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質問箱の回答まとめ vol.6「妊娠・産後の疑問 徹底解説編」

やっきー
やっきー

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!


私がマシュマロで読者様からのご質問を募集していることはご存知の通りかと思います。

皆様のご質問をまとめて作った記事もいくつか生まれました。

質問箱の回答まとめ vol.1「やっきーの生態編」

質問箱の回答まとめ vol.3「漫画描写で学ぶ医学編」


ブログと違って過去の回答を掘り返すのはなかなか難しく、

埋もれさせておくのは惜しい質問・回答もいくつかあります。

そんなわけで、今日は過去の回答の中からいくつかピックアップしてお届けしましょう!

第6弾となる今回は「妊娠・産後の疑問 徹底解説編」です!

めちゃくちゃ長いので、目次から気になった項目のみ読むことを推奨します。



粉ミルクをお湯で溶かす理由は?


このご質問を頂いたのは2024年1月なので、2月に行われる助産師国家試験を控えた助産学生さんからのご質問ですね。

「災害時に粉ミルクを(お湯ではなく)清潔な水で溶かしても良いのか?」という内容です。

結論から言いますと、お勧めできません。



まず、質問文にもある「サカザキ菌」という聞き慣れない菌について。

これは正式名称を「クロノバクター・サカザキ」と言いまして、1958年にイギリスで新生児敗血症や髄膜炎を起こした乳児から検出された菌です。

それからも世界各国でサカザキ菌による乳児感染症の報告が相次ぎ、1961年〜2018年にかけて世界中で183人の患者が確認されています。

出典:ナショナルジオグラフィック

そんな危ないサカザキ菌ですが、実は自然界のあらゆる場所に存在します。

なんなら健康な成人の腸内にもごく普通に居るようです。

そんなありふれた菌であるがゆえに、どんなに清潔な製造工程を経たとしてもサカザキ菌を完璧にブロックするというのは非常に難しく、

2006〜2007年度に国産の粉ミルク200製品を調査した結果、6製品からサカザキ菌が検出されたという報告もあるほどです。


大人ならサカザキ菌による健康被害はまず起こり得ないのですが、赤ちゃんとなると話は別です。

特に、免疫機能の不十分な早産児・免疫不全児・低出生体重児などに関してはサカザキ菌により重篤な感染症が起こるリスクがあるとされています。



こうした状況を受けて、2007年にWHOおよび国連食糧農業機関(FAO)により『乳児用調製粉乳の安全な調乳,保存および取り扱いに関するガイドライン』が作成されました。

要点をまとめると、こんな感じです。

「粉ミルクの調乳には、1度沸騰させたお湯を使い70℃以上で調乳する」(この温度ならサカザキ菌が死ぬ)
「加熱に電子レンジは使わない」(熱の通りが不均一なため)
「調乳後2時間経ったミルクは廃棄する」(ミルク内に再び菌が入り込み繁殖するおそれがある)

そのため、質問文にある模擬試験(お湯が用意できなければ清潔な水で粉ミルクを溶かす)は答えが間違っていると思います。

確かに早産児などのハイリスク症例でなければサカザキ菌による感染症のリスクがことさら高いは言えないのですが、それでも無視して良いような状況ではありませんし、お湯を使った調乳が望ましいです。

いくつか文献をあたってみましたが、災害時に緊急避難的に水で溶かして良い、というガイドラインもちょっと見つかりませんでした。(知らなかっただけならごめんなさい)


とはいえ、そんなことを言っても災害時は困りますよね。

大地震などで被災した方に「お湯を用意しろ」と言ってもなかなか厳しいものがあります。

そうした状況を改善させてくれるのが「液体ミルク」です。

適切な手段で製造され、品質が担保され、かつ密閉された液体ミルクであればサカザキ菌のリスクは限りなく低いため、調乳の手間なく赤ちゃんにあげられます。

出典:meiji

しかし、つい最近まで日本では食品衛生法により液体ミルクが認可されていませんでした。

阪神淡路大震災や東日本大震災を経て日本小児科学会からも強い要望があったのですが、ことは赤ちゃんの安全に関わる問題なのでなかなか認可が進まなかったのも分からなくはないところです。


この状況が変わったのが、2016年の熊本地震です。

駐日フィンランド大使館から救援物資として液体ミルクが配布され、小さい赤ちゃんを持つご家庭から賞賛されました。
フィンランドの皆さんありがとう。

これを受けて2019年、ついに厚生労働省により液体ミルクの認可が下りました。

現在の日本では、厚生労働省による製造工程の厳しいチェックを受けて、認可を得た商品のみが液体ミルクとして流通しており、明治、グリコ、森永、雪印により販売されています。

災害時の備えとして、小さい赤ちゃんをお持ちのご家庭では液体ミルクのストックがあると安心ですね。

ちなみに私の家で災害時用に備蓄してたのは明治さんの「ほほえみ らくらくミルク」です。(露骨なPR)

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参考文献
食品安全委員会「クロノバクター・サカザキについて」(https://fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/c_sakazaki_FAQ.html)
伊藤璃津子「調乳後何時間まで保存できますか?」周産期医学 52(増刊): 406-407, 2022.



母乳に含まれる免疫物質は胃酸で失活しない?


母乳に含まれる免疫物質(免疫グロブリン)はタンパク質なのに、タンパク質を分解する胃酸で分解されてしまわないの?という話ですね。

ていうかこの質問、一般人の皮を被った助産師さんだな?



助産師さん相手ならば気合いを入れて話しましょう。人工ミルクの歴史からね。

結論が先に聞けると思った?

甘い。コンデンスミルクより甘い。私はこういう時、古代や中世から遡ります。


さて。人類の歴史において「母乳が出ない」はけっこう深刻な問題で、かつては米のとぎ汁や動物の乳などをあげていました。

しかし明らかに栄養成分が人間の赤ちゃん用ではないので、それが原因で命を落とす赤ちゃんも多かったといいます。

だからこそ代わりに母乳をあげてくれる「乳母」上流階級の人にとってメチャクチャ重宝されてきた歴史があるわけですね。



そんな中、19世紀末についに人間の赤ちゃん用に精製された人工ミルクが開発されました。

日本で言えば明治時代ですね。



この人工乳の開発により新生児・乳児の栄養状態はグンと良くなりますが、

統計学が発達したことで「人工乳単独よりも母乳をあげてた方が赤ちゃんの死亡率が低いぞ?」という事実が明らかになっていきます。

そしてWHO(世界保健機関)によって「母乳がお勧めやで」という声明が出されたのが1974年

この頃には母乳の優秀さがかなり浸透していたわけですね。


それでは、具体的に人工ミルクは母乳と何が違うのか?

最大の違いが母乳に含まれる免疫物質!

免疫システムの未熟な赤ちゃんに代わって、母体が持っている白血球やらグロブリンやらといった免疫物質が総動員して赤ちゃんに駆けつけてくれます。



この仕組みはバチクソに優秀であり、人工ミルクと比較した母乳の優位性は様々な研究により立証されています。

ここではとても言い切れないレベルなので詳細は割愛。

とにかく母乳は超優秀なものだと認識して頂ければOKです。


しかし、人工ミルクのメーカーさんも黙っていません。

数十年前まではただ薄めた牛乳に砂糖を加えたレベルだった人工ミルクですが、

母乳の栄養学的優位性が明らかになるにつれ、母乳に追いつき追いこせと涙ぐましい企業努力が続けられ、

現在では母乳と比較して決して遜色のないものに進化しています。

出典:meiji

腸内細菌叢に良い影響を与えるオリゴ糖や、免疫物質のラクトフェリンを配合したり、

脂肪成分の中でも脳や網膜の発達を助けるDHAを強化していたり。

母乳唯一の弱点である「ビタミンKが少ない」という欠点を最初から補ってくれているのも嬉しいところ。

もっとも、さすがに白血球やグロブリンといった超複雑な物質までは再現できないので、どうしても最終的には母乳に軍配が上がります。

とはいえ母乳はある程度飲めていれば免疫システム的には充分に恩恵にあずかれますし、

前述の通り人工ミルクもすさまじく優秀な品質になってきていますので、足りない方は遠慮なく人工ミルクを使いましょう。

やっきー
やっきー

母乳の出が多少悪くてもいいのです。


ちなみに私は明治さんの「ほほえみ らくらくキューブ」をよく使いました。

持ち運びやすく、出先に持っていくのにうってつけです。(露骨なPR)


…えーと、何の話だっけ。

そうそう、「グロブリンは赤ちゃんの胃酸で分解されないの?」でしたね。

結論から言いますと、ほぼ分解されないです。

母乳に含まれるグロブリン(免疫効果のあるタンパク質)は、その殆どが「分泌型IgA」と呼ばれるものです。

分泌型IgAは2個のIgAが手を繋いだような状態になっています。この状態だと胃酸に対して安定性があり、赤ちゃんの腸まで届いてくれます。

出典:自然免疫応用技研

そしてIgAは赤ちゃんの腸内で有害な細菌を排除してくれたり、腸から吸収されて赤ちゃんの体内をパトロールしてくれたりします。

よくできてますねえ。

※meijiさんの案件記事ではありません。私が勝手に宣伝しております。

参考文献
大西聡『経腸栄養 (母乳, 人工乳, 特殊乳)』周産期医学 50(4): 469-471, 2020.



へその緒はどのタイミングで切るのが良い?


臍帯切断のタイミングの話ですね!

これ、実は微妙に意見が分かれるところなのです。

昔からしばしば「へその緒ってどのタイミングで切るのが一番いいの?」という議論は存在しました。

出典:AXEL

すぐに切った方がいいのか、しばらく待つべきか(臍帯遅延結紮)、へその緒の中にある血液を赤ちゃん側にしぼり出してから(ミルキング)切った方がいいんじゃないか、など…

諸説があり、わりと先生ごとに意見がバラバラでした。


最近で大きめの団体が出している見解だと、2022年にカナダの小児科学会がこんな発表をしています。

・37週未満の早産児ならできれば60秒は待った方がよさげ
・28~36週なら臍帯遅延結紮の代わりにミルキングでもいいかもね(推奨度は弱)
・28週未満ならミルキングすることに意味は無さそう(推奨度は弱)
・ただちに蘇生が必要な赤ちゃんについてはやらなくて良いと思うで(推奨度は弱)
・その他、正期産児とか双子とかに関してもはっきりした医学的根拠なし

(出典:Umbilical cord management in preterm and term infants)


やっきー
やっきー

さらにさらに、これを踏まえた私の見解はこんな感じです。

・確かに正期産児でも貧血が減るというデータはあるけど、それが赤ちゃんの予後にどのくらい影響するかは不明なので必ずしも臍帯遅延結紮しなくてもいい気がする
・早産児の場合、臍帯遅延結紮により頭蓋内出血の頻度が有意に低下する(機序はたぶん貧血改善⇒過剰な脳血流の減少⇒頭蓋内出血の予防?)というデータがあるので、臍帯遅延結紮かミルキングをしてもいい気がする

もっともっと砕けて言いますと、

28~36週で産まれた赤ちゃん以外は臍帯遅延結紮やミルキングをする必要はないんじゃないかな?というのが私の見解です。



妊娠中の運動は何をしたらいい?


頸管無力症や前置胎盤などの禁忌がない限り、妊娠中のスポーツは妊娠合併症を減らすため非常に有益とされています!

そしてこのご質問にはそのまんまぴったり、産婦人科ガイドラインに「妊娠中の運動について尋ねられたら?」という項目がありますので、そのまんまお伝えしましょう。

妊娠中の好ましいスポーツとして「ウォーキング、フィットネスバイク、ダンス、柔軟運動、水中エクササイズ、水泳、ウェイトやバンドを使った筋力トレーニングなど」と記載されています。



逆に、好ましくないスポーツとして「サッカー、ホッケー、レスリング、サーフィンなど」となっています。

要するに、お腹を強く打つリスクが比較的高いものは止めとけ、ということですね。

このガイドライン読むたびに思うけど、レスリングの存在感がえげちないよね。吉田沙保里さんでもたぶん妊娠中にはやらないと思うぞ。



そして危険なスポーツとして「体操競技、重量あげ、乗馬、スキー、スケート、スクーバダイビングなど」となっています。

要するに、転倒のリスクが高い競技はダメゼッタイというわけです。

こんな感じでお好みのスポーツをお選び頂ければと思います。



絨毛膜下血腫には対処方法がない?


妊娠初期に出血が起きる「絨毛膜下血腫」ですね。

そもそも絨毛膜下血腫とは何ぞやと言いますと、「妊娠初期に卵膜の周囲にみられる血腫」のことです。

要するに、妊娠初期に何かの拍子に子宮の中に血が溜まってしまうことがあるんです。

この血液は子宮にとっても赤ちゃんにとっても不要なので、外に追い出します。これが出血の正体です。

絨毛膜下血腫自体は全く珍しいものではなく、妊婦さんのおよそ5人に1人くらいは絨毛膜下血腫を起こしたことがあるとされています。

妊娠中に出血するのでびっくりされることも多いですが、多くは1~3か月以内に自然消失し、その後の妊娠経過に影響を及ぼすことは稀です。


ではなぜ子宮に血が溜まってしまうのかと言いますと…これは未だにはっきりした結論が出ていないのですが、

現時点で最有力の説としては「妊娠初期は絨毛(≒胎盤)がしっかりしていないため」とされています。

現時点で絨毛膜下血腫に対し根拠のしっかりした治療法は存在しません。

アドナ®やトランサミン®といったいわゆる止血剤や、リトドリン®などの子宮収縮抑制剤を使うケースもありますが、明らかな治療効果は無いようです。

強いて言えば安静にするくらいですが、これも正確に言えば「動きすぎないこと」が肝要です。



安静にすることで流産を防げるという根拠は存在しませんが、

動きすぎる(肉体労働をしたり、重い物を持ったりする)ことは流産のリスクになるようです。

というわけで結論としては、安静にすること(動きすぎないこと)以外に絨毛膜下血腫の治療は今のところありません。

そもそもの原因が絨毛血管の脆弱性によるものなので、

もしも赤ちゃんに影響を与えることなく溜まった血腫を完璧に取り除く手段が見つかったとしても、また再び脆弱な絨毛血管から出血が起きてしまうのです。

こういった理由で、週数が経って胎盤がしっかりするのを待つほかないというわけですね。


ご不安かと思いますが、赤ちゃんとご自身を労わるためのリラックスタイムだと割り切ってしまいましょう。

もしお仕事をしていたらできるだけお休みして、重い物を持ったり上の子のお世話をしたりはなるべく旦那やご両親に任せましょう。

そのへんのことをやってくれない旦那がいたら教えてください。

質問者様に代わって私が咬みつきに行きますゆえ。

参考文献
産婦人科診療ガイドライン産科編 2023
岩田亜貴子『絨毛膜下血腫』周産期医学 51(増刊): 227-228, 2021.



円錐切除をすると早産になりやすい?


円錐切除後の早産リスクに関するご質問です。

要するに「円錐切除をしても、子宮頸部の力が強くて赤ちゃんが出てこないようにガードできていれば関係ないんじゃないか?」ということですね。

子宮頸部の異形成や上皮内癌(ごく初期の子宮頸癌)に対しては、子宮頸部の一部を切りとる手術「円錐切除術」が行われることがあります。

出典:国立がん研究センター

この円錐切除術早産のリスクを上げるのかどうかは長らく謎な状況が続いていました。

私が産婦人科医になった頃は「電気メスで円錐切除したら子宮頸部が硬くなってむしろ早産になりにくくなるのでは?」という意見もあったほどです。


しかし、この説は様々な統計により否定されることになります。

コールドナイフ(つまりただのメス)で円錐切除をした場合は確実に早産のリスクが上がることが判明しましたし、

電気メスLEEPという電極を使った円錐切除でも早産リスクの上昇が示唆されています。

ではなぜ円錐切除で早産になるのか。これは、

「子宮の出口を切りとることで赤ちゃんをホールドする力が弱まるから」

「早産に関与する細菌が腟から子宮内に移動する距離が短くなるから」

「細菌を洗い流す作用のあるおりものを分泌する細胞を失うから」

といったあたりの機序が有力視されています。

実際に、円錐切除を行った患者さんの腟内常在菌から乳酸菌(いわゆる善玉菌)が減少したというデータもあります。

要するに、質問者様の子宮頸部の筋肉がいかになかやまきんに君であろうとも、

細菌感染という別方向からの早産リスクが生じるため、パワー!だけでは限界があるわけです。

出典:なかやまきんに君.com


なら円錐切除をした人はどうしようもないのか!と言いたくなるところですが、

そこで登場するのが「予防的頸管縫縮術(子宮の出口を糸で縛っておこう手術)」です。

現在、円錐切除後の予防的頸管縫縮術に対する効果については議論の最中であり、未だ決着をみていません。

しかしながら、「円錐切除で大きく切り取った症例」「頸管長が明らかに短い症例」などに関しては頸管縫縮術の効果があったとする報告が多く上がっています。



よって、質問者様の主治医の先生による「頸管長を含めて慎重に見ていく」という方針は非常に真っ当なものだと思います。

過去の報告ではさらに腟内の細菌や、子宮の炎症反応などの評価も絡んでくるのでなかなか一概に言うのは難しいところではあるのですが…

ここはまだ統一した見解が存在しないので、「個々の症例ごとに対応」といった扱いになりますね。

質問者様のおっしゃる通り、HPVワクチンが適切に接種されていればこういった心配もほとんど不要になるので、早いところワクチンが広まると良いなあ…と願わずにはいられません。

参考文献
日本早産学会『早産のすべて』-「早産歴や子宮頸管手術歴と早産の関連は?」
大槻克文『円錐切除後妊娠の妊娠・分娩管理~子宮頸管縫縮術の適応と有用性』ペリネイタルケア 41(2): 132-139, 2022.



母体の体重が増えない時に早産になる仕組み


母体の体重が十分に増えない場合に早産が増える仕組みについてですね。

これは確かに様々なデータにより統計学的に実証されています。

さて、まずは母体の体重増加不良と早産の関連性を示したデータを見てみます。

例えば、2009年に米国医学研究所が発表した研究としては、妊娠中の体重増加が基準値よりも少なかった場合早産率が1.3~1.7倍に増えたとしています。

妊娠前にやせていた(BMIが18.5未満)方に関しても同様に早産率が上昇したという報告が複数あります。

なぜこのように体重と早産が関連するのか、ですが…





と、これだけではズコーなのでもうちょっとだけお話を。



実は妊娠したヒツジをちょっと栄養不足にさせた実験がありました。

この場合に胎児の視床下部-下垂体-副腎系が早く熟化し、コルチゾールが過剰に分泌されたことが実証されました。

これに続いて母体のプロスタグランジン濃度上昇が引き起こされ、早産に繋がっているのではないか、ということですね。

一般の方はこれじゃ意味がわからんと思いますので、かーんたんに言いますと、


オカン🤰が栄養不足になる
⇒エケチェン👶「オカンから糖分もらいたいのにあんまり来ないな…自分で糖分作ったろ!」

⇒👶の体内で糖分を増やすためのホルモン(コルチゾール)がたくさん作られる

⇒🤰「むむっこれはコルチゾール!こんなの作れるなんてうちの子は立派に育ったのね…(ホロリ」
⇒👶「え?ワイ糖分足らんから自給自足してただけなんスけど」

⇒🤰「立派に育ったみたいだし産んだろ!」
⇒👶「オギャー!!」


といった感じの仕組みが今のところ有力です。

しかしながら、このヒツジの実験から20年近く経ちますし、そろそろ革新的な知見が出てきてもおかしくはないかもしれませんね。

さて、では妊娠中は何が何でも体重を増やすべきか?というと少し違います。

この体重増加目標(一般的な体格なら10~13kgが推奨)は、どちらかと言うとボディイメージを気にしすぎて妊娠中に食事を減らしすぎる方への警鐘という意味合いが強いです。



妊娠中に食べてもなかなか太れないという方もいらっしゃいますし、10kg太れないと絶対ダメ!というわけではありません。

バランスよく、ほどよく食べる。これこそが最も大事です。



RSウイルスワクチンはいつ打てる?


これは産婦人科・小児科の関係者や妊婦さんにとっては超!!!重要なトピックスですので、詳しく解説していきましょう。

さて、「RSウイルスは風邪のウイルス」と言われることがしばしばあります。

大きな意味では間違ってないんですが、「風邪のウイルス」だけでくくるにはちょっと無理があります。

出典:大阪健康安全基盤研究所

RSウイルスというウイルスはずーっと昔から世界中に存在しました。

正式名称は「Respiratory Syncytial Virus」と言います。あまり日本語で表現されることはありませんが、むりやり日本語にすると「呼吸器合胞体ウイルス」となります。

生後1歳までに半数以上が、2歳までに100%の子供がRSウイルスに少なくとも一度は感染するとされており、熱や鼻水などといったいわゆる「風邪」の症状を起こします。

しかし、このRSウイルスに感染するとひどく重症化するリスクの高い方が居ます。

それが「早産児」「心臓・肺・神経・筋肉・免疫不全などに基礎疾患のある2歳未満の小児」「肺・呼吸器に基礎疾患のある高齢者」です。

上記を満たさない場合も、生後半年以内の乳児の感染も重症化リスクが高いとされています。


ただの風邪ウイルスと侮るなかれ。



大人はどうかというと、アメリカでは年間約17000人の成人がRSウイルスにより死亡しており、その約80%が65歳の高齢者と報告されています。

高齢者のRSウイルスの罹患率や入院期間、ICU入室率、死亡率はインフルエンザと同程度であり、かなりの疾病負担となっていることが示されています。

そんな洒落にならんウイルスだけに、何とかならんのかいな!という声は以前からありました。

よしほんならワクチンや!RSウイルスワクチン作ってみるで!ということで、1960年代にRSウイルスのワクチンが試作されました。



以前から私のブログを読んで下さっている方ならお分かりかと思いますが、ワクチンというのは元々存在するウイルスをすんげー弱くしたウイルスです。(ものによりますが)

ワクチン=よわよわウイルス、だと覚えてください。

てなわけで作られたアメリカで作られたよわよわRSウイルス。

これを乳児たちに接種してみた結果ですが、

ワクチンを接種していない児の初感染時の入院率が1%だったのに対し、

ワクチンを接種した児はむしろ入院率が80%に爆増、さらに2名が死亡するという最悪の結果になってしまいました。

ワクチン接種の直後は何ともなかったのに、RSウイルスに感染するとめっちゃくちゃ重症化してしまったのです。

何故こんなことになったのか。

この現象を「VED」と呼び、すごく簡単に言えば

免疫細胞がRSウイルスのことを中途半端に記憶する

⇒RSウイルス(本物)に感染する

⇒免疫細胞がRSウイルスをぱくぱく食べるがウイルスは死なない

⇒免疫細胞の中でRSウイルスが増殖する

通常よりも増殖したRSウイルスが体内にぶちまけられる

という大惨事が起きます。

全てのウイルスがこのVEDを起こすわけではありませんが、RSウイルスは性質上、中途半端なよわよわウイルスを接種するとこの現象が起きやすくなってしまうわけですね。

一部の反ワクチンがこのVEDを拡大解釈したりすることも…


ともかく、この大失敗がその後のRSウイルスワクチン開発に影を落とした歴史があります。

ただでさえ、RSウイルスワクチンの恩恵が受けられるのは乳児や妊婦さん、高齢者と、臨床試験の対象としてリスクの高い方々です。

健康な成人に臨床試験を行うのと比べると、超えるべきハードルが2~3個は増えます。

しかし、医学者たちもただ手をこまねいていたわけではありません。

2000年代に入った頃、画期的な薬が開発されました。

それが「パリビズマブ(シナジス)」です。

出典:QLife

これは「ワクチンが作れないならRSウイルスをぶっ〇す抗体を注射すればいいじゃない」という案によるものであり、

実際に早産児や基礎疾患を持つ赤ちゃんにシナジスを注射してみたところ、かなり高い予防効果があることが示されました。



やっぱりシナジスがナンバーワン!やシN1!

と大盛り上がりの小児科学会ですが、それでも無視できない欠点がありました。

ワクチンと異なり、シナジスは「赤ちゃんの免疫システムに覚えさせる」わけではなく「RSウイルスを〇す武器を与えてあげる」だけです。

免疫を覚えさせてあげるなら効果はそこそこ長持ちするのですが、シナジスは1か月もすれば体内からきれいさっぱり消えてしまいます。


RSウイルスは日本だとたいてい冬場に流行していたため、およそ9月~翌年の4月まで月1回くらい注射が必要でした。

シナジスは1回当たり数万円(保険がきいたりきかなかったりします)、それを8回近く打たなければならないので、すさまじく金銭的負担が強い。

毎月小児科に通う手間もバカになりません。

これがまず1つ目の欠点です。

さて、先ほど私は「RSウイルスは冬場に流行していた」と書きましたね。



実はこれ、ここ数年でけっこう状況が変化しておりまして、流行のピークが夏くらいになっていたりして大混乱を巻き起こしています。

そんならシナジス打つ季節を変えないと…今年はいつ打てばええんや…

という事態になりつつあります。これが2つ目の欠点です。


それでもRSウイルスを予防するにはこの手段しか無かったので、

やむを得ず毎月なんとか打っていた…というのが今までの状況でした。

そんな中、ついに!!!

我らがファイザーさんがRSウイルスのワクチンを実用化してくれました!!!

出典:ファイザー

もちろん今回のRSウイルスワクチンはVEDが起こらないことが確認されていますし、

妊婦さんの接種により生後3か月以内での重症化予防効果が81.8%、半年以内でも69.4%にのぼることが実証されています。

日本ではこのRSウイルスワクチンは、妊婦さんや乳児に先駆けて2023年9月より高齢者への接種が承認されました。

こう書くと「また政府の高齢者優遇かよ」という声が聞こえてきそうですが、

上に書いた通り高齢者にとってRSウイルスはインフルエンザ並みのヤバさなので、

ICUに入ったりするリスク(国民皆保険の日本では意識されづらいですが、ICUの入室料ってすんごいです)を考えればトータルで見てペイできると見られているわけですね。



続いて、2024年1月18日に乳児用のRSウイルスワクチンが承認されました。バンザーイ!!!

妊婦さんのワクチン承認は2024年6月くらいになる見通しのようですね。

とはいえ、まだ接種対象者がどうなるのか(全員なのか、早産リスク等がある人だけに限るのか)も判明していませんし、厚生労働省の続報を待ちたいところです。


以上をまとめますと、確かに妊婦さんのワクチンはまだ先の話ですし、ワクチン導入の過渡期であることは間違いありません。

しかし乳児へのワクチン接種は既に承認されていますし、今の時点でもお子様が恩恵に預かることは十分に可能と言って良いでしょう。

ワクチンの供給がうまくいかない場合でもシナジスがありますし、これから先は致命的な状況になることは多くないはずです。

参考文献
厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A」(https://mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html)
ファイザー「アブリスボ🄬筋注用 [組換えRSウイルスワクチン(母子免疫)]製造販売承認を取得」(https://pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2024/2024-01-18-02)
橋本浩一「開発中のRSウイルスワクチン, およびRSウイルス抗体製剤」臨床とウイルス 51(2): 121-126, 2023.



女性のオーガズムの仕組みと妊娠への影響について


実はこちら、胚培養士ぶらす室長からパスを頂いたご質問です。


ぶらす室長に対しては弁護士を立てる気が起きないギリギリの線を攻めた請求書を後日送付するとして、ご質問にお答えしましょう。

要するに「挿入しなくても気持ちよくなるオーガズムって何が起きてるの?」「妊娠に影響しないの?」というご質問ですね。

実はこれ、想像の100倍くらい難しい話なのでございます。

では、女性にとっての性的快感のメカニズムについてお話ししていきましょう。

出典:君のことが大大大大大好きな100人の彼女 4話

その前に揚げ足を取るみたいで恐縮ですが、質問者様の言葉の訂正をば。

「オーガニズム」と書かれていますが、英語では「orgasm」、ドイツ語で「orgasmus」なので、

英語っぽく言うなら「オーガズム」か「オルガズム」、ドイツ語っぽく言うなら「オルガスムス」が近いですね。

たぶん質問者様は「organism(生命、有機)」と混ざっておられる。


このオーガズム(性的絶頂)ですが、男はメカニズムの研究がまあまあ簡単でした。

なんせ勃起やら射精やら、身体要素が判定しやすいので。

ちんちんが勃つということは、ここの血流が増えるからここの筋肉がこうなるはずで、そこに影響する神経の仕組みとしてはこうなってて…

みたいな解明がやりやすかったのです。

出典:テニスの王子様 314話

しかし女性はこれが超難しい。

ちんちん触ってりゃ全ての悩みが解決することに定評のある男と違い、

女性は腟、クリトリス、乳房、その他もろもろ、性的興奮を覚える場所もバラバラです。メンタルにもかなり左右されます。

男と違い、射精という分かりやすい絶頂の指標もありません。

しかも、男の絶頂(射精)は生殖のために必要ですが、女性の絶頂は必ずしも生殖に必要ではありません。

じゃあ何のために女性のオーガズムが存在するの?という、もはや議論は哲学みたいな領域にまで達していました。


そんな中、1905年に精神医学者のフロイト先生が突然こんなことを言い始めました。

フロイト
フロイト

クリトリスでイクのは少女特有の現象である。


フロイト
フロイト

思春期に入ると腟でイクようになるのだ。



このセクハラ魔人は何を言っとるんだという感じですが、当時はわりとこの説がもてはやされました。

フロイト先生的には「ちんちんがあるおかげで女性はイケるのである」「ちんちん万歳」と言いたかったようです。

しかしこの説にこれといった医学的根拠は無く、

今ならどこかの論破王から「それってあなたの感想ですよね?」と言われること間違いなしです。

言うまでもなく、思春期以降であってもクリトリスでイケる女性はごく普通にいらっしゃいますし、

むしろ腟でイク感覚の方がよく分かんねえという方が多いくらいでしょう。

そんなわけでフロイト先生の説はその後100年以上にわたり性医学者の皆さんからフルボッコにされており、

未だに女性の性医学のメカニズムに関する論文が書かれるたびに「フロイトはこう言ってたけど実際は…」みたいな記載があったりします。

アメリカにおけるフェミニストの先駆けであるアン・コートさんに至っては『膣オーガズムの神話』という本を出版し、

「フロイトは女性差別意識が根底にあるからこんなこと言うんだよね」といった感じの記述をしてベストセラーになりました。

要するに死後に炎上させられた格好です。

もうやめて。フロイトのライフは0よ。

出典:遊☆戯☆王 167話

あ、ちなみにフロイトさんはインセクター羽蛾とは比較にならないめちゃめちゃスゲー先生ですので誤解なきよう。

19~20世紀の精神医学の基礎を築いたレベルの人です。

すごい功績残したけどちょっと炎上騒ぎが起きただけです。


その後、1950年にドイツのグレフェンベルグ先生

グレフェンベルグ
グレフェンベルグ

腟の途中らへんに性感帯があるのを発見したぞ!!



という大真面目な論文を書きました。

これがのちに有名になるGスポットです。


さらに1998年、オーストラリアの泌尿器科医であるヘレン・オコンネル先生が革新的な説を発表しました。

オコンネル
オコンネル

クリトリスって外に見えてる部分だけじゃなくて、実際は内側にも大きく存在してるっぽい!


オコンネル
オコンネル

クリトリスの根っこの部分が尿道とか腟壁とかを全部包括しとるぞ!もちろんGスポットも!



要するに、クリトリスもGスポットを含めた腟も、同じ構造・同じ神経が作用していることが発見されたわけですね。

というわけで結論としては、クリトリスでイクのもGスポットでイクのも、大きな視点で見るとどちらもほぼ同じことらしいです。


しかしながら、この説と前後してアメリカのウィップル先生

ウィップル
ウィップル

(脊髄神経を介するクリトリスと違って)腟でイクのは迷走神経を介する別の動きもありそうやで。



という発見をしていたりしますし、

そもそも陰部以外(乳房など)でイク仕組みもよく分かっていません。

要するに、女性のオーガズムについてまだまだ分かってないことは多いのです。

この仕組みを解明するのはこれを読んでいる貴方かもしれないぞ。


なお、オーガズムを感じても、良くも悪くも妊娠には影響しません。

正確に言えば、オーガズムと妊娠率に関する統計学的データ自体が存在しません。

妊活中の性生活はご自由にどうぞ。

参考文献
大川玲子「女性の性反応と性機能障害 研究の歴史と現在」日本性科学会雑誌 27(1): 13-23, 2009.



まとめ

今回の回答まとめは以上となります。

引き続き、マシュマロの回答が溜まってきたら不定期にこのような形でまとめていきますね。

やっきー
やっきー

妊婦さんや女性の皆様の健康に関するご質問だけでなく、マンガ考察のリクエストも大歓迎です。



以下、関連記事です。

前回の妊婦さんからの回答まとめ記事はこちらです。

マシュマロの回答まとめ vol.5「気合いの長文回答編」

妊娠中のインフルエンザ・コロナワクチンに関する解説はこちらです。

結局、妊娠中にコロナやインフルのワクチンは打つべき?(2024年4月改訂)

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【医学の話】『コウノドリ』より 子宮頸がんとHPVワクチンについて考える

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