦さんは赤ちゃんに鉄を与えたり血液量が増加したりする影響で、鉄分が不足しがちです。
特に日本人は食生活の影響か、欧米に比べ鉄分不足の女性が多いとされています。
妊娠中・授乳中の鉄欠乏性貧血を改善させることにより、産後うつのリスク低減や母乳の出が改善するという報告もあります。
貧血の妊婦さんには積極的に飲んで頂きたいお薬のひとつです。
フェロミア®もフェログラデュメット®も安くて良いのですが、たまに鉄錠だと吐き気をもよおす方もいます。
そういった方には私はインクレミンシロップ®を出してます。
それも難しければフェインジェクト®かフェジン®の注射ですね。
ただし、原則として鉄剤は経口摂取すべき、というのは押さえておきたいところです。
市販のサプリメントも悪くはないのですが含有量が多くないので、上記のような薬を妊婦健診で処方してもらう方が望ましいです。
実践編⑨:ワクチン
「薬」とは少し違いますが、ワクチンについてもまとめておきます。
弱毒生ワクチン(麻疹生ワクチン、風疹生ワクチン、ムンプス生ワクチン、水痘生ワクチンなど)
よく「妊娠中に風疹などの生ワクチンを接種すると赤ちゃんに感染する」と言われていますが、実際にそういう事例があったという報告はありません。
とはいえ、大規模な検証が行われたわけでもないので、わざわざ妊娠中に接種する必要も無いでしょう。
むしろ、妊娠前にこれらのワクチンを接種しておくことの方が1000000倍重要です。特に風疹ワクチン。
先天性風疹症候群については別の機会で取り上げる予定です。
不活化ワクチン(インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンなど)
不活化ワクチンは妊娠中・授乳中を問わず危険性はありません。
「抗インフルエンザウイルス薬」の項でも説明しましたが、
妊娠中のインフルエンザは重症化リスクが高いものです。
特に欧米では妊娠中のインフルエンザワクチン接種が積極的に推奨されているほどです。
日本は残念ながらワクチン後進国なのであまり普及していませんが、
個人的には妊婦さんにインフルエンザワクチン接種を勧めています。
新型コロナウイルスワクチン
皆様ご存知、新型コロナウイルスワクチンですね。
賛否あり荒れやすい話題ですが、それでもあえて私は接種を全力で推奨します。
ワクチンに副反応があることや数年以上の追跡調査がまだ無いことは確かなので、これを理由に星4.5としていますが、それよりもワクチンを打たずにコロナに感染し、重症化した場合のデメリットの方が遥かに大きいと考えています。
日本や欧米を問わず、世界中で新型コロナウイルスワクチンが妊娠に与える影響について調査されていますが、妊娠や赤ちゃんに有意に悪い影響が出現したという報告は未だ皆無です。
UpToDateや医中誌で調べるまでもなく、ググるだけで大規模な調査研究がいくらでも出てきます。
たまに「ワクチンは〇〇という理由で体に悪い」という意見を述べる方がいますが、
私は彼らの御高説よりコホート研究の方を信頼します。
結論として、まだ接種していない人は打ちましょう。
実践編⑩:抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬
最後にかなり難易度の高い、精神疾患に関する薬について。
そもそも妊娠中や出産後というのはストレスやホルモンの変化により精神状態が不安定になりやすいもの。
うつ病や統合失調症の患者さんの妊娠・出産となると尚更です。
これらの薬は赤ちゃんにとって、新生児離脱症候群、心血管奇形リスクや中枢神経症状などといった形で影響する可能性がありますが、だからといって安易に薬を止めたり減らしたりするのは、取り返しのつかない事態に発展する可能性をはらんでいるため非常に危険です。
そのため、実際の臨床での扱いとしては「産婦人科と精神科が密に連携する」「なるべくシンプルな処方にする」といったところになります。
このグループだけは正解と言えるものが無いので、星の評価は付けません。
まとめ
以上、「妊娠中に使える薬、使いにくい薬、使いたくない薬」まとめ記事でした。
繰り返しになりますが、読みやすさを最優先して記事を書いたため、
意図的に細かい説明を省いたところや、私の主観に基づいた内容も多く含まれています。
決してこの内容だけを鵜呑みにするのではなく、妊婦さんや授乳婦さんへ処方を行う際はしっかりと調べた上で処方しましょう。
この記事が医療従事者の日常診療や、妊婦さんの生活の助けとなることを願います。
なお、「こんな適当なまとめではなく、もっと様々な薬の詳細が知りたい!」という場合は、南山堂の『薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳』がお勧めです。
1200種類に及ぶ様々な薬剤の基礎知識、妊娠中・授乳中に関する調査研究、胎盤や母乳を介した薬物動態、それらを踏まえた総合評価が記載された使いやすすぎる一冊です。
産婦人科医がよく知らない薬に出会った時は、8割方これを引きます。(やっきー調べ)
普段妊婦を診ることのない先生方も、お守り代わりに一冊持っていて損はしないと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
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