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マシュマロの回答まとめ vol.4「妊婦さんの疑問 上級編」

やっきー
やっきー

こんにちは!
産婦人科医やっきーです!


私がマシュマロで読者様からのご質問を募集していることはご存知の通りかと思います。

皆様のご質問をまとめて作った記事もいくつか生まれました。

質問箱の回答まとめ vol.2「妊婦さんの疑問編」

質問箱の回答まとめ vol.3「漫画描写で学ぶ医学編」


2022年末に質問箱を開設して11か月で340件、マシュマロに移行してからも30件ほどのご質問を頂きました。

ブログと違って過去の回答を掘り返すのはなかなか難しく、

埋もれさせておくのは惜しい質問・回答もいくつかあります。

そんなわけで、今日は過去の回答の中からいくつかピックアップしてお届けしましょう!

第4弾となる今回は「妊婦さんからの質問 上級編です!



良い産婦人科の見極め方


良いクリニックの見極め方ですが、ネットの意見はいまいち参考になりません。

ああいうのに書き込まれる悪評は、もちろん医師に問題があるパターンも多いですが、患者さん側にも悪意があるパターンもあったりします。

外から見ただけではそれらの区別がつかないため、ネットの評判だけで判断するのは危険です。



ではどうすれば良いか…唯一の正解は、「その地域の総合病院で働いている産婦人科医に評判を聞く」です。

ごめんなさい。

それが出来たら苦労せんわい、最初からその産婦人科医に医療相談するわい、というお気持ちは分かります。

しかし、どう考えてもこれが唯一の正解なのです。

総合病院の産婦人科は、その周辺の産婦人科からの急患や搬送の依頼をしばしば受けます。

この時の依頼内容によって「ここの産婦人科の診断は何だ?何十年産婦人科やってんだこいつ」「この病院未だにこんな昭和の治療やってんのかよもう令和だぞ」「ここの院長が夜中に電話つながらない?またあのキャラの濃いママが居るスナックに飲み行ってやがんな」といった色々なことを考えます。

こうした日々の積み重ねにより、信頼できる産婦人科信頼できない産婦人科に分かれていくのです。



次善の策としては、産婦人科医でなくても良いので誰かその地域のドクターに聞くのも良いでしょう。

他科であっても評判がクソ悪い病院や医者は存在しますので、大凶を避けられる確率は多少上がります。

ちなみに私は妻が出産をした時、妻の実家周辺で想定される中で一番良いと思われる産婦人科に紹介しました。私の姉が出産した病院でもあります。

逆に「あそこだけは死んでも行くな、ていうかあそこ行ったら死ぬという病院もありました。

たぶん、総合病院勤務の産婦人科医なら誰しもこういう病院が存在するはずです。



特定の薬が出回ってないのは何故?


薬の出荷調整に関する話題ですね。

産婦人科だと数年前、帝王切開でよく使う抗菌薬「セファゾリン」が無くなった時はめちゃくちゃ困りました。どうにか他の薬で代用しましたが。

出荷調整の発端は、2020年に起こった某製薬会社の不祥事です。

ある薬に別の薬の成分が混入してしまい、健康被害が出るという事件が起きました。

厚生労働省がこの製薬会社を調査してみると、他の薬についても色々とボロが出てきました。

というわけで、その製薬会社には業務停止命令が下されたのですが、

厚生労働省が他の製薬会社についても立ち入り検査をしてみたところ、

他の会社もそこそこやらかしてることが発覚します。

こうなると、品質がしっかり確認できるまでそれらの薬は使えません。

てなわけで、同じ効果の薬を作っている別の製薬会社が代わりに薬を作らにゃならんのですが、

工場も人員もそんなポンポン増やせるものではありませんし、薬の出荷量を急に増やすのには限界があります。

それでも無理して薬を増やさねばならんので、しわ寄せは他の薬に行きます。

〇〇製薬「薬Aを増やすために、薬Bは置いといてどんどん薬Aを作るぞ!」

◇◇製薬「え!?〇〇製薬が薬Bを作らなくなった!?しゃーない、薬Bをいっぱい作るか…代わりに薬Cと薬Dの生産量を抑えて、と…」

△△製薬「え!?◇◇製薬が薬Cと薬Dを(以下略)」

…といった感じの悪いドミノ倒しが起きたのです。

そこにコロナ渦での流通の停滞や、特定の薬の需要が増えまくった影響でもうてんやわんやです。

ていうかあれから3年経ちましたが未だにてんやわんやです。

これが出荷調整の原因です。

ちなみに発端となった某製薬会社は正式に製薬事業から撤退しています。



サイトメガロウイルスの抗体検査に意味はある?


これはなかなか難しい問題である上、2023年に出た産科ガイドラインでも改訂が行われたところです。

最新の知見をお伝えしましょう。

まず、以前から「先天性サイトメガロウイルス感染症」という存在が知られていました。

サイトメガロウイルスというウイルスは、多くの人が子供のうちに感染するものです。

これは感染しても風邪程度の症状で済むわけですが、サイトメガロウイルスにこれまで感染したことなく大人になる方もそこそこの割合で(20~30%くらい)いらっしゃいます。

そんな方が妊娠中に初めてサイトメガロウイルスに感染すると、赤ちゃんに発達障害や聴覚障害などといった先天的な異常をきたす可能性がある(先天性サイトメガロウイルス感染)ということで、

妊娠初期にサイトメガロウイルスの抗体を計測し、もし抗体を持っていない(今までに感染したことのない)妊婦さんであれば感染対策を入念にしたり、上の子のおむつ処理や食器の共有などをしないように気を付ける、という対策をとるように指導してきました。



従来までは。

実は、最近の研究で分かったこととして、

先天性サイトメガロウイルス感染を発症した妊婦さんの約半分以上「そもそも以前に感染してて抗体も持っているのに、ウイルスが再感染や再活性化することで発症している」という報告がなされました。

…抗体があっても発症するのでは、抗体を測る意味って何だ?ということになりますね。

そもそも以前から「サイトメガロの抗体を測ることに必ずしも意味はないんじゃないか」ということは言われていましたが、
今回のこの報告によりその状況に拍車がかかったと思います。

この報告を受けて、最新の産科ガイドラインでも「サイトメガロの抗体を測る意義って微妙だよね」ということがものすご~~~くぼんやりした表現で書かれています。

実際、妊娠初期に抗体がない⇒妊娠後期に抗体が出現、というケースでは妊娠中の初感染が疑えるので、計測の意義が皆無というわけではありません…が、いまいち意味が無くなったことは確かです。

結論としては、妊活前や妊娠初期にサイトメガロウイルスの抗体を調べるのがダメというわけではありませんが、現在の知見ではあまり意味はないと思います。

サイトメガロの抗体があろうとなかろうと、「手洗いをしっかりする」「子供と食器の共有をしない」「おむつの扱いに気を付ける」という感染対策をしっかりすべきであることに変わりはありませんので、

気にしすぎず、でも感染対策はしっかり押さえておく(インフルやコロナのこともありますし)、というくらいの対応で良いとでしょう。



妻の産婦人科受診に夫が付き添ってもいい?


まずは私の意見を端的に申し上げましょう!

「そんな意見は全く気にしなくて良いので、遠慮なく奥様に付き添って差し上げて下さい」です。

いやまあ、分かるんですよ、その意見も。

産婦人科はデリケートなことを扱う科なので、受診してること自体を知らん男に見られたくない…というのはよく分かります。

しかしながら、病院は患者さんやそのご家族さんのためにあるものです。

奥さんや娘さんが妊娠をしたり何らかの病気になった時に、病院に付き添って詳しい説明を医師から聞きたいと思うのはごく自然なことですし、それを止めるのは余りにも不自然…というか男性差別甚だしいと思います。

一応、男子禁制としている産婦人科もあるらしいので、

そういうところはまあ…郷に入っては何とやらでルールに従うべきかな…と思うのですが、

少なくとも私は「他の患者さんの夫や父親が付き添ってくるのが嫌だ」と言われても、その願いを聞いてあげることはできません。



というわけで、もう一度言いましょう。

そんな意見は全く気にしなくて良いので、遠慮なく奥様に付き添って差し上げて下さい。

その上で、やっぱりどうしても他の患者さんの視線が気になる…というお優しい質問者様のために強いて対策方法を挙げるとするならば、「他の患者さんに全く興味ないよオーラ」を出すのが良いかもしれません。

お子さんがいらっしゃればお子さんの相手をしてあげるのも良いですし、

いらっしゃらなければ奥様と無限にあっちむいてホイでもやっていれば、

「なんか知らん男がいるけど夫婦ですげーイチャイチャしてるしいいか」と思われる可能性もあるかもしれません。



ピルを乱用するのは良くない?


エェー!?!?そんなこと言う先生が居るんですか!?

経口避妊薬は正しく内服すれば極めて高い確率で望まぬ妊娠を避けることができる上、月経のコントロールにも役立つ素晴らしい薬です。

その先生がどういう意図で仰っているのかは分かりませんが、もし性が乱れるからうんぬんとか言っているのであれば、そんな発言を納得する必要は皆無です。

確かに経口避妊薬に医学的なリスクが全くないわけではありませんが、そういうこと言う人はたぶんそこまで考えてないと思います。

性に奔放な人は経口避妊薬があろうが無かろうが奔放ですし、それとこれとは別問題です。

「時代遅れなじーさんだなあ」くらいに思ってあげましょう。

たぶんそういうじーさんは学生時代にモテた経験が皆無だったのでしょう。あとおそらくハゲてると思います。



水痘・帯状疱疹ワクチンについて


水痘(水ぼうそう)のお話ですね。

まずは水痘という病気そのものについて解説しましょう。

水痘はめちゃくちゃ感染力が強いウイルスであり、たいてい子供のうちにかかっています。(2014年からはワクチンの定期接種が始まったので、それ以降に産まれた子供ならあまり心配いりません)

成人年齢だと90%以上の人は罹患したことがあり、抗体を持っているとされています。

そんな水痘ですが一度かかると、水痘ウイルスが体のどこかの神経細胞に潜伏します。

体調を崩したりした時に神経細胞からワッと暴れ出して体の一部にブツブツができたりします。これを「帯状疱疹」と呼びます。



さて、水痘が妊娠に与える影響の話をしましょう。

水痘の抗体を持っていない妊婦さんが水痘にかかると、およそ10人に1人くらい「水痘肺炎」という重い肺炎にかかります。

さらにそのうちの10人に1人くらいが死亡してしまうとされています。

他にも、妊娠初期に水痘にかかると赤ちゃんが「先天性水痘症候群」という先天的な異常をきたす場合があります…

が、こちらは頻度としては1~2%くらいとされています。

頻度と重症度的に怖いのが、出産時に赤ちゃんに水痘ウイルスが感染してしまう「新生児水痘」ですね。

これは30%ほどの確率で発症し、そのうち30%ほどの赤ちゃんが亡くなってしまうとされています。

では、30年前に水痘にかかったという質問者様は現在、水痘への抗体を持っているのでしょうか?

答えは「分かりません」

水痘の抗体はちょっとやそっとでは減りませんし、抗体を持っている方がもう一度水痘のウイルスに触れると再び抗体が産生されます。

つまり、子供のうちに罹患し、以降一度も水痘ウイルスに触れることなく20~30年過ごすくらいの経過を辿らないとなかなか抗体がゼロになるまでには至りません。

しかし結局、抗体の減り具合や水痘ウイルスに触れたかどうかは個人差なので無いとは言い切れません。

とはいえ、水痘の抗体価測定2000~5000円くらいでできますし、気になる場合は調べるのも悪くはないと思います。抗体が無ければワクチンを打つという選択肢も生まれますし。

憂いを少しでも取り除くならば、ついでに風疹の抗体価も調べるのもお勧めです。

なお、水痘がぶり返した状態「帯状疱疹」ではこれらの病気は出現しないとされています。

よって出産時におシモのあたりに帯状疱疹が出てたとしても赤ちゃんへの心配は要りません。(痛いとは思いますが)



妊娠中の自慰について


大丈夫!妊娠中の自慰は全く問題ありません!!!

それどころか(流早産のおそれがある場合や前置胎盤、多胎妊娠などを除き)セックスしても別に構わないくらいです!

ただしコンドーム推奨です。

質問者様の場合、中には触れていらっしゃらないようなのでなお問題なしです。

ちなみに妊娠中のセックスについては以前書いた『NANA』の記事にて詳細を書いております。よろしければご参照下さい。

『NANA』より妊娠中のセックスについて解説する



処女と童貞同士だとHPVに感染しない?


HPVに関して私の10000倍くらいお詳しいAmamino Kurousagi先生のツイートから一部引用しつつお送りします。

HPVというウイルスはどこにでもいるウイルスです。

それこそ家族から感染することもあれば、ものを介して感染することもあります。

家族からの感染の場合、経腟分娩の際にHPVに曝露するのが最大の原因じゃないか?と言われてはいますが現時点では詳細不明です。

というかそもそも、HPVがどこからやってきていつ感染しているのか?という問題については分かってないことがかなり多いです。

結論として、たとえ童貞と処女のカップルであってもHPVが検出されることはあります。

ただ、主な感染経路が性交渉であることには変わりありませんし、ワクチン接種が子宮頸癌の発症率を大きく下げたという統計データは山ほど存在するので、初交前のワクチン接種がお勧めだという事実は揺らぎません。

どんな方であっても適切なタイミングでの接種をお勧めします。

【医学の話】『コウノドリ』より 子宮頸がんとHPVワクチンについて考える



産み分けについて


おっしゃる通り、体外受精で受精卵(胚)の一部を調べて染色体を調べる以外の方法は確実とはいえませんし、

生殖医学会的には産み分け目的で染色体の検査をするのはNG扱いとしています。

そもそも、産み分けの手法は果たして実在するのでしょうか。

……現時点では動物実験ならうまくいってるのがあるかもレベルです。

どこの医学論文をひっくり返してみても、家畜動物(というかほぼウシ)以外の産み分け研究はほとんど進んでいないと言ってもいい状況です。

しかし、なぜかさも産み分け方法が存在するかのように喧伝したり、それを材料に怪しい指導法を宣伝する人間は少なからず存在します。

なぜでしょう。

…………

……不思議だよね!!!!!



民間の臍帯血バンクは必要?


関係各所から謎の襲撃に遭うかもしれませんがお答えしましょう。

まず、臍帯血保存そのものは素晴らしいものなんですよ。

臍帯血の中には「造血幹細胞」という白血球や赤血球などを作り出す元になる細胞が含まれています。

血液の病気「白血病」の治療には、この臍帯血が活かせる可能性があるのです。

白血病の治療というのはちょっと特殊で、抗がん剤や放射線治療により白血病の元となる細胞を根こそぎ死滅させた上で、

新しく正常な白血球を生み出してくれる「造血幹細胞」を移植する必要があります。

この造血幹細胞は誰のでも良いというわけではなく、体質的に適合する(HLAと呼びます)造血幹細胞でなければなりません。

HLAが適合する確率は兄弟や姉妹なら4分の1、親子なら30分の1、それ以外なら数百~数万分の1というかなり狭き門です。

そんな造血幹細胞ですが、日本赤十字社(献血を取り仕切っているところ)に臍帯血を提供すれば、どこかの誰かが白血病になった時にその命を救える可能性があります。

こちらは献血と同じようなものなので、自己負担が全くかかりません。

採取や保管の手順がちょっと特殊なので、対応している産婦人科は限られますが…


そして、本題はここからですね。

「臍帯血に含まれている細胞をうまいこと使えば自閉症や脳性まひなどの治療にも応用できるんじゃないか?」という研究が存在します。

民間の臍帯血バンク業者は、「もし産まれてくる赤ちゃんがこれらの病気になった時に治療に役立つかもしれませんよ」「保管料がちょっと高いけど臍帯血は産まれた直後しか採取できませんよ」という文句で臍帯血保存を宣伝しています。

…とはいえ、ぶっちゃけ現時点では全く実用化されていません。

確かに研究は存在しますが、まだまだ研究中の段階です。

実用化がいつになるのかは分かりません。明日かもしれないし、数十年後かもしれません。

いや明日ってことはないか。

そこまで研究が進んでいるとしたら流石に私の耳にも届いているはずですし、そういった論文や研究ももっと出てきているでしょう。

つまり、民間の臍帯血バンクが役に立つ場面というのは、

「数年以内に」

「臍帯血が何らかの病気を治す方法が見つかり」

「子どもがその病気に罹患する」

という3つの条件を満たす場合に限られるわけです。

そのために決して安くないお金を支払う必要があるかというと…

………個人の判断でお願いします。

なお、私の息子が生まれた時はしてません。

「造血幹細胞移植」を目的とした、日本赤十字社が行っている臍帯血バンクに関しては大賛成の立場です。

対応している病院が少ないのが欠点ではありますが…


ちなみに私は臍帯血バンクの業者の方と数回、直接お話をしたことがありますが、

パリッとした綺麗なスーツに身を包み、臍帯血保存を依頼した患者さんのためだけに遠方からやってきて、やたらでっかい採血用の見本キットを置いて行ってくれました。

このお金どこから出てるんでしょうね。



胎盤を食べるメリットは?


いわゆる「胎盤食(プラセントファジー)」に関する話ですね。

胎盤食を勧めてる人によると、胎盤は栄養たっぷりだから食べると産後の体に良いとか。

ホルモンが補充できて産後うつが減るとか。

プラセンタが入ってるから何とかかんとか。

ヒト以外の哺乳類はたいてい胎盤を食べてるからヒトも食べるべきだとか何とか。

しかもそれが海外のセレブがやってるのを見て私もやってみよ!という人がいるとか何とか。

実に突っ込みどころ満載です。

産後に栄養を摂りたけりゃ普通にごはん食べればいいと思いますし、

その胎盤は母体から出てきた物なのでそれまで母体に存在しなかったステキ成分が突然現れることなんて有り得ませんし、

産後うつはホルモンの影響だけでなく赤ちゃんを産んだことによる環境の変化など色々な要因が絡みますし、

ウサギやチンパンジーは自分のうんこを食べる習性があるけど「同じ哺乳類だから」という理由でこの人たちはうんこ食うんかいな?


とはいえこんな野暮な突っ込みを入れてても仕方がないので、医者らしく論文をひとつ引いてみましょう。

2015年に執筆された、こちらの論文です。

『Placentophagy: Therapeutic Miracle or Myth?』(Cynthia W Coyle et al. Arch Womens Ment Health. 2015 Oct; 18(5): 673-680.)

この論文では「胎盤を食べることに意味あるの?」ということを調べるため、

1950年~2014年における胎盤食に関する論文や研究を計49本レビューするという内容をとっています。かなり信頼性の高い手法です。

この論文の結論部分を簡単に意訳してお届けすると、こんな感じになります。

「痛み止めになるって噂があったけど根拠は見つからんかったわ」

「産後のホルモンが改善するって証拠はひとつも出なかったぞ」

「ていうか動物実験レベルでもホルモンの影響なかったぞ」

「産後うつ病が改善するって根拠もぜんぜん見つからんかった」

「今後のさらなる研究に期待しよう(よくある当たり障りのない結語)」

…うん、なにひとつポジティブな結論が出ていませんね。

というわけで私からのアドバイスはこちら。

もし私の妻が胎盤食うかどうか迷ってたら「やめとけ」と言います。



硬膜外麻酔と自閉症に関連がある?


誰だそんなこと言う奴は!?

と思って調べたところ、どうやら2020年にJAMA(米国医師会雑誌)で発表された「硬膜外麻酔と自閉症スペクトラムに関連性があるかも!」という報告が言い出しっぺのようですね。

(『Association Between Epidural Analgesia During Labor and Risk of Autism Spectrum Disorders in Offspring』Chunyuan Qiu, MD, MS et al. JAMA Pediatr. 2020 Dec; 174(12): 1168–1175.)



硬膜外麻酔とは、無痛分娩や帝王切開の時によく用いられる麻酔法ですね。

母体の背中の神経に直接麻酔薬を作用させるので、赤ちゃんに麻酔薬が届きにくく、適切に使用すれば安全性の高い手法です。



…で、これを読んだ私の感想としては、

現場を知らない人間が数字で遊んだだけザ・クソ論文です。

私が査読者なら破り捨ててます。


どうクソ論文なのか、中身を読んでみます。

経腟分娩を行った14万人以上の赤ちゃんを対象に調査を行い、

硬膜外麻酔で産まれた赤ちゃんは1.9%が、硬膜外麻酔なしで産まれた赤ちゃんは1.3%が自閉症スペクトラムだったと。

いくつかの交絡因子を調整しても有意なリスクだった、というのが著者の主張のようです。

1.9%と1.3%?

他の交絡因子の選び方ひとつでどうにでも埋まりそうな誤差じゃね?

この著者が言うには「硬膜外麻酔の薬がなんかいろいろ回りまわって赤ちゃんに影響与えてるかもね?」とのこと。

硬膜外麻酔薬がどれだけ少量かつ母体血中に回りにくいものか知らんのかこいつは?

しかも、こんな大々的な主張をぶち上げておきながら麻酔薬の総投与量や追加投与(ボーラス)に関しては検討されておらず。もうどこから手を付けていいやら。



そして案の定、直後に猛烈なツッコミが入りました。

弘前大学の教授児童精神医学の第一人者でもある斉藤先生から苦言を呈する内容の論文が出ています。

(『Concerns for labor analgesia and autism spectrum disorders』Manabu Saito et al. J Anesth. 2021; 35(2): 319–320.)



要約すると、

「他の危険因子を考慮できてないよね?」

「そもそも自閉症の原因の大部分は遺伝的要因ってのが分かってきてるだろ?硬膜外麻酔だけ調べて意味あんの?」

「自閉症だけ調べてるけどADHDについて触れてない時点で児童精神医学的には意味ないんだけど」

といった感じの内容が非常に丁寧に書かれていますが、ハチャメチャにお怒りなのが伝わってきます。

なおその後、合計百万人規模の赤ちゃんを対象としたアメリカ・カナダ・デンマークにおける5つの研究のメタアナリシスが行われ、

「硬膜外麻酔と自閉症を関連付ける根拠は無い」と結論付けられました。

(『Labor epidural analgesia and risk of autism Spectrum disorders in offspring: A systematic review and meta-analysis』Ling-ling Fang et al. Front Pediatr. 2022; 10: 965205.)



というわけで、気にする必要なしです。

安心して硬膜外麻酔を受けて頂ければと思います。


……ここまでフルボッコにされたなら論文を撤回すればいいのに、なぜか最初にわけわからんことを言い出した奴が言い訳の論文を書いたようです。

(『Association of Labor Epidural Analgesia, Oxytocin Exposure, and Risk of Autism Spectrum Disorders in Children』Chunyuan Qiu, MD. JAMA Netw Open. 2023;6(7):e2324630.)



中身はというと、「前は2008~2015年に産まれた赤ちゃんを対象にしてたけど、もっと精度を上げるために2016年と2017年の赤ちゃんも対象にしたぜ!」「やっぱり有意差あったぜ!」とのこと。



なるほど。

最初の論文をクソレベル100とするならば、この論文のクソレベルは10000くらいですね。

ざっと読んだだけでも、

・8年間の研究に2年足しただけって、老舗のウナギのタレかよ

・斉藤先生のご指摘が完全放置されている

・やっぱり投与量を考慮してない



と、実に突っ込みどころ満載です。

これを読んだ私は谷沢のビデオを観た時の安西先生と同じ感想を抱きました。

出典:SLAM DUNK 189話


顕微授精と自閉症に関連がある?


いちおうリンクにモザイクかけましたが、なかなかエキセントリックがクリニックがあったもんですね。

顕微授精の赤ちゃんには自閉症のリスクがあるとする論文を、

とある東京の不妊治療クリニックが紹介しているということですね。

なかなか香ばしい匂いが漂ってきましたが、読み進めてみましょう。

この先生は、過去に発表された「顕微授精は自閉症のリスクを高める」という報告を2つ紹介しているようです。

一応、紹介されている論文以外にも同様の研究がないかいくつか調べてみましたが、

私見としては「統計的には妥当性がある可能性があるが、結論を出すには急ぎすぎ」です。

というのも、「顕微授精そのもの」が良くないのか、「顕微授精の適応になる精子に自閉症と関連する何らかの問題がある」のか、「顕微授精の適応になるご夫婦の年齢が比較的高いせい」なのか。

はたまた、「顕微授精を行う女性は比較的高年齢の傾向があるので妊娠合併症が多くなり、結果として自閉症のリスクが上がる」のか。

根本的な問題として、自閉症の診断は確かなのか。

いずれの論文も、こうした問題に対する検討が不十分であると言わざるを得ません。

自閉症の診断やリスクに関する検討はもっと慎重に行われて然るべきです。

前述した斉藤先生の「そもそも自閉症の原因の大部分が遺伝的要因であることが既に分かっているが、それと関連付ける証拠が薄い」というご意見もありますし。



…まあ、ここまでならまだ良いでしょう。

「こういう報告もある」という紹介だけで済むなら、まだね。

問題は、質問者様がご紹介された某クリニックが謳っている「〇〇メソッド」です。

どうやらこのクリニックでは、「顕微授精の安全性が確立されていないので、顕微授精なしで体外受精をする」という〇〇メソッドなる手法を推奨されているようですね。

(私なら医学的根拠の確立されてないオリジナルの治療法に自分の名前を付けて「やっきーメソッド」とか恥ずかしくて言えませんが)

このクリニックのホームページを色々読んでいると、衝撃の文言が書いてありました。

「全額自費診療」

「欧米型診療スタイル」

「会員制診療クリニック」

だそうです。

欧米型診療スタイルの意味はさっぱり分かりませんが、なんかそういうことらしいです。

様々な方々の努力が結実し、ようやく去年から保険で不妊治療が受けられるようになったこのご時世に、全額自費診療とな。

お母ちゃん、東京は怖えところだっぺ。

他のページにも中々のことが書いてありました。要約すると、

「顕微授精を受ける精子はDNAに傷が付いている可能性がある」

「安易な顕微授精という固定概念から脱却したのが〇〇メソッドである」

「私が独自に開発した沈降平衡法によって、DNAが損傷した精子を除外することができるのである!」←!?

「この次世代の不妊治療として【人工卵管法】を提供します!」

だそうです。

顕微授精と自閉症の関連性について紹介したページでは「因果関係が明白になっていません」とか書いておきながら、

その因果関係の証明をすっ飛ばしてDNAの損傷した精子の分離まで成功させたということで、いやあ凄すぎますね。(棒)

とりあえずPubMedやメディカルオンラインで「〇〇メソッド」「人工卵管法」で検索しても何一つヒットしなかったので、この先生には一刻も早くその手法を論文化してほしいと切に願います。

生殖医療界に革命が起きること間違いなしやで。

ちなみに【人工卵管法】というオリジナルスーパー不妊治療をやっているのは多分このクリニックだけなので、

どんなクリニックか怖いもの見たさで気になるという方は「人工卵管法 東京」とかで検索してみると良いかもしれません。

季節外れの肝試しが楽しめます。


…そして、ここからはちょっと邪推も含まれます。

このよーわからん謎の不妊治療の成績については特に記載がありませんでしたが、【人工卵管法】によって得られる受精卵はそう多くないと思います。

なぜなら、本来なら顕微授精が必要となる方にまでこの治療をやっているわけですから。

ということは、必然的に採卵の回数も増えますし、精子を【人工卵管法】で選別する回数も増えます。体外受精の回数ももちろん増えます。

この過程が全額自費診療になるということですね。(こんなもんに保険が通るわけありませんが)



もう一度言います。

この過程が全額自費診療になります。

通常の不妊治療より(おそらく)長い期間にわたり、です。

あとはご想像にお任せします。



シロクマは医師免許を取れる?


医師法第四条「次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。」の項目をお調べ頂ければ分かりますが、

「シロクマに医師免許を与えてはならない」とはどこにも記載されていません。

よってシロクマも医師免許を取れます。



まとめ

今回の質問箱まとめは以上となります。

引き続き、マシュマロの回答が溜まってきたら不定期にこのような形でまとめていきますね。

やっきー
やっきー

妊婦さんや女性の皆様の健康に関するご質問だけでなく、マンガ考察のリクエストも大歓迎です。



以下、関連記事です。

前回の妊婦さんからの回答まとめ記事はこちらです。

質問箱の回答まとめ vol.2「妊婦さんの疑問編」

帝王切開の麻酔についてはこちらでまとめています。

『麻酔科医ハナ』より帝王切開の麻酔について解説する

無痛分娩を否定する自然派医師…うっ頭が…

漫画界最凶最悪の産婦人科医、『美味しんぼ』西浜タエについて考える

2 COMMENTS

匿名

民間の臍帯血バンクについて質問した者です。
やっきー先生、ご回答いただきありがとうございます。先生のご意見を踏まえて判断したいと思います。
本来医療に関する質問は自分の主治医にするものだと思いますし、自分の体の今の症状に関してはそうするようにしているのですが、臍帯血バンクのような質問は「病院と提携しているのなら、会社からお金をもらっているかもしれないから率直な意見を聞けないのでは」と考えてしまい(邪推ですが……)、質問しにくかったので先生のご意見を伺うことができて非常にありがたかったです。

新型コロナの流行後、医療デマなど信用できない情報がネット上に散見され、素人である自分が医療知識を調べたくても「そもそもこの発信者は信用できるのか?」の段階から調べなければならず、正しい情報にアクセスする難しさをいつも感じているので、やっきー先生のような方の存在はとてもありがたいです。

また、先生は伝え方にもとても配慮されている印象で、質問者が萎縮しないような言い方で、的確に聞きたいことを回答してくださっているので、本業でもさぞ人気の先生なんだろうな……と思います。

今後も応援しております!
質問回答以外の漫画考察などもいつも面白いので楽しみにしております。
お忙しいと思いますが、お身体に気をつけてください。

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