こんにちは!
産婦人科医やっきーです!
突然ですが、皆様は『DEATH NOTE』がお好きですよね。
私も好きです。
ハラハラするストーリー、魅力的なキャラクター、美麗な描写で2000年代に爆発的な人気を博し、
実写映画化をはじめとして、ノベライズ、テレビアニメ化、テレビドラマ化、ミュージカル化、ゲーム化、トレーディングカード化など、
むしろやっていないメディアミックスを挙げる方が難しいほどの大活躍を見せた作品ですね。
私も例に漏れず『DEATH NOTE』は大好きで、「お勧め漫画ベスト100」の記事でも第11位に挙げたほどです。
ところで、私は切迫早産の記事で業界の暗い部分について書いた時にごく一部の産婦人科医からボロカスに言われたことがあるので、
将来もしかするとデスノートに名前を書かれる可能性があるかもしれません。
しかし私は自称・世界一漫画に詳しい産婦人科医です。
このまま黙ってやられていては漫画大好き産婦人科医の名が泣くというものです。
「デスノートに名前を書かれたけど医学と漫画に詳しいから大丈夫だったぜ!」と胸を張れる状況を用意しておかなければなりません。
そんなわけで、本日の【漫画描写で学ぶ医学】では「デスノートに名前を書かれた時の対処法」に関する考察をしていきましょう!
デスノートについて
あらすじ
まずはデスノートそのものについて考える前に、漫画『DEATH NOTE』のあらすじを解説していきましょう。
主人公・夜神月は成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗でモテモテという完璧な人間でしたが、それ故に刺激が無く退屈な日々を過ごしていました。
そんな月が謎の黒いノートを拾ったことで物語が始まります。
ライトが拾ったのは「そこに名前を書かれた人間は死ぬ」という効果を持つ「デスノート」でした。
そんな非現実的なノートが存在するとは思わず、半ばイタズラ感覚で犯罪者の名前を書いたライトですが、
ノートに書いた通りに犯罪者やシブタクが死亡したことでデスノートが本物であることを確信します。
そしてライトは世界中の犯罪者たちをデスノートにより抹殺していくことを決意します。
デスノート
そして、今回の考察のキーアイテムが死神のノート・デスノートです。
外観はただの黒い大学ノートですが、このノートに相手の顔を思い浮かべながら本名を書き込むと、名前を書かれた人間は死亡してしまいます。
死因を書かなければ自動的に心臓麻痺で死亡しますが、
死因を書くことにより、詳細な死亡時刻や死亡前の状況・行動等を操ることもできます。(現実的な範囲であれば)
心臓麻痺描写の確認
それではデスノートの対策方法について考えていきたいのですが、
その前に、実際に作中でデスノートによる心臓麻痺が描かれたシーンを確認していきましょう。
ここから先は『DEATH NOTE』のネタバレを大量に含むため、未読の方はご注意下さい。
『DEATH NOTE』第一部
ライトの最初の殺人が、無差別殺人ののちに保育園に立てこもった通り魔・音原田九郎でした。
ニュースの現場中継を見ていたライトが冗談半分で音原田の名前を書くと、音原田は急死しました。
しかしながら、音原田の具体的な死亡の状況は描写されませんでした。
ライトによる二人目の犠牲者が、かの有名な渋井丸拓男、略してシブタクです。
彼は犯罪者というわけではないのですが、仲間たちと共に見知らぬ女性に威圧的なナンパをしてバイクで追い回そうとする相当に迷惑なチンピラではあります。
デスノートの効力に対し半信半疑だったライトはシブタクの名前を書き、事故死により葬りました。
ライト本人もさすがに「死刑になるほどの悪人じゃないぞ…」と葛藤しますが、
結果的にシブタクを殺したことがライトを開き直らせ、ライトを「キラ」に変貌させてしまった原因とも言えるかもしれません。
なお、これ以降ではシブタクのような心臓麻痺以外での死亡に関しては省略していきます。
心臓麻痺による死亡の瞬間が初めて明確に描かれたのは、Lが用意した死刑囚のリンド・L・テイラーです。
ライトはLの挑発に乗り、生放送に出ていたテイラーを殺してしまったことにより日本の関東に居ることを突き止められました。
生放送を観たライトが2ちゃんねるの実況スレとかに行ってたら話が終わってましたね
テイラーは死亡の瞬間、左胸を押さえてそのまま机に突っ伏しました。
次に死亡の瞬間が描かれたのは盗見米吾郎。
『DEATH NOTE』を読んだことがある方でも誰やねんと思われたでしょうが、
彼はFBI捜査官のレイ=ペンバーにキラとしての証拠を見せるためのコマに使われた人間です。
ちなみに彼の名前はライトが持っているノートにほんのわずかに写っていただけなので、
『DEATH NOTE』ファンの中でも「レイ=ペンバーの目の前で死んだ婦女暴行犯」といった認識かと思います。
それはともかく、ニット帽にフードを目深に被っただけというライトの変装スキルの低さは何とかならなかったのでしょうか。
目の前で心臓麻痺の死亡が起きてるわけなので監視カメラに状況証拠が残りまくりですし(というか実際にLが映像をチェックしています)、
レイ=ペンバーに謎の封筒を渡したり、1周が1時間の山手線に少なく見積もっても1時間以上、下手したら2~3時間は乗車しているという奇行に出た挙句、
あろうことかレイ=ペンバーの死亡時には帽子を外して勝ち誇ってしまうというライトの悪い癖が出まくりです。
これ何かちょっとでも計算違いのことがあるとキラの正体バレてましたよね。
少々お間抜けライトくんに話が脱線してしまったので話を心臓麻痺のシーンに戻しますと、
レイ=ペンバーは左胸を押さえて手と膝をついて苦しみ、冷や汗をかいて倒れ込む、
盗見は腕をクロスさせる姿勢で死亡、という形で死の瞬間が描かれました。
次に心臓麻痺の瞬間が描かれたのは捜査本部の刑事・宇生田広数。
彼がさくらTVに駆けつけたところ、第二のキラにより粛清されてしまいました。
宇生田は拳銃を落とし、ベルトのバックルに埋め込まれた緊急時用の発信機を押す力もなく倒れ込んでしまいます。
このさくらTVのシーンでは、他にもTVキャスター2名や警官2名がそれぞれ第二のキラにより粛清されていますが、
前後の病状が分かる具体的な描写が無いため割愛します。
次は少し珍しい例です。
ストーカーがミサに刃物で襲い掛かりそうになっているところを、死神・ジェラスがストーカーの行動を操って凶行を止めさせ、数分後に心臓麻痺で死亡しました。
とはいえ、これも死亡前後の病状が明示されていませんね。
ミサに関する顛末がひと段落した後は、きれいなライトとLが共闘して第三のキラを追う「ヨツバ編」に移るわけですが、
意外にもヨツバ編に入って以降、具体的な死亡の描写があったのは適当すぎる名前に定評のある白バイ隊員・白場維人の事故死が最初となります。
次に心臓麻痺の瞬間が描かれたのは第三のキラ・火口卿介でした。
火口の死亡から間もなく、58話でライトとLの戦いに決着が付きます。
宿敵・Lと、Lの右腕であるワタリ(キルシュ・ワイミー)の2名が心臓麻痺で死亡しました。
宇生田の死亡時は緊急用発信機を押す力もなかったのに対し、
ワタリは手を震えさせ、汗をかきながらも全データを抹消するボタンを押して事切れます。さすがワタリ。
こんなところにそんな超重要ボタンがあったらキーボード動かした時にうっかり押しちゃうことがあるような気がしますし、
YouTubeを観てる最中にうっかり関連動画をタップしてしまうことに定評のある私からすると怖くて仕方ありませんが、
ワタリは優秀なのでそんな私みたいな凡ミスはしません。
ちなみにライトは、Lとワタリの死後10日ほどでLが使っていたシステムを丸ごと盗んでLに成り代わってしまったので、ここで抹消したのがどういうデータだったのかは謎です。
Lは座ったまま倒れ込み、目を見開いてライトの極悪勝ち誇り顔を見せつけられますが、
一言も発することはできず、そのまま息を引き取ります。
『DEATH NOTE』第二部
こうしてライトとLの対決は終了しますが、第二部ではそこから5年後を舞台とした世界が描かれます。
そんな第二部で初めて心臓麻痺の死亡が描かれたのは、メロの組織に属するミラーと呼ばれる人物でした。フルネームは不明。
日本捜査本部が所有しているデスノートが本物かどうかを検証するためのコマとして扱われ、
ミラーは汗をかいて苦しみ、そのまま倒れ込みました。
メロは日本捜査本部が所有していたデスノートを使い、アメリカのキラ対策本部・SPKのメンバーを次々と抹殺していきました。
おそらくメイスン長官とガードナーは心臓麻痺による死亡のようですね。
ガードナーは倒れながらも右手で胸を押さえているっぽい?
…ように見えますが詳細は不明です。
73話ではメロが属する組織のメンバー、その大半が心臓麻痺により死亡しました。
しかしながら写っているのは倒れた後の姿のみ。
そして『DEATH NOTE』第二部を語る上で欠かせないのがハル・リドナーのシャワーシーンです。
メロはそんなとこでチョコ食ってたら溶けるんじゃね?とか何で顔をケガしたら天パが消えたの?
とか色々言いたいことは尽きませんが、リドナーのナイスバディの前には些末な問題です。
その後、ライトが見込んだ新たなデスノート所有者・魅上照の手により、
キラの存在を利用して私欲に走ったTVディレクター・出目川仁や、キラ王国の幹部たちが「削除」されます。
出目川や幹部たちは皆、一様に喉や胸を押さえて倒れていますね。
次に出てきたのは、電車男みたいな状況の酔っ払いが「削除」されるシーンです。
(この裁きは魅上が行ったように見せかけたフェイクでした)
エルメスさん女性の悲鳴でジェバンニが振り返った時には、既に男は倒れていました。
ところでジェバンニはキラ事件の容疑者をこんな間近で追いかけてるんだからマスクとか眼鏡とか顔をバレにくくする対策をすべきなのでは。
そして物語は佳境へ。
ライトが周到に用意していた謀略により、メロが心臓麻痺で死亡しました。
死亡前後の具体的な描写はありませんでしたが、トラックの運転席でハンドルにもたれかかって死亡しています。
そして最終決戦です。
ニアによる大胆な作戦とジェバンニの人間業とは思えない複製技術によりライトは敗北。
死神・リュークがライトの名前をデスノートに書き込み、引導が渡されました。
『DEATH NOTE 短編集』Cキラ編・aキラ編・鏡太郎編
以上で本編の描写は終了ですが、続いては『DEATH NOTE 短編集』に収録された描写についても見ていきましょう。
まずは「Cキラ編」です。
本編終了から3年後の世界で、再びデスノートを使う人間が現れました。
ニアにより「Cキラ」と名付けられた新たなデスノート所有者は、
犯罪者を裁いていたライトと違い、老人や自殺志願者たちを殺すことを目的として動いていました。
そんな中、テレビの生中継で「キラに殺してほしい」と懇願する若者2人が死亡します。
彼ら2人は胸をかきむしるように押さえ、冷や汗とうめき声をあげて倒れました。
Cキラ編からさらに6年後の世界が「aキラ編」です。
経緯を書いてしまうとネタバレ甚だしいので結論だけ申し上げると、aキラ編で死亡したのはたった1人だけです。
しかし、彼は既に死亡した状態でしか描写されていません。倒れる瞬間の様子は不明でした。
この短編集のラストを飾るのは、『DEATH NOTE』本編のプロトタイプである読み切りの「鏡太郎編」です。(「鏡太郎編」は短編集収録の際に後から付けられた副題です)
劇中では主人公の鏡太郎をいじめていた同級生の鈴木・田中・中村・山崎・小川の5人、
そしてデスノート事件を追っていた山中警部と高木刑事、
テレビで一連の事件について言及していた名も無きキャスターの、合計8人が心臓麻痺で死亡しました。
ただし、この読み切り版「鏡太郎編」は本編と大きく違う点がひとつあり、
それは「DEATH ERASER」でノートに書いた名前を消せば、遺体が残っている限り生き返るというものです。
デス消しゴムの効果はただごとではなく、死亡から2日経ってから使用しても生き返ってピンピンしています。
心停止から5分が経過すると脳に障害が残る可能性が高くなると言われていますので、デスノートとデス消しゴムの効果は医学の概念を大きく超越したものだと思われます。
ただし、本編のデスノートは「消しゴム・インク消し・修正液などで消しても何の意味もなさない」と明言されているので、鏡太郎編の設定は本編と違う可能性が高いですね。
あとはどうでもいいですが「デスイレイザー」じゃ駄目だったんでしょうか。
デスノートと対になる道具がデス消しゴムて。
デスノートの効果を考察する
心臓麻痺について
というわけで、本編の描写について全て確認できました。
次に考えるべきは「心臓麻痺」という状態ですね。
しかしながら、実は「心臓麻痺」は正式な医学用語ではありません。
一般的には「心臓を原因とした突然死」を「心臓麻痺」と指すことが多いですが、その定義は少し曖昧なところがあります。
そこで、まずは「デスノートによる心臓麻痺」が具体的にどういった状況を指しているのかを考えていく必要がありますね。
なお、ここから先は「デスノートによる心臓麻痺」を考える上で異常が起きているのは心臓だけであるという前提のもとに考察していきます。
例えば心臓以外にも肺・脳の動きが全て停止すれば100%確実な死ですが、「心臓麻痺」と呼ぶ以上は心臓以外の臓器に何かが起こっている可能性は考えないものとします。
話を戻して、「心臓麻痺」という状態を医学的に解釈すると「心停止」と言い換えられます。
心停止
次に「心停止とは何なのか」を解説していきましょう。
心臓の筋肉は微量な電気の伝達によって効率よく動いています。
しかし、何らかの理由で電気の伝達に異常が生じ、心臓が正しく動かなくなることがあります。こういった病気を「不整脈」と呼びます。
この不整脈によって起きる症状としては「動悸」や「息切れ」、「めまい」「立ちくらみ」といった比較的軽いものもありますが、
中には「失神」「突然死」といった状態を引き起こすものもあります。
「心停止」とは、こうした不整脈などが原因で心臓が全身に血液を送り込めなくなっている状態を指します。
心停止をさらに細かく分類すると、「心室細動(VF)」「無脈性心室頻拍(pulseless VT)」「無脈性電気活動(PEA)」「心静止(Asystole)」の4種類に分けられるのですが、
医療従事者以外が覚える必要は特にありません。
「一言で心臓が止まると言っても中身は色々あるらしい」くらいの認識でOKです。
そして、この4種類の中で最も医学的に重要、かつ救急の現場で見逃せないものが「心室細動(VF)」です。
心室細動というのは、簡単に言えば心臓がピクピクけいれんしている状況と考えるとイメージしやすいでしょう。
心臓がけいれんを起こしていたら大変です。体中に血液が行きわたらず、死亡してしまいます。
心臓が止まった人に対してAEDで電気をボン!と流すと息を吹き返す可能性があるのがこの心室細動(と無脈性心室頻拍)であり、しかも救急の現場では目にすることが多い状態ですね。
この心室細動の原因となりうる病気には、心臓の血管が詰まってしまう「心筋梗塞」や、心臓の機能が低下している「心不全」、
不整脈が起こりやすい病気である「QT延長症候群」や「ブルガダ症候群」など、
他には、子どもがキャッチボールなどの際に強くボールが胸に当たって心室細動を引き起こす「心臓震盪」という状況もあります。
上に挙げた4つの心停止のうち「心室細動(VF)」「無脈性心室頻拍(pulseless VT)」ならば適切にAEDを使用すれば救命できる可能性がそれなりに高いですし、
「無脈性電気活動(PEA)」「心静止(Asystole)」だと少々厳しくなりますが適切な心臓マッサージや人工呼吸を行えば救命できる可能性はゼロではありません。
また、致死性の不整脈を起こしやすい状態だと分かっているならば事前に対策を取っておくことも決して不可能ではありません。
実際に、心室細動が起こりやすい病気「QT延長症候群」や「ブルガダ症候群」等であれば「植込み型除細動器」という治療方法を取ることがあります。
植込み型除細動器(ICD)とは、簡単に言えば体内にAEDを入れておくような感じです。
心臓に危険な不整脈が起きた時に、電気を流して不整脈を治療してくれるわけですね。
デスノートで心臓が止まったら?
というわけで、デスノートによる心停止が心室細動によるものなのか、はたまた他の何かなのかは不明ですが、
どちらにせよ「倒れた直後に心臓マッサージを行い、素早くAEDを用意して救急車を呼ぶ」という一次救命処置を行うことにより心臓が再び動く可能性は0ではありません。
加えて、もしご自身がキラを追いかける名探偵だったり本名がエル=ローライトだったりするなど、
デスノートに名前書かれる可能性が高いなと思った場合は植込み型除細動器をあらかじめ仕込んでおくとさらに命が助かる可能性が高くなります。
これで良い結論が出ましたね!
…という考察で済めば簡単だったんですが、
話はもっと複雑です。
デスノートの心臓麻痺
上記の考え方には大きな問題があります。
実は「デスノートの心臓麻痺は致死性不整脈である」と考えてしまうと、作中の描写と大きく矛盾するのです。
その矛盾点とは、『DEATH NOTE』において心臓麻痺で死亡した人の多くが胸を押さえて冷や汗をかき苦しんでいるという描写です。
これら「胸痛」「冷や汗」といった症状は、致死性不整脈単独で起こる症状としては非典型的です。
致死性不整脈単独ならば即座に失神・心停止をしたり、前駆症状があるとしても頻脈による症状(動悸や立ちくらみ等)であることが殆どであり、胸痛を訴えることは一般的ではありません。
例えば、上に挙げた突然死のリスクがある疾患「ブルガダ症候群」では何の前触れもなく突然死することが多いとされています。
そこで「胸痛」や「冷や汗」といった臨床症状を伴い、なおかつ心停止を引き起こしうる心疾患について考えてみると、急性冠症候群という疾患群が鑑別に挙がります。
心臓は「冠動脈」と呼ばれる血管によって自身に血液を供給しています。
急性冠症候群とは冠動脈が細くなったり詰まったりして心臓自身の血液の流れが滞ってしまう病気の総称です。
その中でも特に重症なのが「心筋梗塞」という病気であり、これは冠動脈が閉塞し、心臓の筋肉の一部が壊死してしまう状態を指します。
心筋梗塞は心臓の一部に不可逆的なダメージを負ってしまうので、
心室細動などの致死性不整脈を引き起こして心停止してしまうことも決して珍しくはありません。
しかしながら、心筋梗塞が心室細動を引き起こすまでの時間経過は基本的に数分~数十分といったところ(数秒で発症する急激な例もありますが)なので、
デスノートの急激な経過を見るにただの心筋梗塞と考えるには病状が急激すぎますね。
普通の心筋梗塞は、動脈硬化などの影響で何本もある冠動脈のうち一部だけが閉塞してしまう病気ですが、
おそらくデスノートによる心筋梗塞はかなり広い範囲の冠動脈を閉塞させるのでしょう。
というより、デスノートというアイテムの絶対性を考えると全ての冠動脈を閉塞させていると考えても不思議ではありません。
以上のことから、デスノートには冠動脈の血流を完全に遮断してしまう作用があると推測することができます。
これならば「胸を押さえて冷や汗をかく」「心停止する」という2つの症状経過を辿ることになり、医学的にも矛盾しませんし、
胸を押さえて痛がる様子すらなく即死している人がたまにいる理由も説明できます。(盗見米吾郎や電車男など)
おそらく、全ての冠動脈が閉塞する際に微妙なタイムラグがある(完全な心停止までのわずかな時間に脳の血流がある=意識が保たれている時間が存在する)人は胸を押さえて苦しがり、
全ての冠動脈が閉塞する際のタイムラグが全くない(瞬時に心停止する=意識が保てない)人だと胸を痛がる暇もなく即死してしまう、という違いが生まれるのでしょう。
デスノートの対策方法(医学的アプローチ)
PCPS(経皮的心肺補助)
以上を踏まえてデスノートに名前を書き込まれた時の対策方法を考えてみましょう。
全ての冠動脈が完全に閉塞してしまっては、もはやこの心臓は全く機能しません。
心臓の筋肉が全て死んだに等しいので、AEDや除細動器といったものを使用しても心拍が再開する見込みは全くありません。
ならば、心臓を経由せずに全身の血流を保てば良いのです。
ということで、救急の現場でしばしば用いられる「PCPS(経皮的心肺補助装置)」を使いましょう。
PCPSは「V-A ECMO」とも呼ばれ、簡単に言えば心臓と肺の代わりをしてくれる装置です。
仕組みとしては太ももの静脈から血液を吸い上げて、血液の中に酸素を取り込み、太ももの動脈から酸素たっぷりの血液を体内に流し込むというものです。
太ももの静脈と動脈に太いカテーテルを入れることができて、専用の装置が使える状況なら比較的簡単に使用することができるので、デスノート心臓麻痺にも使用できる可能性は高いと言えるでしょう。
ちなみに、心臓手術などの際に一時的に心臓の代わりをする「人工心肺」という装置(PCPSも広義では人工心肺の仲間です)や、
重症の心不全などの際に心臓を丸ごと交換してしまう「完全置換型人工心臓」「心臓移植」といったものがあります。
これらも一見すると良さそうに感じるのですが、人工心肺や人工心臓などはメチャクチャ厳重な管理の下で熟練した心臓外科医が手術を行い、数時間かけてようやく取り付けるようなものです。
デスノート心臓麻痺の人にこんな手間のかかるものを取り付けていたら、その間に脳死に至るでしょう。
したがって、今まさにデスノートで倒れたという人に対して使えるものではありません。
補足として、「植込み型補助人工心臓」という装置を心不全の患者さんに使用することがありますが、
これは左心室の中の血液を大動脈に送血する装置であり、右心室の動きを代替できないためデスノート心臓麻痺には効果がありません。
実際の手順
というわけで、実際にデスノートで心臓麻痺になってしまった場合の対応を順番に解説していきましょう。
まず、心臓麻痺に陥ったら周囲の人がすぐに心臓マッサージと人工呼吸を開始します。
心臓マッサージは1分間に100回から120回くらいの速さで、深くしっかりと行います。(具体的には「アンパンマンのマーチ」「地上の星」くらいのテンポです)
心臓マッサージ30回に対して人工呼吸が2回です。できればACLSアルゴリズムに沿ってアドレナリン1mgの静注もしたいですね。
本来ならこういう一次・二次救命処置にはAEDや除細動器が必要不可欠ですが、デスノート心臓麻痺に限ってはAEDで心拍が再開する見込みが皆無なので不要です。
これらで時間を稼いでいる間にPCPSを準備します。
いくらデスノートといえど、心臓が止まった後で体に取り付けたものまで故障させるとは考えにくいですし、
もしそんな効果まであるとしたらお手上げもいいところなのでPCPSは使えるものとします。
これでPCPSが上手く取り付けられれば、とりあえず心臓以外の臓器を生かしておくことは可能になります。
本来ならその間に心臓の回復を待ち、少しずつPCPSから離脱していくわけですが、デスノート心臓麻痺の場合は心臓が再び使えるようになる可能性はゼロです。
そのため、完全置換型人工心臓や心臓移植手術に移行する必要があります。
かなり綱渡りな処置ではありますが、これでデスノートに名前を書かれても生きていられる可能性が浮上します。
以上をまとめると、デスノート心臓麻痺の対策方法は以下のようになります。
①倒れた瞬間、すぐに心臓マッサージと人工呼吸を開始
②なるべく早くPCPSを装着する
③その後、人工心臓や心臓移植手術を行う
どの処置もかなり体に与える侵襲は大きいですし、脳保護・臓器保護もかなり厳しく、
若くて健康な人間に行ったとしても蘇生率は10%に満たないくらいのウルトラ処置になりそうですが、
これが医学的に考えられるデスノート心臓麻痺の唯一の対策方法だと思います。
デスノートの対策方法(ルールの穴を突くアプローチ)
デスノートのルール
…と、ここまでが医学的な話です。
実はデスノートにはルールがやたらと多く、中には突っ込みどころ満載の謎ルールやものすごく限定的な状況を想定した変なルールもあります。
前者の例として「デスノートは、いくら名前を書いてもページがなくならない」(5巻 How to use it 31)、
後者の例として「名を記し死因を書いている途中で燃える等した場合は名を記してから 40 秒で心臓麻痺となる」(11巻 How to use it 62)等が該当します。
それどころか「デスノートについて、わからない事は元持ち主の死神でも沢山ある」(1巻 How to use it 7)というそもそもルールですらないものも存在する上、
死神大王により後付けのルールが制定されることもあります。
そんなデスノートのルールの中には、「〇〇という条件を満たす場合は無効」といった内容のものが複数存在します。
このルールの穴を上手く突くことができれば、ルールに守られることも可能かもしれません。
そこで「無効系」のルールを全てピックアップしてみると、大きく分けて4つのルールが該当することがわかります。
無効系ルール①:生後780日ルール
単行本で初めて言及された無効系ルールが「生後780日に満たない人間には、デスノートの効果は得られない」です。
…しかし、このルールを使う場面はさすがに考えにくいですね。
生後780日というと2歳と2か月くらいであり、いかにライトの倫理観がブッ飛んでいるとしても2歳以下の子どもにデスノートを戦略上使うべき場面・使いたい場面はほぼ無いでしょう。
ちなみに『DEATH NOTE』連載当時には「南空ナオミ生存説」がしばしば唱えられていました。
この説の根拠としては「もし南空ナオミがレイ・ペンバーとの子どもを妊娠中であるならば、南空ナオミが死ぬと必然的に生後780日以内である子どもも道連れになるのでデスノートが無効になるはず」というものです。
これ自体は非常に面白い説ですし、一定の説得力もあると思います。
しかし、まだ産まれていない胎児に対してもこのルールが適用されるのかは不明である上、
適用されたとしても、How to use it 10の「自殺でも事故死でも、名前を書かれた人間以外の死を直接的に招くような死に方をさせる事はできない。他の人間の死を招く様であれば、名前を書かれた者が第三者の死を招かない状況下で心臓麻痺となる」というルールに則って考えるならば、
子どもを出産した直後に心臓麻痺になると思われるので根本的な解決にはならないですね。
それでもあえてこのルールを利用するならば、出産直後に上記の「医学的アプローチ」を行う用意をしておくといった程度でしょうか。
無効系ルール②:4回間違いルール
無効系ルールの2つ目は「同一人物の顔を思い浮かべ、四度名前を書き間違えると、その人間に対してデスノートは効かなくなる」です。
これは上のルール①と同じページに書かれていますが、「その人間に対してデスノートは効かなくなる」というかなり強制力の強いルールですね。
さすがにこれは原作者も悪用しやすすぎると思ったのか、6巻の単行本で
「デスノートに名前が書き込まれ死ぬ事を避ける為に故意に4度名前を間違えて書くと、書き込んだ人間は死ぬ」
「故意に4度名前を間違えて書かれた人間は、4度間違えて書かれた事になりデスノートに名前を書き込まれても死ななくなる事にはならない」
というルールが後付けで設けられてしまいました。
しかしながら、これでも普通に抜け道は存在してしまいます。
というか『DEATH NOTE』のコラ漫画が流行っていた連載当時、このルールを使ってライトがデスノートに対し無敵になった二次創作が存在していました。
そこで採られていた手順はこういった感じです。
・デスノートの切れ端、ライトの顔写真、手紙を用意する
・ライトと面識のないキラ信者をリストアップし、上記の3点を送る
・手紙には『この顔写真の男はキラの敵である。同封した紙切れ(デスノートの切れ端)に、この顔を見ながら「〇〇」(偽名)と書き、その後それらを燃やすように』という内容を書いておく
・この手紙の内容に4人以上の信者が従えば作戦成功
・4回間違いルールが適用され、ライトはデスノートにより死ぬことがなくなる
実際、この手法を使えばかなり容易にデスノートに対して無敵になれます。
キラでない一般人にとってデスノートの切れ端を用意するのがメチャクチャ難しいという欠点はあるものの、
デスノートの切れ端さえ用意できれば、人を雇うなり何なりでどうにでもできます。
おそらくデスノート対策としてこれ以上に確実な手法は無いでしょう。
無効系ルール③:同時書きルール
次は、デスノートに山ほどあるそれどういう状況やねんルールです。
「二冊以上のデスノートに同じ人間の名前が書かれた場合、記してある死亡時刻には関係なく、一番先に書かれたものが優先される」
これはまだ良いとして、問題なのは
「二冊以上のデスノートで名前を書き終える時間の差が0.06秒以内の場合は同時とみなされ、それらのノートに書かれた事は無効になり、名前を書かれた人間は死なない」
ですね。
解説するまでもありませんが、これで心臓麻痺対策をするのはほぼ不可能です。
キラの手によってデスノートに名前を書かれてしまった時、瞬時にデスノートを用意し、相手が書き終わるのと同時(誤差0.06秒)に書き終わらねばならないので仮に相手の全面協力があってもメチャクチャ難しい方法です。
しかもこんな離れ業をやっても、4回間違いルールのように特定の人間に対しデスノートが無効になるわけではないので、キラがもう一回書き込みをしてきたら終わりです。
再び誤差0.06秒の勝負に勝たなければなりません。
それでもキラがもう一回書き込みをしてきたら(以下略)
というかそもそもデスノートが用意できる状況なら4回間違いルールで無敵になればよくね?
ちなみに、実写映画版ではこのルールの1つ目「先に書かれたものが優先される」という状況を利用して、
具体的な死の時間を操れる限界である「23日後に心臓麻痺で死亡」と自分の名前をあらかじめ書き込んでおくことにより、以降のデスノートの書き込みを無効化するという大胆な作戦が採られていました。
この作戦と5巻のHow to use it 28を応用すると、死因次第では23日以上にわたり生きられる可能性があります。
実際の患者さんに配慮し、病名はあえて挙げませんが年単位で病気が進行する致死的な病名を書けば時間的猶予はさらに延びるものと思われます。
しかし、やはりデスノートが手に入る状況ならそもそも4回間違いルールを使えば死ぬ必要がないので基本的には無用でしょう。
(実写映画版はそれをするだけの時間や状況が無かったという事情もありますが…)
無効系ルール④:高齢者 & 瀕死者は免除ルール
最後も無効ルール③に続くそれどういう状況やねんルールです。
「人間界単位で124歳以上の人間をデスノートで殺す事はできない」
「残りの寿命が人間界単位で12分以下の人間はデスノートで殺す事はできない」の2つですね。ここではまとめて1つとして扱います。
まず、生没年月日に関する確かな記録がある史上最高齢の人間はフランス人のジャンヌ・カルマンさんで122歳164日です。(出典:Wikipedia『長寿』)
第2位の人物が日本人の田中カ子さん、119歳107日となっています。
というわけで歴史上、124歳に達した人間は2023年現在では存在しませんので、
もはや124歳まで生きられた時点でデスノートについて考えている場合ではありません。
次に「残り寿命12分以下」ですが、残りの寿命が12分以下でデスノートを回避できたから何やねんという話なのでこれも考えなくて良いでしょう。
一応、命の音とか死のウエディング・リングのように「何もしなければ一定時間後に死が訪れるが、回避する方法も用意されている」というギミックを使えば寿命もデスノートも無効にできる可能性が無くはありませんが、
死神界で言うところの「寿命」は、作中の描写から察するにデスノートで他人の命を奪うことで間接的に助かる以外の方法では決して変えられないものだと思われますので、
仮にゲンスルーやワムウの全面協力を得たとしてもおそらくこの方法は使えないでしょう。
結論として、この無効系ルール④は実用性皆無です。
デスノート心臓麻痺の対策・決定版
そんなわけで、医者が本気で考えるデスノートによる心臓麻痺を回避する方法が完成しました。
まずは、心臓麻痺が起きてしまった場合の対策が以下の通りです。
①倒れた瞬間、すぐに心臓マッサージと人工呼吸を開始。
②なるべく早くPCPS(経皮的心肺補助)を装着する。
③PCPSにより全身状態を保つことができれば、完全置換型人工心臓や心臓移植手術に移行する。
しかしながらこれは相当に綱渡りな手法であり、救命率を考えると心許ないのも確かです。
そのため、あらかじめ以下のようなルールを利用した対策方法も取っておくことが望ましいですね。
・デスノートを持っていない男性および非妊娠女性
⇒上述の医学的アプローチを取るしかない。
・デスノートを持っていない妊婦
⇒出産直後に心臓麻痺を発症する可能性があるため、産後に上述の医学的アプローチを取れる準備をしておく。
・デスノートを持っているが、十分な時間的猶予がない
⇒自分の名前と、死因として病状の進行が年単位である病気を書いておく。
・デスノートを持っており、時間も人脈も用意できる
⇒4回間違いルールを活用してデスノートに対し無敵になる。
これこそが2023年現在の医学で可能な、最高のデスノート対策と言えるでしょう。
以上、キラを追いかける名探偵の皆様にとって参考になりましたら幸いです。
一次救命処置
余談ですが、上に挙げた心室細動などの致死性不整脈は突然起こり、人命が失われる原因になります。
これらの病気は本当にいつ起こるか分かったものではないので、できれば誰もが心臓マッサージやAEDを使える必要があるわけです。
AEDは衣類を開いて貼り付けなければならない関係上、女性に行うのはちょっと抵抗がいるかもしれません。
Twitter等で「AEDを使って女性から訴えられた」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。
しかしこれはツイ主がデマであると公言していますし、弁護士の見解としても「AEDの使用は強制わいせつ罪にあたらない」「AEDを使って訴訟されたケースは無い」としています。(参考:【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってセクハラになる可能性ってありますか?)
心停止から5分経過すると脳に障害が残る可能性が高くなると言われています。
その5分間の間に心臓マッサージやAEDが適切に使われれば生存率は飛躍的に上がりますし、後遺症のリスクもグッと低くなります。
5分で救急車が到着できることの方が珍しいので、目の前の人命を救えるのはあなただけかもしれないのです。
倒れた人を見た場合、AEDの使用を躊躇してはいけません。
まとめ
本日はデスノートに名前を書き込まれてしまった場合の対策方法について考えてきました。
我ながら、劇中の描写と辻褄の合うなかなか良い考察ができたと満足しております。
なお、ここまで頑張って考えてきたわけですが、
心臓麻痺以外の死因を書かれた場合、今回の医学的アプローチは一切役に立たないので、
もしライトくんに「やっきー 事故死」等と書かれた場合は潔く諦めようと思います。
やはり4回間違いルールを活用するのが最高の予防策と言えるでしょう。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
以下、関連記事です。
救急医学については『TOKYO MER』の記事でも詳しく解説しています。
産婦人科医が『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』の描写を解説する
「何でこんなにこの考察を頑張ったんだろう」という記事ならこちらも。
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それはともかくとても面白い内容でした。