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『ONE PIECE』ポートガス・D・エースの出生を産婦人科医学的に考察する

こんにちは!
産婦人科医やっきーです。

本日の【漫画描写で学ぶ産婦人科】はこちら。


尾田栄一郎先生『ONE PIECE』より、主人公モンキー・D・ルフィの兄、
ポートガス・D・エースの出生です。

頼れる兄貴分で人格に優れ、戦闘能力も抜群、

世界有数の海賊団の幹部という肩書、煽り耐性は皆無という、

本作を語る上で切っても切れない人気キャラクターですね。

今日はそんなエースの出生について深掘りしていきましょう。

出典:ONE PIECE 159


エース出生の経緯

南の海(サウスブルー)のバテリラに住むポートガス・D・ルージュは、

海賊王ゴールド・ロジャーとの間に子(のちのエース)をもうけますが、

世界政府がこの情報を聞きつけました。

出典:ONE PIECE 551話

世界政府は海賊王の血を絶やすべく、
ロジャーの投獄10か月以内にバテリラで生まれた赤ちゃんを徹底的に調べ上げ、処刑します。

これに対し、我が子を守るためにとったルージュの作戦は…

出典:ONE PIECE 550話

我慢でした。

あまりにもシンプルな戦略ですが、ルージュの我慢はただごとではありません。

なんと気合でエースを胎内にとどめ続け妊娠20か月での出産とすることで、世界政府の目をかわすことに成功しました。

しかしルージュはこの出産の負担があまりにも強く、命を落としてしまいます。

出典:ONE PIECE 551話

すげえよルージュさん。

まさに母の鑑ですが、産婦人科医としては心配でたまりません。



過期妊娠

まず読者の誰もが考えるのは、そんなに妊娠してて大丈夫?という問題ですね。

そもそも何をもって「妊娠○週」や「妊娠○か月」と言っているのかというと、

最終月経の開始日を0週0日として、出産予定日は40週0日と定められています。

2023年現在では排卵日妊娠初期の赤ちゃんの大きさ等により誤差を修正したりしますが、おおむねこの決め方で大きなずれはありません。


もちろん、赤ちゃんが皆40週0日ぴったりに産まれてくるわけではなく、

「正期産」と呼ばれる「このへんで産まれれば問題ないかな」という時期が37週0日~41週6日と定められています。

妊娠40週≒10か月と考えると、「ロジャー投獄から10か月以内に出産した赤ちゃんを調べる」という海軍本部の対応は理にかなっているわけです。

そして、42週0日以降の妊娠は「過期妊娠」と呼ばれます。

妊娠20か月というと、だいたい80週くらい!

これはあまりにも驚異的な過期妊娠です。



7キロの新生児

胎児はおなかの中で成長し続けます。

いい感じの体重になったからといって成長するのをやめてはくれません。

出生時の赤ちゃんの体重は平均でおおよそ3000gほどですが、赤ちゃんの体重が4000gを超えると「巨大児」と呼ばれ、分娩の難易度は格段に上がります。

赤ちゃんが大きければ大きいほど難産になりやすいのは至極当然と言えます。

エースが生まれたのは妊娠20か月

非常に大ざっぱな計算ですが、本来生まれるはずだった10か月を引くと、

エースはお腹の中で生後10か月の赤ちゃんくらいには大きくなっている可能性があります。

生後10か月の男児の体重は7.3~10.6kgなので(厚生労働省/平成22年乳幼児身体発育調査報告書より)、

仮に出産時のエースを小さめの7000gとしても、類を見ない超絶難産だったことが想像されます。

明言はされていませんが、エースを抱きかかえるコマからして帝王切開をしたような雰囲気もありません。

『ONE PIECE』世界には7000gどころか成人サイズでもポンと産めそうな女性はいますが、彼女と違ってルージュは一般人並みの体格です。

出典:ONE PIECE 公式サイト

一般人のスケールでそんな規格外の出産をすれば、

子宮破裂、産道裂傷、弛緩出血など、死に繋がる産科合併症が生じるのは容易に想像がつきます。

ルージュが命を落としたシーンでも血が流れる描写が見られますが、

ルージュの直接の死因はおそらく産後出血だったのでしょう。



ルージュの胎盤について

…ということで、エースは出産時に7000gくらいと仮定しましたが、
現実にはそうはいきません。

7000gという体重は、赤ちゃんが母乳やミルクを摂取して順調に成長した場合の体重です。

子宮内では胎児は胎盤からの栄養や酸素をもらって成長し、どんどん大きくなるのですが、

肝心の胎盤はしだいに胎児の成長スピードに追い付けなくなり、赤ちゃんに栄養を供給しきれなくなっていきます。

したがって、現実的にはある程度のところで胎児の成長は止まってしまいます。


さらに、体が大きく成長すると必要な酸素の量(酸素需要量といいます)も増えていきますが、

胎盤の大きさが追いつけていないので胎児が貰える酸素も打ち止めになります。

要するに、一定以上大きくなると胎児が酸欠になりやすいということです。

胎児が酸欠になると、生まれた赤ちゃんがぐったりしてしまったり(新生児一過性多呼吸)、ひどい場合は脳性まひ、胎児死亡などといった結果につながる可能性もあります。

そういった影響もあり、妊娠42週以降の「過期妊娠」では新生児死亡率が上昇します。

そのため、予定日を超えても陣痛が来ない場合、妊娠41~42週頃に分娩誘発をすることが多いですね。

ところがエースはそんなことは知ったこっちゃない、という勢いで元気よく生まれています。

ルージュの腕の中で立派に泣いており、この感じなら健康状態には全く問題なさそうですね。

エースの生命力も大したものです。さすがは海賊王の息子です。

これは同時に、ルージュの胎盤は妊娠20か月まで何の問題もなくエースに十分な酸素と栄養を供給し続けられたことを示します。これも地味ながらすごいことです。

我々産婦人科医は赤ちゃんが出たあと、胎盤にも異常が無いかをチェックするのですが、

妊娠20か月の胎盤は永久保存しときたいですね。どんな構造しているのか医者としては非常に気になります。



陣痛が来るのを我慢できる?

そもそもの問題ですが、陣痛は我慢して抑えられるようなものではありません。

陣痛が発生する仕組みははっきりと解明されていませんが、分娩時に発生する様々なホルモンや生理活性物質が関わっているとされています。

これらを気合で抑え込むことはできません。

現実世界には切迫早産の治療薬というのもありますが、これも陣痛を完全に抑えられるほどの効果はなく、

せいぜい陣痛を一時的に少し緩和させる程度で、陣痛そのものをなくすことはできません。

とはいえこの世界は食べたらゴム人間になったり火になったりする実がある世界なので、体内のホルモンを気合と根性で抑え込める人もいるのかもしれません。

ルージュもきっとそういう人なのかも…

…あれ?ホルモンといえば、そうだ。

『ONE PIECE』にはあの人がいました。



イワさんに光明を見出す

エンポリオ・イワンコフはホルモンを操る「ホルホルの実」の能力者です。

指先から出るホルモンを自分や他人に注入することで、

治癒能力を高めたり、疲労を回復したり、性別を変えることすらできます。

出典:ONE PIECE 538話

例えば、早産の予防に効果があるとされるホルモン「黄体ホルモン」があります。

イワさんにこれを打ってもらえば妊娠期間の延長に一定の効果があるかもしれません。

とはいえ、黄体ホルモンに早産予防効果があるのかは専門家の間でも意見が分かれるレベルなので、

黄体ホルモンだけで10か月も妊娠期間を延長させるのはどう考えても無理がありますが、

「奇跡の人」イワさんなら他の効果的なホルモンの知識も持っているはずナブル。

また、先述したようにルージュの分娩方法は不明ですし、『ONE PIECE』の世界観は何となく帝王切開の概念は無さそうにも見えますが、医療大国で知られるドラム王国を忘れてはいけません。

ドラム王国出身のチョッパーが現代日本の水準からしても遜色のない医療知識を持つのはご存知の通りでしょう。


また、劇中でイッシー20がドルトンを助けるシーンがありましたが、

・体に槍くらいの太さの矢が3本貫通した直後に
・雪崩に巻き込まれ
・心肺停止で発見される


というどこをどう見ても助かる見込みの皆無なドルトンをも救っています。

出典:ONE PIECE 136話
出典:ONE PIECE 137話
出典:ONE PIECE 141話

手遅れにも程がある状況であり、これで生きていられる人間はドルトンさん不死身の杉元くらいだと思いますが、

ドルトンさんに関してはこの日のうちに歩いたり叫んだりできるほどに回復し、二年後には国王にまでなっています。



ドルトンさんの生命力が異常なのかイッシー20が途方もなく優秀なのかは謎のままですが、

ともかくこのドラム王国の医療水準をもってすれば帝王切開くらいは余裕のはずです。

妊娠20か月の赤ちゃんを経腟分娩で無事に出産した女性は人類史上誰もいないので、

ドラム王国の医師を呼んできて帝王切開するのが最も安全でしょうね。

何なら彼らがいればルージュは死なずに済んだ可能性すらあります。



まとめ

以上をまとめると、
20か月まで我慢したルージュはすごい
その赤ちゃんを産んだのもすごい
元気に生まれたエースもすごい
妊娠20か月に挑戦するならイワンコフとドラム王国の医師による厳重な管理
下がおすすめ
ということになります。



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2 COMMENTS

ざっきー

やっきーさん、エースの出生記事拝見しました!面白かったです。

この記事を読んで、母のルージュの妊娠とエースの出産が医学的にはとてもスゴイことがよく伝わりました。

私は今漫画紹介ブログを運営しており、このブログの文章構成や書き方などよく参考にしてます。

医師活動とブログとの両立は大変だと思いますが、これからも応援してます!ご無理はなさらずに。

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やっきー

ざっきーさん、記事をお読み頂きありがとうございます!
お褒め頂き大変光栄です!
が、今このあたりの記事を読むと文章構成が今ひとつだったりと反省点も多いところです…笑

漫画ブロガー同士、これからも一緒に漫画の魅力を伝えていきましょう!

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